「カスハラ対策が義務化される」と聞いても、施行を前に「結局、自社は何を・いつまでに・どこまでやればよいのか」と悩む実務担当者は少なくありません。本記事では、施行日規程やマニュアルを作成する際は、厚生労働省が公開する対策マニュアルやリーフレット等の資料も参考になります。・対象範囲・義務化される5つの措置・準備手順までを、厚生労働省などの一次情報をもとに実務目線で整理します。
カスハラ対策の基本については「カスハラ対策とは?義務化の内容・具体例・5つの対応手順を解説」の記事をご覧ください。
この記事でわかること
- カスハラ対策義務化はいつから始まり、何が義務になるのか
- 自社(中小企業・個人事業主・BtoB)が対象になるのか
- 企業が講ずべき5つの措置と、実務で作るべき成果物
- 違反した場合の行政・民事リスクの違い
- 施行日までの準備手順・90日プラン・編集部独自チェックリスト
カスハラ対策義務化とは、顧客・取引先・施設利用者などからの社会通念上許容される範囲を超えた言動から従業員を守るため、企業に方針・相談体制・対応フロー・再発防止策の整備を法的に求める制度です。2026年10月1日から、労働者を雇用するすべての事業主に対し、カスハラ防止のための雇用管理上必要な措置が義務化されます。
カスハラ対策実務ガイド編集部の結論
編集部では、2026年10月1日までに最低限そろえるべきものは「方針文書・相談窓口・対応フロー・記録様式・研修」の5点だと考えます。まず着手すべきは、現場ヒアリングと過去の相談記録の棚卸しです。ここで自社のリスクの所在が見えます。中小企業は、完璧な制度設計よりも「現場が迷わず相談・報告できる状態」を優先するのが現実的です。また、既存のパワハラ規程への追記だけで終わらせず、出入り禁止・警察や弁護士との連携といった社外の加害者への対応手順まで明文化しておく必要があります。なお本記事の編集部独自整理は、厚生労働省・政府広報オンライン等の公的情報をもとに、人事・総務・店舗管理・コールセンター運営で使いやすい形へ再構成したものです。
この記事の編集者

カスハラ対策実務ガイド編集部
カスハラ対策実務ガイドは、企業・店舗・現場担当者に向けて、カスタマーハラスメント対策に役立つ実務情報を発信するWebメディアです。編集部では、カスハラの基礎知識、社内体制づくり、従業員を守る対応手順、マニュアル整備のポイントなどを、現場で活用しやすい形でわかりやすくお届けしています。
カスハラ対策義務化とは|施行日と法改正の全体像

まずは全体像から押さえます。義務化がいつ始まり、どの法律と指針に支えられ、これまでの対応と何が変わるのかを順に確認します。
義務化はいつから始まるのか
結論から言うと、カスハラ対策の義務化は2026年10月1日に施行されます。根拠となるのは、改正された労働施策総合推進法(正式名称は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」)です。改正法(令和7年法律第63号)は2025年6月4日に国会で可決・成立し、同年6月11日に公布されました。公布から施行まで一定の準備期間が設けられているため、施行日から逆算して進めることが大切です。
根拠となる法律と指針の関係
この義務化は、「法律」と「指針」の二層構造で理解すると整理しやすくなります。法律は対策を義務付ける枠組みそのものを定め、企業が実際に「何をどこまでやるか」という具体的な中身は、厚生労働省の指針が示します。その指針が、2026年2月26日に告示された「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)です。改正法や指針の全体像は、厚生労働省の「職場におけるハラスメントの防止のために」のページにまとめられています。準備にあたっては、この指針が事実上の手引きになります。
なお、国の義務化とは別に、東京都・北海道・群馬県など一部自治体では、独自にカスハラ防止条例を制定しています。自治体ごとの条例一覧、罰則の有無、国の義務化との違いは、カスハラ条例とは?自治体一覧・罰則・義務化との違いで詳しく整理しています。
特に都内に本社・支店・店舗・コールセンターなどの顧客接点がある企業は、国の義務化だけでなく東京都条例への対応も先に確認しておく必要があります。東京都条例の対象範囲、罰則の有無、企業が整えるべき5ステップは、東京都カスハラ条例の記事で詳しく解説しています。
努力義務から措置義務に変わる意味
これまでのカスハラ対応は、企業マニュアルや自主的な取り組みといった「望ましい対応」の位置づけにとどまっていました。今回の改正で、これが雇用管理上の措置義務へと格上げされます。措置義務とは、すでにパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントなどで企業に課されているものと同じ枠組みです。「やった方がよい」から「やらなければならない」へと、対応の位置づけそのものが変わる点が最大のポイントです。対応が不十分であれば、行政から指導等を受ける対象になります。
カスハラ対策義務化の前に押さえるべきカスハラの定義

義務の中身に入る前に、そもそも何が「カスハラ」なのかを確認します。定義を共有しておくことが、方針づくりや現場の線引きの土台になります。
カスハラに該当する3つの要件
厚生労働省の「あかるい職場応援団」や政府広報では、カスハラを次の3つの要素で整理しています。この3つをすべて満たすものが、対策の対象となるカスハラです。
- <①顧客等の言動である>:顧客・取引先・施設利用者など、事業に関係する者による言動である
- <②範囲を超える>:業務の性質や状況に照らして、社会通念上許容される範囲を超えている
- <③就業環境を害する>:その結果、労働者の就業環境が害される
逆に言えば、この3要件のいずれかを欠くものは、ただちにカスハラとして扱われるわけではありません。だからこそ、要件を正しく共有しておくことが現場の判断のぶれを防ぎます。
正当なクレームとカスハラの違い
実務で最も迷うのが、正当なクレームとカスハラの境目です。判断の軸は「要求内容の妥当性」と「手段・態様の相当性」の2つです。商品やサービスへの指摘そのものが正当であっても、暴言を浴びせる、長時間拘束する、土下座を強要するなど、伝え方が社会通念上相当な範囲を超えていればカスハラに当たり得ます。一方で、要求内容も伝え方も妥当であれば、それは正当な申入れです。「クレーム=カスハラ」ではない、という前提を社内で共有しておくことが、対策の出発点になります。
以下は、厚労省の定義をもとに、カスハラ対策実務ガイド編集部が実務判断用に整理したものです。最終的な判断は状況を総合考慮するため、現場での目安としてご活用ください。
| 要求内容 | 伝え方(手段・態様) | 実務上の見立て |
|---|---|---|
| 妥当 | 妥当 | 正当なクレーム。真摯に対応する |
| 妥当 | 暴言・長時間拘束など不相当 | カスハラになり得る。伝え方の問題として対応する |
| 不当 | 威圧的・攻撃的 | カスハラに該当しやすい。対処方針に沿って対応する |
| 不当 | 穏当 | 内容を確認しつつ、必要に応じて対応範囲を制限する |
義務化対応では、正当なクレームまでカスハラ扱いしないための線引きが重要です。判断に迷う具体例や5つの判断基準は、別記事「カスハラとクレームの違いとは?」で詳しく整理しています。
電話・SNS・取引先からの言動も対象になり得る
カスハラは、店頭での対面のやり取りだけを指すものではありません。指針では、対象となる場面が幅広く想定されています。
- <BtoBも対象>:一般消費者だけでなく取引先の担当者による言動も含まれ得る
- <対面以外も対象>:電話やSNSなどインターネット上の言動も含まれ得る
- <継続・執拗な言動>:同様の要求やメールを繰り返す行為も問題になり得る
このため、対面接客が少ない業種であっても「自社には縁がない」とは言い切れません。自社にどんな接点があるかを踏まえて備える必要があります。
カスハラ対策義務化の対象になる企業の範囲
「うちの会社は対象なのか」は、多くの担当者が最初に確認したい点です。規模や業種で線引きされるのかを見ていきます。
中小企業・個人事業主を含む全事業主が対象
結論として、対象は労働者を雇用するすべての事業主です。労働者を1人でも雇っていれば対象となり、企業規模・業種・法人形態による適用除外はありません。法人だけでなく、人を雇っている個人事業主も含まれます。注意したいのは、パワハラ防止措置の義務化と異なり、中小企業向けの経過措置(猶予期間)が用意されていない点です。「うちは小さいから関係ない」という認識は誤りで、すべての対象事業主が同じ2026年10月1日のラインに立ちます。
対面しない業種やBtoB企業も無関係ではない
前項の定義で見たとおり、カスハラの相手方には取引先の担当者も含まれ、対面以外の言動も対象になり得ます。つまり、顧客と直接対面しない業種であっても無縁ではありません。たとえば、取引先からの威圧的な要求や、ネット上での誹謗中傷といった形で、BtoB企業や対面接客の少ない職場にもカスハラは起こり得ます。自社の従業員がどのような相手と、どのような手段で接しているかを棚卸しし、リスクのある接点を把握しておくことが出発点になります。
特にBtoB企業では、取引停止や売上への影響を恐れ、営業担当者が契約外の要求や威圧的な言動を一人で抱え込みやすくなります。取引先から被害を受けた場合の記録・社内共有・申し入れ・取引判断の流れは、BtoB企業の取引先カスハラ対策で確認できます。
カスハラ対策義務化で企業が講ずべき5つの措置

ここからが本題です。厚労省指針が求める措置を5つに整理し、それぞれ「何を整備するか」を対応例とともに見ていきます。
措置1|方針の明確化と従業員への周知
最初の土台が、会社としての方針をはっきりさせ、従業員に伝えることです。前章で確認したカスハラの定義と「正当なクレームとの線引き」を踏まえ、自社としてどう対応するかを明文化します。
- <方針の明確化>:カスハラには毅然と対応し従業員を守る旨を定める
- <トップメッセージ>:経営層の姿勢として広く社内に発信する
- <規程・マニュアル化>:対応規程や対処方法のマニュアルを作成する
- <周知・啓発>:研修や社内資料を通じて全従業員に伝える
規程やマニュアルを作成する際は、厚生労働省が公開する対策マニュアルやリーフレット等の資料も参考になります。
まず社内向けの方針文書やホームページ掲載用の文面を作る場合は、カスハラ社内方針の例文を参考にしてください。
マニュアルの作り方については下記の記事も合わせてご覧ください。
カスハラ対応マニュアルの作り方を解説!義務化に備える5ステップと必須項目・ひな形
措置2|相談に応じる窓口と体制の整備
従業員が困ったときに声を上げられる窓口を用意することも必須です。相談窓口を定めて従業員に周知し、内容や状況に応じて柔軟に対応できる体制を整えます。
- <窓口の設置>:担当者を定めるか、外部機関に対応を委託する
- <連携の仕組み>:窓口と関係部門が連携できる体制にする
- <広く受ける>:該当性の判断が難しい段階の相談も受け付ける
相談窓口の担当者・受付方法・社内外の連携先を具体化する手順は、「カスハラ相談窓口の作り方と社外の相談先」で詳しく解説しています。
措置3|事案発生時の迅速かつ適切な対応
実際にカスハラが起きたときに、後手に回らないための備えです。相談の申出があったら、事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害を受けた従業員への配慮を速やかに行います。
- <事実確認>:相談者・周囲・必要に応じ行為者から事実関係を聴取する
- <被害者配慮>:担当変更や引き離し、メンタル不調への相談対応を行う
- <犯罪該当時>:暴行・脅迫などは警察へ通報する
- <再発防止>:対応経緯を記録し、職場環境の改善につなげる
発生時に現場が何を確認すべきかを具体化する場合は、カスハラチェックリストの初動対応チェックリストをもとに、自社の報告・記録フローへ落とし込むと実務化しやすくなります。
措置4|悪質なカスハラへの対処方針と抑止体制の整備
悪質な行為を繰り返させないための「抑止」も措置の一つです。特に悪質と考えられる言動への対処方針をあらかじめ定め、従業員に周知し、その方針を実行できる体制を整えておきます。
- <対処方針の明確化>:警告文の発出や出入り禁止などの方針を定めておく
- <法的手段の検討>:必要に応じ仮処分命令の申立て等を視野に入れる
- <体制整備>:関係部門が連携して対処できる仕組みをつくる
措置5|プライバシー保護と不利益取扱いの禁止
5つ目は、1〜4の措置を講じる際に「併せて」守るべきものです。相談者が安心して声を上げられる前提を整える措置だと考えるとわかりやすいでしょう。
- <プライバシー保護>:性的指向やジェンダーアイデンティティ等の機微情報を守る
- <不利益取扱いの禁止>:相談や事実確認への協力を理由に解雇等をしない
- <規程への明記>:上記を就業規則等に定め、従業員に周知する
5つの措置を「実務上、何を作ればよいか」に置き換えると、準備が一気に具体的になります。下表は、措置ごとに作成すべき成果物を編集部が整理したものです。すべてを一度に完成させる必要はありませんが、「作るもの」の一覧を持っておくと抜け漏れを防げます。
| 措置 | 実務で作るもの | 具体例 |
|---|---|---|
| 方針の明確化と周知 | 基本方針・トップメッセージ | 社内掲示文、従業員向け通知 |
| 相談体制の整備 | 相談窓口・受付ルール | メール窓口、外部相談先、相談受付票 |
| 事後対応 | 対応フロー・記録様式 | 初動対応表、事案記録シート |
| 抑止体制 | 悪質事案への対処方針 | 警告文、入店拒否基準、警察相談基準 |
| プライバシー保護等 | 情報管理ルール | 相談者情報の取扱い、共有範囲の制限 |
カスハラ対策義務化に違反した場合のリスクと周辺ルール

対応を怠るとどうなるのか。刑事罰・行政措置・過料・民事責任は性質がまったく異なるため、混同せずに押さえておく必要があります。
罰則はなくても行政指導・勧告の対象になる
まず押さえたいのは、措置義務に違反したこと自体に対する直接の刑事罰(懲役・罰金)は設けられていないという点です。ただし「罰則がない=放置してよい」ではありません。措置義務に違反した事業主は、厚生労働大臣による報告徴求、助言、指導、勧告の対象となり、勧告に従わなかった場合には企業名が公表される可能性があります。「罰則=刑事罰はない/行政の指導・公表はある/民事の安全配慮義務リスクは別」という3層を混同しないことが重要です。
編集部の補足|過料について
厚生労働大臣から報告を求められたにもかかわらず報告をしない、または虚偽の報告をした場合には、20万円以下の過料の対象となる可能性があります(改正労働施策総合推進法)。措置義務違反そのものへの刑事罰とは別の論点として押さえておきましょう。
安全配慮義務違反として民事責任を問われる
行政上のリスクとは別に、民事上の責任も残ります。これは義務化の有無とは独立した、従来からある論点です。企業は労働契約法第5条に基づき、従業員の安全に配慮する義務(安全配慮義務)を負っています。カスハラを放置した結果、従業員がメンタル不調に陥り休職・退職に至ったり、労災と認定されたりした場合には、この安全配慮義務違反として損害賠償を請求されるリスクがあります。行政リスクと民事リスクは別物であり、両方に目配りが必要です。
先行する自治体のカスハラ防止条例との関係
東京都・北海道・群馬県では、改正法に先行して2025年4月1日にカスハラ防止条例が施行されています。両者は役割分担の関係にあり、性質が異なります。
| 観点 | 先行する自治体条例 | 改正労働施策総合推進法 |
|---|---|---|
| 主な性質 | 事業者への努力義務が中心 | 事業主への措置義務 |
| 対象 | その自治体内の事業者・就業者・顧客等 | 労働者を雇用する全事業主 |
| 罰則 | 加害者への直接の罰則なし | 措置義務違反への刑事罰なし/行政の指導・公表あり |
| 施行 | 2025年4月1日 | 2026年10月1日 |
条例が施行されている地域の企業は、条例と改正法の両方を踏まえた対応が必要になります。
カスハラ対策義務化に向けて今から進める準備の手順
ここでは「いつ・どの順番で動くか」を、施行日から逆算した手順とスケジュールで示します。まず、施行日までの大まかな流れを一覧で確認しましょう。
| 時期 | やること | 主な成果物 |
|---|---|---|
| まず着手 | 発生状況の把握 | 相談記録の棚卸し、現場ヒアリング、アンケート |
| 1〜2か月以内 | 方針・規程の整備 | 基本方針、社内規程、トップメッセージ |
| 3か月以内 | 窓口・報告フロー整備 | 相談窓口、報告フロー、記録様式 |
| 施行前 | 研修・周知 | 研修資料、対応マニュアル、社内周知文 |
| 施行後 | 運用改善 | 事案記録、再発防止策、定期見直し |
期間はあくまで目安ですが、施行日から逆算して着手の順番を決めることが、限られた時間で過不足なく備える近道です。
手順1|自社のカスハラ発生状況を把握する
最初の一歩は、現状を知ることです。どこで・どんなカスハラが起きているかが見えなければ、的を射た方針も窓口も作れません。既存の相談記録の棚卸し、現場担当者へのヒアリング、従業員アンケートなどを通じて、自社の発生状況と現場の困りごとを洗い出します。この把握が、後続の方針づくりや研修内容の土台になります。
手順2|方針文書と社内規程を整える
現状把握を踏まえ、会社としての姿勢を文書化します。経営トップが「カスハラには毅然と対応し、従業員を守る」という方針を打ち出し、それを就業規則やハラスメント防止規程に反映させます。口頭の方針で終わらせず、誰が見ても参照できる文書として残すことが重要です。規程に落とし込むことで、措置1で求められる「方針の明確化」が形になります。
手順3|相談窓口と報告フローを構築する
方針が定まったら、それを動かす仕組みを作ります。社内に相談窓口を置くか外部に委託するかを決め、相談を受けてから誰に・どの順で報告し、どう対応するかという報告フローを明文化します。あわせて、相談内容や対応経緯を残す記録様式を用意しておくと、事後対応や再発防止の際に役立ちます。窓口は「設置した」だけでなく、現場が迷わず使える状態にしておくことが肝心です。
手順4|研修で現場に定着させる
仕組みを作っても、現場が使えなければ意味がありません。最後の手順は、研修による定着です。正当なクレームとカスハラを分ける判断軸、初動でどう動くか、窓口の使い方などを、現場担当者・管理監督者・窓口担当者といった役割別に伝えます。さらに、起きた事案を振り返り、慣行や接客方法の見直しにつなげる再発防止の流れまで含めて回すことで、対策が一過性で終わらず根づいていきます。
外部研修の活用を検討する場合は、カスハラ研修おすすめ7選で、研修会社の特徴・費用相場・選び方を比較できます。
カスハラ対策実務ガイド編集部が考える90日準備プラン
「何から手をつければよいか」で止まらないよう、3か月(90日)で最低限を整えるモデルプランを編集部で組みました。あくまで目安ですが、着手の順番に迷ったときの叩き台としてご活用ください。
| 期間 | やること | 到達イメージ |
|---|---|---|
| 1〜30日目 | 現状把握、過去事案の棚卸し、現場ヒアリング | 自社のリスクと困りごとが見える |
| 31〜60日目 | 方針文書、規程、相談窓口、対応フローを作成 | 「何を・誰に・どう」が文書化される |
| 61〜90日目 | 研修、社内周知、記録様式の運用テスト、改善 | 現場が使える状態まで落ちる |
発生頻度の高い職場は、ヒアリングと初動フローの整備を前倒しすることを推奨します。あわせて、施行前に最低限そろえておきたい書類・体制を点検しておきましょう。
最低限そろえておきたい書類・体制チェックリスト
- 基本方針:カスハラに毅然と対応し従業員を守る旨の文書
- 社内規程:就業規則またはハラスメント防止規程への反映
- 対応マニュアル:発生時の初動・事実確認・被害者配慮の手順
- 相談窓口:内部または外部の窓口と担当者の明確化
- 報告フロー・記録様式:報告経路と事案を残す書式
- 周知・研修:全従業員への周知と役割別の研修
カスハラ対策義務化の準備でつまずきやすい実務の論点
指針の対応例は豊富ですが、実務では「どう判断するか」で手が止まります。担当者が直面しやすい3つの論点を掘り下げます。
既存のパワハラ規程に統合すべきか独立させるべきか
すでにパワハラ・セクハラ防止規程を持つ企業がまず迷うのが、カスハラをそこに統合するか、独立した規程にするかです。最大の違いは、カスハラは加害者が社外(顧客等)である点にあります。それぞれに一長一短があります。
| 方式 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 既存規程に統合 | ハラスメント対応を一元管理でき、周知もしやすい | 社外加害者への対処(出入禁止等)が条文に馴染みにくい |
| 独立規程として整備 | 顧客対応特有の手順を具体的に書き込める | 規程やマニュアルが増え、運用が分散しやすい |
編集部が推奨する判断基準
どちらを選ぶか迷う場合の目安として、編集部では次のように考えることを推奨します。
- 顧客接点が多い業種(店舗・医療・介護・コールセンター等)は独立規程または独立マニュアルが望ましい
- BtoB中心で発生頻度が低い企業は、既存ハラスメント規程への追記+別紙フローでも対応可能である
- 出入り禁止・警察相談・弁護士連携まで想定する企業は、独立マニュアル化が望ましい
- 従業員数が少ない企業は、規程を増やしすぎず、1枚の対応フローと相談窓口の明確化を優先するとよい
病院・クリニックでは、一般的な「顧客対応の打ち切り基準」だけでなく、応招義務、診療継続の可否、紹介・転医、警察・弁護士との連携基準まで含めて整理する必要があります。医療機関が義務化までに整えるべき準備は、病院のカスハラ対策と義務化対応5ステップで詳しく解説しています。
とくに介護施設では、利用者・家族との関係が継続し、すぐにサービス提供を打ち切れない場面も多いため、独立マニュアルだけでなく、重要事項説明書・利用契約書への反映までセットで検討する必要があります。具体的な準備項目は、介護施設のカスハラ義務化対応チェックリストで確認できます。
どこまでやれば法対応として十分かの判断軸
指針には対応例が数多く並ぶため、「全部やらないと違反になるのか」と不安になりがちです。しかし対応例はあくまで例示であり、自社の業態に合わせて選び取るものです。迷ったときは、まず最低ラインとなる次の4点を固めることをおすすめします。
- <方針文書>:毅然と対応し従業員を守る方針を明確化する
- <相談窓口>:相談を受け付ける窓口を設けて周知する
- <対応手順>:発生時の事実確認と被害者配慮の手順を定める
- <周知>:上記を就業規則等に反映し従業員に伝える
この4点を軸に据え、自社のリスクが高い領域から対応例を肉付けしていくと、過不足のない対応に近づきます。
ただし、指針に掲載されている対応例が、すべて一律に義務づけられているわけではありません。法的に必須となる措置と、実務上の推奨事項を正確に切り分けたい場合は、カスハラ指針で企業に求められる5つの措置を確認してください。
現場任せで対策が形骸化する落とし穴
方針や窓口を「置いただけ」で安心してしまうと、現場に運用が根づかず形だけの対策になりがちです。窓口や方針を「置いただけ」で満足せず、現場が実際に使える状態まで落とし込むことが肝心です。
- <使える状態にする>:誰でも窓口にたどり着ける導線を整える
- <初動を型化する>:その場で取る初動対応を手順として共有する
- <振り返りを続ける>:起きた事案を定期的に見直し改善につなげる
カスハラ対策義務化に関するよくある質問
実務担当者から特に多い疑問を、一次情報に基づいて簡潔に回答します。検索されやすい論点を中心にまとめました。
カスハラ対策義務化はいつからですか
2026年10月1日からです。改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)に基づくもので、この日以降、対象となる事業主には雇用管理上の措置義務が課されます。準備には一定の時間がかかるため、施行日から逆算して早めに着手するのが安全です。
中小企業も対象になりますか
対象になります。今回のカスハラ対策には、パワハラ防止措置のような中小企業向けの猶予期間が設けられていません。企業規模にかかわらず、2026年10月1日の施行に向けて準備が必要です。
個人事業主も対象になりますか
人を雇っている個人事業主は対象です。対象は「労働者を雇用するすべての事業主」とされており、法人・個人の別を問いません。労働者を1人でも雇用していれば、義務の対象になると考えられます。
カスハラ対策をしないと罰則はありますか
措置義務に違反したこと自体への直接の刑事罰はありません。ただし、行政から助言・指導・勧告を受け、勧告に従わなければ企業名が公表される可能性があります。また、報告徴求に応じない・虚偽報告をした場合は20万円以下の過料の対象となり得ます。さらに、放置によって従業員に健康被害が生じれば民事上の損害賠償リスクも残ります。
ここからは、実務担当者が迷いやすい点を編集部の視点で補足します。
小規模企業でもカスハラ対応マニュアルは作るべきですか
分量の多い冊子でなくてかまいませんが、用意しておくことを推奨します。編集部では、まず「初動でどう動くか」「誰に報告するか」を1枚にまとめた対応フローから始めるのが現実的だと考えます。完璧さよりも、現場がその場で開ける形にすることを優先するとよいでしょう。
まず何から始めればよいですか
過去の相談記録の棚卸しと、現場担当者へのヒアリングからの着手を推奨します。どこで・どんな言動が起きているかが見えると、方針や研修の内容を自社の実態に合わせて決められます。制度づくりは、その把握のあとに進めると手戻りが少なくなります。
相談記録には何を残せばよいですか
後から事実関係をたどれることが目的です。発生日時・場所・対応者・相手の言動・対応内容・その後の経過を残しておくことを目安として推奨します。相談者のプライバシーに配慮し、共有範囲を限定したうえで保管・廃棄のルールも併せて決めておくと安心です。
現場責任者にどこまで判断させてよいですか
その場の一次対応までを任せ、一定ラインを超えたら上位者へエスカレーションする線引きを事前に決めておくことを推奨します。たとえば暴行・脅迫など犯罪に該当し得る言動や、長時間化・反復するケースは、現場の判断に委ねず本社や専門部署へつなぐ、といった基準をあらかじめ共有しておくと、現場が迷いません。
カスハラ対策実務ガイド独自チェックリスト
- カスハラの定義を社内で共有している
- 正当なクレームとの判断軸を明文化している
- 相談窓口を設置し、従業員に周知している
- 相談受付票・事案記録シートを用意している
- 悪質事案のエスカレーション先を決めている
- 警察・弁護士に相談する基準を決めている
- 相談者のプライバシー保護ルールを定めている
- 相談を理由とした不利益取扱いの禁止を明記している
- 施行前に従業員研修を実施する予定がある
- 施行後に事案を振り返り、運用を見直す体制がある
まとめ:カスハラ対策義務化に計画的に備えよう
カスハラ対策の義務化は2026年10月1日に施行され、労働者を雇用するすべての事業主が対象です。中小企業や個人事業主にも経過措置はありません。まず「顧客等の言動・社会通念上許容される範囲を超える・就業環境を害する」という定義を共有し、厚労省指針が示す5つの措置(方針の明確化、相談体制、事後対応、抑止措置、プライバシー保護と不利益取扱いの禁止)を整えます。措置義務違反への刑事罰はないものの、行政の指導・公表、報告拒否・虚偽報告への過料、安全配慮義務違反としての民事リスクは残ります。施行を待つのではなく、まず現状把握と方針文書づくりから着手しましょう。
参考情報・編集部注記
編集部注記
本記事では、公的情報に基づく制度解説に加え、カスハラ対策実務ガイド編集部が企業の実務担当者向けに、現場で使いやすい判断軸・チェックリスト・準備プランとして再整理しています。施行日・公布日・指針告示日などの事実は一次情報に基づいて記載していますが、個別事案の法的判断については、弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
本記事は、以下の公的情報をもとに作成しています。
- 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」(改正法:令和7年法律第63号、2025年6月11日公布/施行2026年10月1日)
- 厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号、2026年2月26日告示)
- あかるい職場応援団(厚生労働省)「カスタマーハラスメントとは」
- 政府広報オンライン「カスハラとは?法改正により義務化されるカスハラ対策の内容やカスハラ加害者とならないためのポイントをご紹介」
- 東京都「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」(2025年4月1日施行)
- 北海道「北海道カスタマーハラスメント防止条例」(2025年4月1日施行)
- 群馬県「群馬県カスタマーハラスメント防止条例」(2025年4月1日施行)
カスハラ対策実務ガイド 
