カスハラ指針とは?企業に義務づけられる5つの措置と実務対応【2026年10月施行】

2026年(令和8年)10月1日から適用されるカスハラ指針は、告示本文を読んでも「自社で何を作ればよいのか」が見えにくい文書です。本記事では、2026年7月28日時点で公式情報を確認できた厚生労働省の指針本文・運用通達・解釈Q&Aを突き合わせ、指針が求める措置を実務上分かりやすい「5つの柱」に整理したうえで、法的義務と実務上の推奨の区別、自社で用意しておきたい成果物、つまずきやすい誤解までを、そのまま社内検討に使える形でまとめます。なお、義務化制度の全体像を把握したい方は、カスハラ対策義務化で企業がやるべき5つの措置もあわせて確認してください。

この記事でわかること

  • カスハラ指針の法的位置づけ・施行日・対象範囲
  • カスハラに該当する3要件と、正当な申入れとの境界
  • 指針が求める措置(本記事では5つの柱に整理)と、義務・推奨の区別
  • 措置の実施状況を確認するために用意しておきたい成果物の例
  • 厚生労働省Q&Aで示された、実務上つまずきやすい誤解

結論:カスハラ指針(令和8年厚生労働省告示第51号)は2026年10月1日から適用され、措置を講ずる義務を負うのは企業規模・業種を問わずすべての事業主、保護されるのは雇用するすべての労働者です。指針が求める措置を、本記事では実務上分かりやすいよう「5つの柱」に整理して解説します(厚生労働省が5項目として分類しているわけではありません)。施行前に最初に着手したいのは、基本方針・相談窓口・初動対応フローと記録様式・悪質事案の対処方針の4点です。

カスハラ対策実務ガイド編集部の結論
編集部では、指針対応で最も差がつくのは金額でも文書の量でもなく「義務と推奨を切り分けられているか」だと考えます。顧客への方針公表、専用相談窓口の新設、カスハラ専用の就業規則規定は、いずれも有効な取り組みですが一律の義務ではありません。義務の範囲を正確に押さえたうえで、措置を講じたと社内外に説明できる成果物を残す——この2点が、施行日までの実務の芯になります。

なお本記事の「5つの柱」は編集部による整理であり、運用通達では措置内容がさらに細かい項目に分けられています。記事内の表・チェックリスト・成果物の例も、一次情報をもとに編集部が実務向けに再構成したもので、法定の様式ではありません。指針の改正やQ&Aの追加により内容が変わる可能性があるため、最新の情報は必ず厚生労働省の公式ページでご確認ください。個別の事案がカスハラに当たるかどうかの判断や、就業規則の改定などの法的論点については、弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

この記事の編集者

カスハラ対策実務ガイド編集部

カスハラ対策実務ガイド編集部

カスハラ対策実務ガイドは、企業・店舗・現場担当者に向けて、カスタマーハラスメント対策に役立つ実務情報を発信するWebメディアです。編集部では、カスハラの基礎知識、社内体制づくり、従業員を守る対応手順、マニュアル整備のポイントなどを、現場で活用しやすい形でわかりやすくお届けしています。

カスハラ指針とは?施行日・対象企業・条例との違い

まず、カスハラ指針がどのような性格の文書で、いつから誰に適用されるのかを確認します。あわせて、厚生労働省のマニュアルや自治体条例との役割の違いも整理します。指針は全事業主に共通する最低限の水準を示した文書であり、個々の会社にとっての作業リストにはなっていない点が、担当者がつまずく最初のポイントです。

  • 正式名称>:事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)
  • 適用開始>:2026年10月1日
  • 対象・保護対象>:措置義務を負うのは全事業主、保護されるのは雇用するすべての労働者
  • 3要件>:①顧客等の言動 ②社会通念上許容される範囲を超えたもの ③労働者の就業環境が害されるもの(3つすべてを満たすもの)
  • 措置の整理>:本記事では実務上分かりやすいよう「5つの柱」に整理して解説

カスハラ指針は改正労働施策総合推進法の措置義務を具体化した厚生労働省告示

【情報確認日:2026年7月28日】カスハラ指針は、2026年2月26日に令和8年厚生労働省告示第51号として告示された文書です。単独で存在するルールではなく、法律とセットで読む必要があります。

根拠は労働施策総合推進法です。同法第33条第1項がカスハラ防止のために雇用管理上必要な措置を講じることを事業主に義務づけ、同条第4項が、その内容を具体化する指針を厚生労働大臣が定めると規定しています。この改正法は令和7年法律第63号として2025年6月11日に公布されました。

つまり、法律が抽象的な義務を置き、指針がその対応水準を具体化するという二層構造です。法律側には「どこまでやれば足りるか」が書かれていないため、自社の対応が十分かを点検するときは、法律ではなく指針の各項目を基準に見ることになります。

もうひとつ押さえておきたいのが、個別の事案がカスハラに当たるかどうかを行政が代わりに認定してくれるわけではないという点です。厚生労働省が公表した「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」(以下、厚生労働省Q&A)は、事実関係の確認は事業主の義務であり、都道府県労働局が個々の顧客等の言動について該当・非該当の判断を行うことはないと明示しています。指針の定義を踏まえて事実を確認し、判断するのは会社自身です。

行政対応と責任の関係も整理しておきましょう。措置義務違反そのものに直ちに刑事罰が科される制度ではありません。一方で、2026年4月24日付の運用通達は次の枠組みを示しています。

  • 行政指導>:厚生労働大臣または都道府県労働局長による助言・指導・勧告があり得る
  • 公表>:大臣自らの勧告に従わなかった場合は、その旨を公表できる
  • 過料>:報告を求められた際の未報告・虚偽報告には過料の規定がある
  • 紛争解決>:労働者との個別紛争について、労働局長による援助や調停の仕組みがある

これとは別に、安全配慮義務など民事上・労務管理上の責任が問題となることもありますが、その成否は個別事案の事情によります。罰則の有無だけで対応の要否を判断せず、労災や離職・採用への影響まで含めて評価するのが実務的です。

出典:厚生労働省「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第10章の規定等の運用について」(2026年7月28日確認)

施行日は2026年10月1日|対象は全事業主、保護対象は全労働者

適用開始は2026年10月1日で、パワハラ防止措置のときのような中小企業向けの猶予期間はありません。業種による除外もないため、顧客接点が少ない企業も対象です。

ここで区別しておきたいのが、義務を負う側と保護される側です。措置を講ずる義務を負うのは事業主であり、労働者に同じ義務が課されるわけではありません。措置によって保護されるのは、正社員だけでなくパートタイム労働者や契約社員などの非正規雇用労働者を含む、雇用するすべての労働者です。

派遣労働者については、労働者派遣法第47条の4により派遣先も雇用主とみなされるため、派遣元だけでなく派遣先にも指針上の措置が適用されます。派遣先が、派遣労働者から相談があったことを理由に労働者派遣の受入れを拒むといった対応も、不利益取扱いとして禁止されます。

「職場」も自社の店舗や事務所に限られません。業務を遂行する場所であれば通常の勤務場所以外も含まれ、取引先の事務所、打合せに使う飲食店、顧客の自宅、出張先や業務で使う車中も該当します。対面に限らず電話やSNS等インターネット上の言動も対象で、SNSへの投稿を労働者が自宅で確認した場合であっても、職場で生じた事象を契機とし就業環境が害されると認められるときは含まれ得るとされています。

施行準備で最初に着手したい4つの成果物

  • 基本方針>:毅然と対応し労働者を保護する旨を明確化し、全労働者へ周知したもの
  • 相談窓口>:実際に対応できる担当者と連絡先を決め、全労働者へ周知したもの
  • 初動対応フローと記録様式>:現場が迷わず動ける手順と、事実を残す様式
  • 悪質事案の対処方針>:あらかじめ定め、周知し、実行できる体制を整えたもの

これらは最初に着手する項目であり、この4点だけで指針上の措置がすべて完了するわけではありません。プライバシー保護、不利益取扱いの禁止、被害者への配慮、再発防止までを含めた全体像は、後述の5つの柱で確認してください。

国の指針・企業マニュアル・自治体条例の違いを整理

担当者が混乱しやすいのが、国の指針、厚生労働省が公表しているマニュアル、自治体のカスハラ防止条例の関係です。作成主体も法的な位置づけも異なり、どれかひとつを見れば足りるという関係にはありません。

比較項目国のカスハラ指針厚労省の企業マニュアル自治体のカスハラ条例
作成主体厚生労働大臣厚生労働省各自治体
位置づけ法第33条第4項に基づく告示法的拘束力のない参考資料条例(内容は自治体ごとに異なる)
企業に求められること指針が定める措置の実施(義務)取組の進め方の参考条例の定めによる
主な保護対象事業主が雇用する労働者同左(実務上の想定)条例の定めによる
確認の順序まずここから着手手順を具体化する段階で活用事業所所在地の条例を別途確認

自治体条例は、義務・努力義務・禁止規定・罰則の有無が条例ごとに異なります。例として、東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(令和6年10月11日公布、2025年4月1日施行)は、何人もカスハラを行ってはならないと定めたうえで、事業者には防止に取り組む努力義務を課しています。あわせて公表された指針(ガイドライン)は条例第11条に基づいて都が定めたもので、国の告示とは性質が異なります。

北海道や群馬県など他の自治体でも条例が施行されていますが、内容は一律ではありません。国の指針と、自社に適用される自治体条例の両方を確認したうえで社内ルールを設計してください。各自治体の最新情報は公式サイトでご確認ください。制度の違いはカスハラ条例と国の義務化の違いで扱っています。

出典:東京都「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」(2026年7月28日確認)

カスハラに該当する3要件|正当なクレームとの境界

指針はカスハラを3つの要素で定義し、そのすべてを満たすものだけが該当するとしています。ここでは各要件の中身と、正当な申入れとの見分け方を整理します。まずは3要件をチェックリストで確認してください。

  • ①行為の主体:顧客等の言動であること(顧客・取引先・施設利用者やその家族・近隣住民など)
  • ②言動の程度:業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものであること
  • ③結果:労働者の就業環境が害されるものであること

3要件のいずれかを欠く場合、労働施策総合推進法と本指針が定める「職場におけるカスタマーハラスメント」には該当しません。ただし、言動の内容によっては、暴行・脅迫・名誉毀損、セクシュアルハラスメントなど、別の法的・労務上の問題として対応が必要になる場合があります。個別事案の評価は事情により異なるため、判断に迷う場合は弁護士等への確認が必要になることもあります。

実務でつまずくのは②の判断です。判断材料として、確認の視点を整理しました。

確認視点正当な申入れに近い状況カスハラの可能性を検討する状況
要求内容契約や商品・サービスの範囲内商品・サービスと無関係、対応が不可能な内容
手段・態様通常のやり取りの範囲暴言、脅迫、土下座の強要、制止後も続く撮影
継続性・拘束用件が済めば終わる執拗な繰り返し、長時間の居座り・電話
業務への支障ほとんど生じない就業上看過できない程度の支障
安全上の危険なし暴行・器物損壊のおそれ

この表は、厚生労働省指針・厚生労働省Q&Aをもとに編集部が実務向けに整理した目安です。指針は、判断にあたって言動の目的、経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、態様や頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性などを総合的に考慮するのが適当だとしています。回数や対応時間だけで機械的に判断することはできません。企業側の説明や対応が言動の背景になっていなかったかも含めて確認してください。判断の進め方はカスハラと正当なクレームを分ける3つの判断ステップで解説しています。

「顧客等」には取引先・潜在顧客・施設利用者の家族・近隣住民も含まれる

1つ目の要件である「顧客等」は、目の前で商品を買っている人だけを指すのではありません。指針は、事業に関係を有する者として次のような例を挙げています。

  • 商品の購入やサービスの利用をする者、および今後利用する可能性がある潜在的な顧客
  • 事業内容等について問い合わせをする者
  • 取引先の担当者、契約締結に向けた交渉の担当者、今後取引する可能性のある者
  • 施設・サービスの利用者およびその家族、施設の近隣住民

厚生労働省Q&Aは、契約関係が発生していない者からの言動も、今後顧客になることが想定されない近隣住民からの言動も、3要件を満たせば該当すると回答しています。訪問看護や訪問介護のように顧客の自宅で提供するサービスでは、利用者本人だけでなくその家族も含まれます。また「問い合わせをする者」には、自社の広告や関連報道を契機とする問い合わせ、嫌がらせを目的とした問い合わせを行う者も含まれるとされています。

見落とされやすいのが、BtoBの取引先担当者が明確に含まれている点です。カスハラを「小売や飲食のクレーマー対応」と捉えていると、購買部門や委託先とのやり取りで起きている事案が制度の外に置かれてしまいます。この論点は自社が加害者側に立つリスクと直結するため、後半の落とし穴で改めて扱います。

要求内容または手段・態様の一方が許容範囲を超えれば該当し得る

先に誤解を解いておきます。要求内容と伝え方の両方が不当でなければ該当しない、という理解は誤りです。指針は、「言動の内容」と「手段や態様」の一方のみが社会通念上許容される範囲を超える場合でも該当し得ると明記しています。要求そのものは理解できるが伝え方が常軌を逸している場合も、伝え方は穏やかだが要求内容が明らかに不当な場合も、対象になり得るということです。

指針の言葉では、「社会通念上許容される範囲を超えた」とは、顧客等の言動の内容が契約内容からして相当性を欠くもの、または手段や態様が相当でないものを指します。典型例として挙げられているのは次のような言動です。

  • 要求内容が不当>:理由のない要求、商品・サービスと全く関係のない要求、契約で想定するサービスを著しく超える要求、対応が著しく困難または不可能な要求
  • 手段・態様が不当>:暴行や物を投げつける行為、脅迫・侮辱・人格否定・土下座の強要、制止後も続く撮影、大声での威圧、執拗な繰り返し、居座りや長時間の電話による拘束

これらは限定列挙ではなく、個別の事案の状況によって判断が変わり得ます。逆に、例に形が似ていれば直ちに該当するわけでもありません。「無断での撮影」について厚生労働省Q&Aは、店舗内での無断撮影のすべてが直ちにカスハラになるわけではなく、撮影をやめるよう伝えたにもかかわらず撮り続ける行為などを想定していると説明しています。

もうひとつ重要なのが、企業側の説明不足や不適切な対応が言動の原因や背景になっていないかを確認する必要があるという留意点です。判断の前に、自社の商品・サービス・接客に問題がなかったかを一度確認する手順を組み込んでおくと、正当な苦情や改善要求を排除してしまう事故を防げます。ひとつの要素だけで即断せず、業務の性質や経緯も含めて見ることが前提です。

就業環境への支障は平均的な労働者を基準に判断し、1回でも該当し得る

3つ目の要件である「就業環境が害される」とは、その言動により労働者が身体的または精神的な苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。

判断基準は「平均的な労働者の感じ方」です。同様の状況で同じ言動を受けた場合に、社会一般の労働者が看過できない支障を感じるような言動かどうかで見ます。ただしこれは、被害の訴えを軽く扱ってよいという意味ではありません。指針は、言動の頻度や継続性は考慮するとしつつ、強い身体的・精神的苦痛を与える態様であれば1回の言動でも該当し得ると明示しています。

確認の手順としては、相談者の申告を出発点として丁寧に聞き取り、可能な範囲で対応記録、メール、録音・録画、目撃者の証言、業務への影響などを確認します。客観的な資料がそろわない場合でも、聞き取った内容に基づいて必要な対応を検討します。

この点で運用通達が示す視点も重要です。相談者が行為者に対して迎合的な言動をとっていたとしても、その事実だけで被害を単純に否定する理由にはならないとされています。その場をおさめるために謝ってしまうのは、現場ではごく普通の反応だからです。なお録音・録画は義務ではなく実務上の選択肢であり、行う場合は利用目的の特定と通知または公表など、個人情報保護法上の取扱いに注意してください。

出典:厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号/2026年7月28日確認)

カスハラ指針で企業に求められる5つの措置

カスハラ指針で企業に求められる5つの措置

ここからが本記事の中心です。指針が事業主に求める措置を、本記事では実務上分かりやすいよう5つの柱に整理しています(厚生労働省が5項目に分類しているわけではなく、運用通達では措置内容がさらに細かい項目に分けられています)。

なお指針は、すべての成果物について独立した文書や特定の様式を作成することまで一律に求めているわけではありません。既存規程や既存の相談体制を活用できる場合もあります。以下は、措置の実施状況を社内で確認しやすくするための実務例です。

指針上の措置企業に求められること実務上用意しておきたい成果物・証跡の例義務/推奨
①方針等の明確化と周知・啓発方針の明確化と、カスハラの内容・対処内容の周知基本方針、自社業務に即した該当例、対応マニュアル、周知記録義務
②相談体制の整備窓口の設定・周知と、担当者が適切に対応できる体制相談窓口案内、担当者向け対応手順、相談記録義務
③事後の迅速かつ適切な対応事実関係の確認、被害者への配慮、再発防止事実確認記録、被害者対応記録、再発防止の検討記録義務
④抑止のための措置悪質事案への対処方針の策定・周知と体制整備悪質事案の対処方針、判断部門と連携先の一覧義務
⑤プライバシー保護と不利益取扱いの禁止プライバシー保護措置と、不利益取扱い禁止の定め・周知記録の閲覧権限ルール、就業規則等の該当規定、周知文義務
(参考)望ましい取組顧客等への方針の周知、原因・背景の改善、運用の見直し顧客向け掲示物、改善検討の記録、従業員アンケート推奨

右2列は、厚生労働省指針・厚生労働省Q&Aをもとに編集部が実務向けに整理したものです。成果物の例は法定の書式ではありません。自社の整備状況はカスハラ対策チェックリストと無料テンプレートで確認できます。

方針と対処内容の明確化・すべての労働者への周知啓発

【義務】カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。あわせて、カスハラの内容と、あらかじめ定めた対処の内容を、管理監督者を含む労働者に周知すること。

実務では、経営者名義で方針を示す方法などにより、会社としての姿勢を明確にします。そのうえで、カスハラの定義と自社業務に即した具体例を書き込みます。抽象的な宣言だけでは、現場は目の前の事案に当てはめられません。

実質的な中身になるのが「対処の内容」です。指針が挙げる例は次のとおりで、限定列挙ではなく自社の実態に応じて定めるものとされています。

  • 管理監督者等へ直ちに報告し、指示を仰ぐ
  • 可能な限り一人で対応させず、必要に応じて管理監督者が代わって対応する
  • 十分な説明後もなお要求が続く場合、一定の時間の経過をもって退店を求めるか電話を切る
  • 犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する
  • 現場対応が困難なときは本社・本部へ情報共有し、法的手続が必要なら弁護士に相談する

誤解しやすい点は周知の範囲です。厚生労働省Q&Aは、顧客対応が発生しない部署の労働者にも周知・研修が必要であり、対処の内容についても社外の人と接する機会の有無を問わず全労働者へ周知する必要があると回答しています。入社時研修、社内ポータル、掲示などを組み合わせ、実施記録を残しておきましょう。

【推奨】顧客への方針の公表は、義務そのものではありません
指針は、方針を顧客等に周知・啓発することも被害の防止に効果的だとしていますが、厚生労働省Q&Aは、顧客等への周知までは義務づけていないと明示しています。店頭ポスターの掲示は有効な取り組みですが、それをもって措置を講じたことにはならない、という区別が必要です。

相談窓口の設置と、曖昧な事案にも対応できる体制整備

【義務】相談への対応のための窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること。窓口の担当者が、相談の内容や状況に応じて適切に対応できるようにすること。

運用通達は、窓口を形式的に設けるだけでは足りず、実質的な対応が可能な窓口であることを求めています。対応できる担当者、連絡先、受付方法(対面・電話・メール・フォーム等)まで具体的に決め、労働者に周知して初めて要件を満たします。

もうひとつの柱が、曖昧な段階でも相談を受け付ける体制です。指針は、現実に生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合や該当するか否か微妙な場合であっても広く相談に対応するよう求めています。運用通達は、当初は正当な申入れだったが対応の中で要求内容が増えていくケースや、来店のたびに質問回数が増えて対応時間が長くなるケースを例示しています。「まだカスハラとは言えない」段階を拾えるかが、この措置の実効性を分けます。

誤解しやすい点:専用窓口の新設が一律に必要とは限りません
厚生労働省Q&Aは、カスハラの相談窓口を他のハラスメント窓口と一体にする必要はなく、その場ですぐ相談できることや現場に精通した上司に相談できることが適切な場合もあることから、労働者の上司にあたる管理監督者等を相談担当者として定めることも考えられるとしています。既存窓口との一体設置も妨げられません。ただし上司を担当者にする場合は、その管理監督者自身が相談できる窓口を別に設けておくことが望ましいとされています。

一人勤務の拠点でも、現実的なルールが必要です
従業員が1名の店舗など、管理監督者が代わって対応することや引き離しができない場合について、厚生労働省Q&Aは、退店要請や電話の終了、警察への通報、本社・本部への情報共有といった対処を定めておくことを示しています。事後の配慮措置は、一人勤務の店舗であっても必要です。

あわせて、相談記録の保存方法とアクセス権限の限定、匿名相談を受ける場合の対応範囲(事実確認の限界を含む)も事前に決めておきます。窓口の設計手順はカスハラ相談窓口の作り方と社外の相談先で扱っています。

迅速な事実確認・被害者への配慮・再発防止

【義務】事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること。カスハラが生じた事実が確認できた場合は、速やかに被害者への配慮のための措置を適正に行うこと。改めて方針を周知・啓発し、再発防止に向けた措置を講ずること。

事実確認は、相談者からの聞き取りを起点に、必要に応じて周囲の労働者からの聴取や、録音・録画・メール・対応履歴の確認を行います。行為者からの聴取は「必要かつ可能な場合」とされ、厚生労働省Q&Aは、顧客が既に立ち去り連絡先も分からない場合にまで聴取を求めるものではないと回答しています。

被害者への配慮では、その場で管理監督者が代わって対応する、被害者と行為者を引き離すといった初動に加え、担当者の変更や複数人での対応、配置転換、産業保健スタッフによるメンタルヘルス不調への相談対応が挙げられています。運用通達は、継続就業が困難にならないよう環境を整えることや、休業した労働者が希望する場合に原職相当職へ復帰できるよう積極的に支援することも配慮に含まれるとしています。

誤解しやすい点は、事実を確認できなかったときの扱いです。指針は、事実が確認できなかった場合にも再発防止に向けた措置を講ずるとしています。まったく同じ措置を機械的に行うという意味ではなく、確認できた事情や相談内容を踏まえて必要な対応を検討することになります。「確認できなかったので終了」は、指針の想定する対応ではありません。

【配慮事項】行為者が他の事業主の雇用する労働者や他の事業主である場合には、必要に応じて相手方の事業主に事実確認や再発防止措置への協力を求めることが含まれます。ただし厚生労働省Q&Aは、行為者が勤務先の業務と関係のない私的な場面で行った場合にまで、その勤務先に協力を求める必要はないとしています。

【推奨】発生の原因や背景にある商品・サービス・接客上の問題や、顧客等とのコミュニケーション不足の改善も有効とされています。過度に顧客を優先する接客慣行の見直しなど、職場環境や組織風土の改善まで視野に入れたいところです。

特に悪質なカスハラへの対処方針と実行体制

【義務】労働者に対し過度な要求を繰り返すなど特に悪質と考えられるものへの対処の方針をあらかじめ定め、管理監督者を含む労働者に周知するとともに、その方針で定めた対処を行うことができる体制を整備すること。

指針が挙げる対処の例は、犯罪に該当し得る言動の警察への通報、行為者への警告文の発出、法令の制限内での商品販売やサービス提供の停止、店舗・施設への出入禁止、民事保全法に基づく仮処分命令の申立てです。暴力や脅迫があり生命・身体に危険が及ぶ場合は、事実確認より安全確保が先になります。

体制整備の中身も運用通達が具体化しており、人事・カスタマーサービス・法務などの関係部門が迅速に連携できる体制を設け、悪質事案が生じた際にはその関係部門が連携して対処を判断するよう定めることが例示されています。誰が判断するのかを決めていない方針は、体制とは呼べません。

誤解しやすい点:法改正で新たなサービス拒否の権限が与えられたわけではありません
厚生労働省Q&Aは、改正法は事業主に雇用管理上必要な措置を義務づけるものであり、事業主が何らかの措置を行う法的な権利や権限を新たに設けるものではないと明言しています。「義務化されたから断ってよい」という読み方は指針の趣旨と異なります。また、出入禁止を方針に定めた場合でも、悪質事案が起きたら必ず出入禁止にしなければならないわけではなく、整備した体制の下で方針に基づき、講じるか否かを判断することになります。

業種固有の義務の範囲内で検討します
指針は、各業法等によりサービス提供の義務が定められている場合や、サービスの途絶が顧客等の生命や心身の健康に重大な影響を及ぼす場合に留意するよう求めています。運用通達は医師法第19条第1項の応召義務を例に挙げ、旅館業法の宿泊拒否事由や航空法の安全阻害行為等の禁止にも言及しています。医療・介護、交通、インフラなどでは、提供拒否を安易に断定せず業法の枠内で基準を作る必要があります。

悪質事案の方針は別文書でなくても構いません
厚生労働省Q&Aは、悪質事案への対処方針を対処の内容とは別に作成する必要はなく、対処の内容を明確化して周知する際に併せて定めて周知することも可能だとしています。文書を増やすことが目的ではありません。

相談者のプライバシー保護と不利益取扱いの禁止

【義務】相談への対応や事後対応にあたり、相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨を労働者に周知すること。相談をしたことや事実確認への協力等を理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。

プライバシー保護では、相談者や目撃者の情報を必要な範囲でのみ取り扱い、相談記録の閲覧権限を限定します。指針は、相談者等のプライバシーに性的指向・ジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報も含まれるとしており、これらを含む事案では取扱いを一段慎重にする必要があります。マニュアルに保護のための事項を定め、担当者に研修を行い、保護措置を講じている旨を社内報等で知らせることが、認められる例として示されています。

不利益取扱いの禁止では、相談や事実確認への協力を理由とする解雇、配置転換、評価の引下げなどが対象です。言動を直接受けた労働者だけでなく、それを把握した周囲の労働者からの相談を理由とする不利益取扱いも禁止されます。就業規則その他の服務規律を定めた文書に規定するか、社内報等に記載して配布する方法が例示されています。相談窓口の案内文にこの一文を入れておくと、周知の実効性が上がります。

誤解しやすい点として、運用通達は、ここでいう「相談者等の情報」に顧客等の情報は含まれないとしつつ、顧客等の個人情報も個人情報保護法等に基づき適切に取り扱う必要があるとしています。録音・録画データについても、利用目的、保存期間、アクセス権限を定めておきましょう。

出典:厚生労働省「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」(2026年7月28日確認)

カスハラ指針を社内実務に落とし込む4ステップ

カスハラ指針を社内実務に落とし込む4ステップ

ここからは、前述の措置を自社の成果物へ変換する手順です。指針が求めることの再説明は行わず、担当者が手を動かす対象に絞ります。

施行前に完了させるもの
ステップ1(現状把握)→ ステップ2(方針・判断基準・マニュアル)→ ステップ3(窓口・初動フロー・記録)→ ステップ4のうち全労働者への周知

施行後も継続して改善するもの
役割別研修の深度 → 発生事案を踏まえた文書の改定 → 運用状況の把握と定期的な見直し

発生状況と高リスク接点を洗い出し、責任者と対応優先順位を決める

やること:過去の苦情記録、長時間対応の履歴、暴言や威圧の報告、SNSでの言及、従業員の休職・離職の理由を確認し、店舗、電話、訪問、オンライン、取引先といった顧客接点ごとにリスクを整理します。

判断・設計のポイント:記録に残っていない事案を拾うには、現場ヒアリングや匿名アンケートが有効です。指針も、労働者や労働組合等の参画を得てアンケート調査や意見交換を行うことを望ましい取組として挙げており、衛生委員会の活用も例示されています。あわせて、経営責任者、実務責任者、法務・人事・現場の役割分担をこの段階で決めます。後から責任者を決めようとすると、判断が必要な場面で止まります。

このステップで完成する成果物

  • 顧客接点別のリスクマップ
  • 現状診断表(発生類型、対応時間、業務への影響)
  • 推進体制図と責任者一覧

基本方針・判断基準・対応マニュアルを自社向けに整備する

やること:会社としての姿勢を示す基本方針を作成し、自社におけるカスハラの定義と具体例、現場が使える判断基準を書き込みます。

判断・設計のポイント:最も重要なのは、現場担当者が自分の判断で行ってよい対応と、責任者の判断が必要な対応を切り分けることです。あわせて、顧客対応の終了や中断を検討する条件も定めます。この線引きがないと、現場は「断ってよいのか」を毎回迷い、結果として我慢が常態化します。

誤解しやすい点:カスハラ専用の就業規則・規程を必ず作らなければならないわけではありません
厚生労働省Q&Aは、自社の労働者が取引先等に対してカスハラを行った場合について、信用失墜行為や服務規律違反に対する懲戒規定など既存の規定に基づいて必要な措置を講じられるのであれば、就業規則等を改正してカスハラ独自の規定を新たに設ける必要は必ずしもない、としています。まず既存の就業規則、服務規律、ハラスメント防止規程で対応できるかを確認し、不足がある場合に改定する、という順序が合理的です。

業界共通マニュアルの配布だけでは措置を果たしたことになりません
厚生労働省Q&Aは、業界団体が作成した業種別マニュアルを単に配布するだけでは措置義務を果たしたことにならないと明言しています。一方、そのマニュアルを参考に自社の実情に応じた調整を行い、方針の明確化や対処の内容の策定を行って周知すれば、義務を果たしたことになります。自社が策定に参画した業界共通マニュアルを労働者に周知した場合も同様です。

このステップで完成する成果物

  • カスハラ対策基本方針
  • 判断基準と自社業務に即した具体例
  • 対応マニュアル(現場判断と責任者判断の切り分けを含む)
  • 就業規則・服務規律の確認結果と、必要な場合の改定案

マニュアルの具体的な作り方は、カスハラ対応マニュアルの作成手順とひな形で解説しています。

相談窓口・初動フロー・記録とエスカレーション基準を設計する

やること:相談受付から事実確認、判断、被害者対応、再発防止までの流れを1枚の図にまとめ、連絡基準と記録様式を整えます。

判断・設計のポイント:管理職、本部、警察、弁護士への連絡基準は、回数や時間の数値ではなく状況要件で定めるのが有効です。「暴力や器物損壊のおそれがあるとき」「金銭の要求があったとき」「対応が2名体制でも収束しないとき」といった書き方であれば、現場が自分の状況に当てはめられます。記録様式では、顧客の言動だけでなく会社側の説明内容や対応経緯も残す設計にします。指針が、企業側の不適切な対応が原因や背景になっていないかを確認するよう求めている以上、片側だけの記録では判断材料になりません。

このステップで完成する成果物

  • 相談窓口案内(受付方法・連絡先・不利益取扱い禁止の明記)
  • 初動対応フロー図とエスカレーション基準
  • 事実確認用の記録様式(会社側の対応欄を含む)
  • 録音・録画の運用ルール、被害者の安全確保とメンタルケアの手順

すべての労働者への周知と役割別研修を行い、運用を見直す

やること:雇用形態・部署・顧客接点の有無を問わず、すべての労働者に方針、相談先、不利益取扱い禁止を伝えます。この周知・啓発そのものが義務であり、研修はそれを実効的に行うための有力な方法です。法律上、特定の回数や形式が決まっているわけではありません。

判断・設計のポイント:周知は社内ポータル、掲示、書面配布などを組み合わせ、実施した範囲が確認できる形で残します。研修を行う場合は、現場担当者には初動対応と記録方法、管理職と窓口担当者には事実確認・判断・被害者への配慮と二次被害の防止、経営層には安全配慮義務やレピュテーションリスクと、役割別に内容を変えると定着します。ロールプレイや自社事例の検討は実務上の推奨です。

このステップで完成する成果物

  • 周知記録(対象範囲と実施方法が分かるもの)
  • 研修資料と受講記録(日時、対象、内容、受講者)
  • 運用見直しのスケジュールと改定履歴

研修サービスの比較はカスハラ研修おすすめ7選と選び方で扱っています。

カスハラ指針対応でつまずきやすい4つの落とし穴

形式的には整っているのに実効性を欠く、という状態は珍しくありません。典型的な4つのつまずき方を、何が問題かとどう修正するかの2点で整理します。

窓口・マニュアルを用意しただけで運用設計がない

何が問題か:相談先が全労働者に届いていない、担当者が受けた後の一手を持っていない、夜間や一人勤務の時間帯に連絡先が機能しない、記録様式がなく対応が担当者の力量任せになっている、録音を導入したのに利用目的や保存ルールが未整備、といった状態です。文書はあっても、措置が機能しているとは言えません。

どう修正するか:周知は実施した範囲が残る方法に切り替え、担当者には具体的な事案を使った訓練を行い、時間帯別に連絡可能な相手を一覧化します。記録様式とエスカレーション基準があれば、担当者が代わっても対応の質が保たれます。録音を運用しているなら、利用目的・保存期間・アクセス権限を先に文書化してください。

正当なクレームや合理的配慮の申出までカスハラ扱いする

何が問題か:前述のとおり、苦情のすべてがカスハラに当たるわけではありません。過剰に線を引けば、改善の機会を失うだけでなく、顧客対応そのものが破綻します。特に注意が必要なのが障害のある方からの申出です。指針は、障害を理由とする不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去を必要としている旨の意思を表明すること自体は、カスハラには当たらないと明記しています。

どう修正するか:苦情の「内容」と「伝え方」を分けて確認する手順を組み込みます。内容に理由があれば改善の材料として扱い、伝え方に問題がある場合にそちらを止めます。障害者差別解消法に基づき、実施に伴う負担が過重でないときは、社会的障壁の除去について必要かつ合理的な配慮をしなければならない点にも留意が必要です。現場の感覚だけで即断させず、迷ったときの相談・エスカレーション先を事前に決めておいてください。

BtoBで自社が加害者側になるリスクと他社への協力対応を見落とす

何が問題か:指針の「顧客等」に取引先の担当者が含まれる以上、自社の役員や従業員が取引先の担当者に過度な要求や暴言を行えば、相手方にとってのカスハラになります。購買部門が委託先に納期や価格で無理を通す、営業が下請の担当者に高圧的に接する場面が典型です。優越的な立場を利用した過剰要求は、社内では「厳しい交渉」と認識されていることさえあります。

どう修正するか:被害者側と加害者側で、整えるべき体制が異なります。

  • 自社が被害者側>:相談窓口、初動フロー、記録様式、悪質事案の対処方針、相手方事業主への協力要請の手順
  • 自社が加害者側>:他社からの協力要請を受ける窓口、社内調査の手順、既存の服務規律に基づく指導・懲戒の検討フロー、購買・営業部門への行動規範の反映

指針は、協力の求めに応じるよう努めることに加え、協力した労働者に不利益取扱いを行わない旨を定めて周知することや、事実が確認できた場合に既存の服務規律規定等に基づき必要な措置を講ずることが望ましいとしています。協力を求められたことを理由に相手方との契約を解除するといった不利益な取扱いも望ましくないとされています。

被害者の安全確保・メンタルケア・再発防止が後回しになる

何が問題か:事実確認を優先するあまり、被害を受けた本人が同じ場所で対応を続けているケースです。暴力や脅迫、生命・身体への危険がある場合は、事実確認より安全確保が優先されます。「接客業だから仕方ない」と我慢させる組織風土が残っていれば、次の相談は上がってきません。

どう修正するか:まず当事者を引き離し、担当者を交代させる判断を現場に許可しておきます。そのうえで、一時的な担当変更や休養を検討する基準、産業医・外部相談窓口・医療機関への接続方法を決めておきます。指針は、産業保健スタッフ等によるメンタルヘルス不調への相談対応を、被害者に対する配慮のための措置として位置づけています。福利厚生上の任意の配慮ではありません。事案の後も、相談者が不利益を受けていないかを確認するフォロー手順を置き、設備・人員配置・業務フローの改善につなげます。

ここまでの内容を踏まえ、施行前に最低限そろっているかを確認するチェックリストが次の表です。

確認項目確認の目安
基本方針がある会社としての姿勢が明記されている
定義と判断基準がある3要件と自社の具体例がある
相談窓口が機能する担当者・連絡先が決まり対応できる
初動・記録・報告の方法がある会社側の対応も記録する様式がある
悪質事案の対応基準がある判断部門と連携先が決まっている
被害者支援の方法がある安全確保と相談先の接続手順がある
プライバシー保護と不利益取扱い禁止閲覧権限を限定し文書で周知済み
全労働者へ周知している顧客接点の有無を問わず実施記録がある
見直し方法が決まっている改定サイクルが定められている

上表は、厚生労働省指針・厚生労働省Q&Aをもとに編集部が実務向けに整理したものです。各項目を記入形式で確認できるシートは、カスハラ対策チェックリストと無料テンプレートから無料でダウンロードできます。

【よくある質問】

Q. 中小企業に猶予期間はある?
A. ありません。パワハラ防止措置のような中小企業向けの猶予期間は設けられておらず、2026年10月1日から企業規模・業種を問わずすべての事業主が対象になります。

Q. カスハラ専用の相談窓口を新設しないといけない?
A. 一律に必要とは限りません。厚生労働省Q&Aは、他のハラスメント窓口と一体にする必要はなく、現場に精通した上司にあたる管理監督者等を相談担当者として定めることも考えられるとしています。重要なのは、実質的に対応できる状態にして全労働者へ周知することです。

Q. 顧客に向けて方針を公表する必要はある?
A. 被害の防止に効果的な取り組みとされていますが、厚生労働省Q&Aは顧客等への周知までは義務づけていないと明示しています。店頭掲示だけで措置を講じたことにはならない点に注意してください。

Q. 就業規則の改定は必須?
A. 必ずしも必須ではありません。厚生労働省Q&Aは、信用失墜行為や服務規律違反への懲戒規定など既存の規定で必要な措置を講じられるのであれば、カスハラ独自の規定を新設する必要は必ずしもないとしています。まず既存規程で対応できるかを確認してください。

Q. 措置義務に違反した場合、罰則はある?
A. 措置義務違反そのものに直ちに刑事罰が科される制度ではありません。ただし助言・指導・勧告があり得るほか、大臣の勧告に従わない場合の公表、報告を求められた際の未報告・虚偽報告に対する過料の規定があります。あわせて民事上・労務管理上のリスクも踏まえて判断してください。

Q. 業界団体のマニュアルを配れば措置を果たしたことになる?
A. なりません。厚生労働省Q&Aは、業種別マニュアルを単に配布するだけでは措置義務を果たしたことにならないとしています。自社の実情に応じた調整を行い、方針や対処の内容を策定して周知することが前提です。

まとめ:カスハラ指針の5つの措置を自社の運用に落とし込もう

カスハラ指針は2026年10月1日から適用され、企業規模・業種を問わずすべての事業主が措置を講ずる義務を負います。本記事では、指針が求める措置を実務上分かりやすいよう5つの柱に整理して解説しました。対応を進めるうえで重要なのは、法的義務と実務上の推奨を分けて考えることです。顧客への方針の公表や原因・背景の改善は有効な取り組みですが、義務そのものではありません。施行前にやるべきことは、方針、相談体制、対応フロー、そして全労働者への周知を、文書として存在させるだけでなく実際に機能する状態にすることです。なお、指針は最低限の水準を示したものであり、これを満たせばあらゆる事案に対応できるというものではありません。個別の事案がカスハラに当たるかどうかの最終判断や、就業規則の改定などの法的論点については、弁護士や社会保険労務士などの専門家にご相談ください。まずは無料チェックリストで、自社のカスハラ対策がどこまで進んでいるか確認するところから始めてください。

参考情報・編集部注記

編集部注記
本記事は、カスハラ対策実務ガイド編集部が厚生労働省の指針・運用通達・解釈Q&A、および東京都条例等の一次情報を調査し、義務と推奨の区別、成果物の例、チェックリストとして再構成したものです(専門家監修なし・情報確認日:2026年7月28日)。記事内の「5つの柱」という整理、表、チェックリスト、成果物の例は、一次情報をもとに編集部が実務向けに再整理したものであり、法定の分類や様式ではありません。本文では、断定を避けて「該当し得る」「望ましいとされている」といった表現にとどめています。本記事は一般的な情報提供であり、個別事案への法的助言ではありません。個別の申請可否や法的判断については、弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

本記事は、以下の公的機関の一次情報をもとに作成しています。最新の内容は各リンク先をご確認ください。

更新履歴:2026年7月28日公開(令和8年厚生労働省告示第51号、2026年4月24日付の運用通達・解釈Q&Aの内容を反映)。指針の改正、Q&Aの追加、自治体条例の新設・改正があった場合は本記事を改訂します。