カスハラ報告書は、様式そのものが法律で定められているわけではなく、何をどこまで書かせるかは各社の設計に委ねられています。本記事では、2026年8月6日時点で公式情報を確認できた厚生労働省の指針・企業マニュアル・実態調査をもとに、報告書に載せておきたい7つの項目、報告者記入欄と会社記入欄を分けたテンプレート、架空事例の記入例、提出後の社内対応までを、そのまま自社様式の検討に使える形でまとめます。なお、カスハラに該当するかどうかを現場で判断する必要はありません。判断に迷う段階の報告も受け付ける運用にしておくことが、体制づくりの前提になります。
この記事でわかること
- そのままコピーして使えるカスハラ報告書テンプレートと記入例
- 報告者が記入する欄と、会社が事実確認後に記入する欄の分け方
- 報告書に載せておきたい7つの記載項目と、その書き方
- 事実と主観の分け方、追記履歴の残し方といった記録の作法
- 提出後の事実確認・保存・プライバシー保護と、現場に定着させる工夫
結論:カスハラ報告書は、現場の記憶を組織の記録に変え、次に同じ顧客と向き合う従業員を守るための文書です。載せておきたいのは、発生日時/発生場所・対応チャネル/対応者と関係者/相手方の情報/言動および要求の内容/対応の経過と関連記録/従業員への影響と本人の希望の7項目で、これは法定の必須要件ではなく実務上そろえておきたい記入欄です。該当性の判断や対応方針は報告者ではなく会社が記入する欄に分け、発言は覚えている範囲で原文に近く記録します。まず着手したいのは、テンプレートと自社の既存様式を見比べ、不足している欄を書き足すことです。
カスハラ対策実務ガイド編集部の結論
編集部では、報告書で最も差がつくのは項目の多さではなく「誰が書く欄か」の切り分けだと考えます。カスハラに当たるかどうかの判断を報告者に負わせる様式は、現場が書けずに止まります。見聞きした事実は報告者が、該当性の判断と対応方針は会社が書く——この2層構造にできているかが、運用に耐えるかどうかの分かれ目になります。なお本記事の7項目、報告者記入欄・会社記入欄の分け方、テンプレートおよび記入例は、厚生労働省の指針・企業マニュアル等をもとに編集部が実務向けに再整理したもので、法律で定められた全国共通の様式ではありません。指針の改正やQ&Aの追加により内容が変わる可能性があるため、最新の情報は必ず厚生労働省の公式ページでご確認ください。個別事案の法的判断や社内規程の改定については、弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
この記事の編集者
カスハラ対策実務ガイド編集部
カスハラ対策実務ガイドは、企業・店舗・現場担当者に向けて、カスタマーハラスメント対策に役立つ実務情報を発信するWebメディアです。編集部では、カスハラの基礎知識、社内体制づくり、従業員を守る対応手順、マニュアル整備のポイントなどを、現場で活用しやすい形でわかりやすくお届けしています。
すぐ使えるカスハラ報告書テンプレートと記入例
まずは実際に使える様式から確認します。記入する主体を分けておくことが、運用でつまずかないための最大のポイントです。自社に様式がない場合は、この形をそのまま出発点にしてください。
報告者が記入する欄と会社が記入する欄を分ける
カスハラ報告書でよくある失敗が、現場の従業員が書く内容と、上長や人事が事実確認のうえで書く内容を、1枚の中で混ぜてしまうことです。特に「カスハラに該当するか」「今後どう対応するか」といった判断は、被害を受けた本人が書く欄ではありません。厚生労働省のカスタマーハラスメント防止指針および措置義務に関するQ&Aでも、事実関係を確認し、被害者への配慮や再発防止の措置を講じる主体は事業主と整理されています。
そこで様式は、次の2ブロックに分けて設計します。
- <報告者記入欄>:見聞きした事実と、自身が受けた影響・希望
- <会社記入欄>:追加の事実確認、該当性の判断、対応方針、配慮措置
- <共通ルール>:判断に迷う段階でも提出してよいと明記する
この区分があると、現場は「判断できないから書けない」という状態から解放され、会社側も誰がいつ何を決めたのかを追えるようになります。
コピーして使えるカスハラ報告書テンプレート
以下は、業種を問わず使える基本形です。まずはこの形を使い、次章以降を読みながら欄を足し引きしてください。はじめに報告者が記入するブロックです。
| 【報告者記入欄】 | 記入する内容 |
|---|---|
| 報告日/報告者 | 年 月 日 / 所属・氏名 |
| 発生日時 | 年 月 日 時 分 ~ 時 分 |
| 発生場所 | 店舗・部署/売場・窓口など具体的な位置 |
| 対応チャネル | □対面 □電話 □メール □SNS □訪問 □その他( ) |
| 対応者・交代の有無 | 対応者氏名/途中で交代した場合は交代時刻と引継ぎ先 |
| 同席者・目撃者 | 同席した従業員/周囲に他の顧客がいたか |
| 相手方の情報 | 氏名・会員番号・取引先名など/不明な場合は年代・服装・同行者などの特徴 |
| 要求の内容 | 何を求められたか(求められた事柄そのもの) |
| 言動の様子 | 発言・態度・声量・時間の長さ。覚えている範囲でできるだけ原文に近く記載 |
| 対応の経過 | 時系列で記載。上長へ報告した時刻と、その場がどう終わったかまで |
| 関連する記録 | 録音データ名・防犯カメラ番号と時刻・メール件名・伝票番号など |
| 心身の状態・業務への影響 | けがの有無、体調、勤務継続の可否、業務への支障 |
| 本人の希望 | □同じ顧客の対応から外れたい □会社として対応してほしい □外部相談を検討したい □特になし |
| 報告者の所見(任意) | 事実とは分けて、感じたことを記載 |
続いて、受理した会社側が記入するブロックです。
| 【会社記入欄】 | 記入する内容 |
|---|---|
| 受理日時/受理者 | 月 日 時 分 / 氏名・役職 |
| 追加の事実確認 | 周囲への聴取、録音・映像の確認結果、確認日 |
| 該当性の判断 | □カスハラに該当 □カスハラには該当しないが対応・改善が必要 □現時点では判断困難(継続確認) |
| 判断者/判断日 | 氏名・役職 / 月 日 |
| 顧客への対応方針 | 窓口の一本化、来店・取引のお断り、外部への相談 など |
| 従業員への配慮措置 | 担当変更、勤務調整、面談、産業医等への連携 |
| 再発防止・共有範囲 | 手順の見直し、共有先と匿名化の要否 |
| 本人へのフィードバック | 判断・対応方針を伝えた日、伝えた担当者、本人の反応や追加の希望 |
| 更新履歴 | 追記・修正した日付、更新者、変更した内容と理由 |
| 保存区分/閲覧権限 | 保存場所、閲覧できる役職、保存の期限 |
カスハラに該当しないと判断した場合でも、商品・サービスや顧客対応に改善すべき点があった場合や、従業員に心身への影響が生じている場合は、必要な対応と配慮を行います。
架空事例でみる記入例
空欄の様式だけでは書き方が伝わりにくいため、記入済みの例も添えて配布すると定着が早まります。以下は、小売店のレジで返品を求められた場面を想定した架空の記入例です。
| 記入欄 | 記入例(架空事例) |
|---|---|
| 発生日時 | 2026年7月14日 14時10分~14時50分 |
| 発生場所/チャネル | 〇〇店1階レジ2番/対面 |
| 対応者・交代 | 売場担当A(14時30分に店長Bへ交代) |
| 同席者・目撃者 | レジ担当C/後方に他の顧客3名が並んでいた |
| 相手方の情報 | 氏名不明。60代前後の男性、灰色の上着、単独来店 |
| 要求の内容 | レシートのない食品について、購入価格の全額返金を要求 |
| 言動の様子 | 「土下座しろ」と2回発言。趣旨としては、責任者を出すまで帰らないという内容の発言が繰り返された(正確な文言は不明)。声量が大きく、周囲の顧客が振り返る状態が続いた |
| 対応の経過 | 14:10 返品規定を説明。14:25 大声になったため店長へ連絡。14:30 店長Bが交代し別室を案内したが応じず。14:50「また来る」と述べて退店 |
| 関連する記録 | 防犯カメラ3番(14:05~14:55)/レジジャーナル No.0714-2 |
| 影響・希望 | 手の震えが残り、以降のレジ業務を交代。次回同じ顧客が来店した場合は上長対応を希望 |
ポイントは、正確に覚えていない発言を無理に鉤括弧でくくらず、「趣旨としては」「正確な文言は不明」と添えている点です。この一手間が、記録全体の信頼性を保ちます。
報告書とあわせて、発生時の安全確保・記録・上司への報告・事後ケアまで確認したい方は、カスハラ発生時の初動対応チェックリストをご覧ください。Excel形式の対応記録シートも掲載しています。
カスハラ報告書に記載しておきたい7つの項目
ここからは、報告者記入欄の中身を7項目に整理して確認します。なぜその欄が必要なのかが分かると、自社仕様に直す際の判断がしやすくなります。この7項目は法定の必須要件ではなく、実務上そろえておきたい記入欄として編集部が整理したものです。
| No. | 記載項目 | 書き漏らしやすい点 |
|---|---|---|
| ① | 発生日時 | 終了時刻が空欄になる |
| ② | 発生場所・対応チャネル | チャネル欄そのものがない |
| ③ | 対応者と関係者 | 途中交代の時刻 |
| ④ | 相手方の情報 | 不明な場合の客観的な特徴 |
| ⑤ | 言動および要求の内容 | 要求の内容と態様の書き分け |
| ⑥ | 対応の経過と関連記録 | その場がどう終わったか |
| ⑦ | 従業員への影響と本人の希望 | 希望を書く欄がない |
発生日時・場所・対応チャネルを特定する基本情報
①から③にあたる基本情報は、後から誰も補えない部分です。とりわけ日時は、開始時刻だけでなく終了時刻まで記入できる形にしてください。対応が何分続いたかという事実は、その言動がどの程度執拗だったかを示す手がかりになります。同様に、対応者が途中で上長に交代した場合は、その交代時刻も残します。
基本情報の欄で特に確認したい点は次のとおりです。
- <場所>:店舗名だけでなく売場や窓口まで書く
- <チャネル>:対面・電話・メール・SNS・訪問を選択式にする
- <関係者>:同席者と、周囲に他の顧客がいたかを残す
- <受付経路>:誰がいつ報告を受け取ったかを記入する
チャネル欄は軽視されがちですが、東京都産業労働局のカスタマーハラスメントに関する実態調査では、カスハラの被害にあった場面として「電話・メール」が69.5%と最も高く、「対面(接客時)など」が47.9%で続いています。どの接点で何が起きているかを集計できる様式にしておくことが、後の再発防止策の精度を左右します。
相手の言動と要求内容は覚えている範囲で原文に近く記録する
④の相手方情報と⑤の言動・要求は、報告書の中核です。相手方については、氏名や会員番号、取引先名など特定につながる情報を書きます。分からない場合でも空欄にはせず、年代や服装、同行者の有無といった観察できた事実を残しておくと、同一人物による繰り返しかどうかを後から検討できます。
言動の欄では、相手の発言を、覚えている範囲でできるだけ原文に近い形で記録します。要約してしまうと、その一言が持っていた威圧性が記録から消えてしまうためです。ただし、動揺している状況で発言を一言一句記憶できるとは限りません。正確な表現を覚えていない場合は鉤括弧を使わず、「趣旨としては」「正確な文言は不明だが」と明記してください。曖昧な記憶を正確な引用のように書くことは、かえって記録の信頼性を下げます。
あわせて、厚生労働省のカスタマーハラスメント対策企業マニュアルでは、社会通念上許容される範囲を超えるかどうかを「要求内容」と「要求手段・態様」の2つの軸から確認することが示されています。様式でも、何を求められたのか(内容)と、どのような態度で求められたのか(態様)を別の欄に分けておくと、会社側の確認作業がぶれにくくなります。
対応の経過と関連する記録を時系列で残す
⑥では、対応の流れを時系列で書きます。何時何分に誰がどう応じ、いつ上長に引き継ぎ、最終的にどのような形でその場が終わったのか。この「終わり方」まで書かれていない報告書は多く、後日その顧客が再訪したときに、前回どこまで会社として応じたのかが分からず、現場が同じ交渉をやり直すことになります。
また、報告書は単独で完結させず、他の記録への案内図として機能させると使いやすくなります。録音データのファイル名、防犯カメラの番号と該当時刻、メールの件名と受信日時、伝票番号を書き添えておけば、会社側が確認するときにすぐ突き合わせられます。特に防犯カメラの映像は一定期間で上書きされるため、報告書に時刻を書く運用があるかどうかで、映像が残せるかどうかが変わります。
従業員が受けた影響と本人の希望を書き添える
⑦は、クレーム報告書との違いが最もはっきり表れる項目であり、抜け落ちやすい項目でもあります。けがの有無や体調の変化、その後の業務への支障、勤務を続けられる状態かどうかを、本人の言葉に沿って記録します。
そのうえで欠かせないのが、本人の希望を書く欄です。同じ顧客の対応から外れたいのか、会社として毅然と対応してほしいのか、外部への相談を検討したいのか、あるいは今は特に希望がないのか。この欄がないと、会社は本人の意向を確認しないまま方針を決めてしまい、「勝手に大ごとにされた」あるいは「何もしてもらえなかった」という受け止めを生みます。希望を聞く欄を様式に組み込むこと自体が、被害者への配慮を実務に落とし込む手段になります。
事実確認や社内判断に役立つカスハラ報告書の書き方

同じ項目を埋めても、書き方次第で報告書の使い勝手は大きく変わります。ここでは社内で活用できる記録にするための作法を解説します。
前提として、この報告書の主な目的は次の5つです。外部への相談や法的手続きは、必要になった場合の補足的な用途と考えてください。
- 会社が迅速に事実確認を行うこと
- 従業員の安全を確保すること
- 同じ顧客への対応を引き継ぐこと
- 顧客対応の方針を判断すること
- 再発防止に活かすこと
事実と主観的な評価を明確に分けて書く
最も多い失敗は、起きた事実ではなく書き手の評価だけが並んでしまうことです。「非常に威圧的で、明らかに営業妨害が目的だった」と書かれていても、読んだ第三者には何が起きたのか分かりません。次のように書き換えてみてください。
| 書き方 | 記載例 |
|---|---|
| 避けたい例 | 威圧的な態度で長時間クレームを言い続け、他の業務ができなかった |
| 望ましい例 | 「土下座しろ」と2回発言。14時10分から14時50分まで、他の顧客3名が並ぶ中で大声を出し続けた |
後者は、時刻・発言・回数・周囲の状況という確認できる事実で構成されています。ここで大切なのは、評価を書いてはいけないという意味ではないという点です。「対応が困難だと感じた」という主観は、被害の実態を示す情報として価値があります。だからこそ様式では、事実を書く欄と、報告者の所見を書く欄を最初から分けておくのが実務的です。欄が分かれていれば、現場は迷わず書き分けられます。
録音・防犯カメラ映像・メールなど客観的な記録と紐づける
報告書に書かれた内容は、他の記録と突き合わせることで会社の確認作業が速くなります。カスタマーハラスメント防止指針でも、事後の対応として、相談者からの事実確認に加え、必要に応じて周囲の労働者から聴取したり、録音・録画等の客観的な証拠を確認したりすることが取組例として示されています。
録音については、相手に無断で行ってよいのかという相談が現場から必ず上がります。実務上は、通話の冒頭で録音している旨を案内する、店頭に掲示して周知するなど、あらかじめ告知したうえで記録する運用が無難です。録音データは個人情報を含むため、保管場所とアクセス権限もあわせて決めておきましょう。個別の事案でどこまで記録を取ってよいか、また取得した記録をどう扱うべきかについては、弁護士等の専門家に確認してください。
録音・映像・報告書などの記録を、警察への相談や法的対応にどのようにつなげるかは、カスハラで顧客を訴える場合の手段と進め方で整理しています。法的措置を前提としない場合でも、早い段階で保存すべき記録を確認する参考になります。
対応直後に作成し、追記した箇所は履歴を残す
いつ書かれたかという情報は、記録の使いやすさを支える土台です。対応から日数が経つほど記憶は曖昧になります。まずは従業員の安全確保と心身への配慮を優先し、そのうえで記憶や録音・映像が失われないよう、可能な限り速やかに一次記録を残します。詳細の確認や補完をいつまでに行うかは、事案の緊急度や勤務体制を踏まえて社内期限を定めてください。
そのうえで、多くの企業で抜けているのが追記の扱いです。報告書は一度で完成するとは限らず、数日後に本人が別の発言を思い出したり、後日同じ顧客から再度連絡が入ったりします。このとき既存の記述を上書きしてしまうと、いつ何が書き加えられたのかが分からなくなります。
追記のルールとして、次の点を様式と運用に組み込んでください。
- <上書き禁止>:元の記述は消さず、追記欄に書き足す
- <日付と記入者>:追記のたびに日付と氏名を残す
- <確定版の保全>:確定後はPDF等に変換して保管する
- <更新履歴>:共有ドライブの履歴が残る設定にしておく
紙の様式でも、末尾に日付入りの追記欄を数行設けておくだけで運用できます。手間はごくわずかですが、記録がいつ作られ、いつ何が足されたのかを説明できる状態は、対応が長期化したときに大きな差になります。
出典:厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号/2026年8月6日確認)
カスハラ報告書とは?役割と法改正上の位置づけ

ここまでの様式が、なぜ今これほど求められているのかを整理します。似た名前の書類との違いもあわせて確認しましょう。
現場の記憶を組織の記録に変えるのが報告書の役割
カスハラ報告書とは、顧客等からカスハラに該当する可能性のある言動を受けた際に、その事実と対応の経過を記録し、組織として共有・保管するための文書です。「書かせるための書類」だと受け止められがちですが、本来の役割は違うところにあります。
激しい言動を受けた直後の記憶は、想像以上に早く輪郭を失います。「たしか30分くらいだった」という記憶は残っても、何時何分から何時何分まで、どの言葉を何回言われたのかは、数日も経てば正確に思い出せなくなります。さらに担当者が異動や退職をすれば、その記憶は組織から完全に消えてしまいます。
報告書は、この個人の記憶を組織の記録に変換する装置です。記録が残っていれば、同じ顧客が再び来店・架電したときに、次の対応者は前回の経緯を踏まえて身構えることができます。カスハラ報告書は、書いた本人のためだけでなく、次に同じ顧客と向き合う同僚を守るための文書でもあります。
対策の義務化で記録の整備が実務の前提になる
【情報確認日:2026年8月6日】記録の整備が急がれている背景には、法制度の変化があります。厚生労働省によると、2025年6月11日に改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)が公布され、2026年10月1日から、カスタマーハラスメントの防止措置がすべての事業主に義務付けられます。企業規模を問わず対象となり、あわせて2026年2月26日には、事業主が講ずべき措置を具体化したカスタマーハラスメント防止指針(令和8年厚生労働省告示第51号)が公布されています。要点は、厚生労働省のリーフレット(詳細版)やあかるい職場応援団「改正労働施策総合推進法等特設ページ」で確認できます。
施行日、対象となる事業主、企業が整えるべき方針・相談窓口・対応フロー・記録様式・研修の全体像は、カスハラ対策義務化で企業がやるべき5つの措置で詳しく解説しています。
指針が事業主に求めているのは、方針の明確化と周知、相談体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応、悪質な行為への対処方針の整備、プライバシー保護と不利益取扱いの禁止です。統一様式による報告書の作成そのものを、すべての事案について直接義務付けているわけではありません。指針が示しているのは、事案の内容や対応経緯を必要に応じて記録し、関係部門への共有や再発防止に活用するという考え方です。
とはいえ、対応経緯が記録されていないと、会社がどのような事実確認や配慮を行ったのかを、後から正確に説明しにくくなります。また厚生労働省は2023年9月に心理的負荷による精神障害の労災認定基準を改正し、業務による心理的負荷評価表の具体的出来事に「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」を追加しました。いつ報告を受け、どう対応したのかを示す記録は、こうした場面でも会社と従業員双方の助けになります。
混同しやすいクレーム報告書・実態調査報告書との違い
社内様式を整えるとき、最初につまずきやすいのが「既にある書類で代用できないか」という論点です。名前の近い3つの文書は、目的も読み手も異なります。
| 文書の種類 | 主な目的 | 中心に書く内容 |
|---|---|---|
| クレーム報告書 | 商品・サービスの改善 | 顧客の指摘内容と是正策 |
| カスハラ報告書 | 従業員の保護と組織対応 | 相手の言動・対応経過・従業員への影響 |
| 実態調査報告書 | 制度検討や社会への公表 | 国や自治体等が集計した統計データ |
特に注意したいのが、社内向けのパワハラ調査報告書との違いです。パワハラの様式は、行為者が自社の従業員であることを前提に設計されており、最終的な出口は懲戒処分の検討です。一方でカスハラの相手は社外の顧客であり、会社が処分を下すことはできません。出口になるのは、対応窓口の一本化や、来店・取引のお断り、外部への相談といった社外への対応です。そのため様式に必要なのは「行為者の所属や職位」ではなく、相手方の特定につながる情報や再来店の可能性、要求の内容と態様といった項目になります。パワハラ用の様式をそのまま流用すると、この最も重要な部分が空欄のまま運用されることになりかねません。
カスハラ報告書の提出後に会社が取るべき対応

様式が整っても、提出後の流れが決まっていなければ報告書は机の上で止まります。受理から保存までの道筋をあらかじめ設計しておきましょう。
受け取った上長が最優先で行う事実確認と初期対応
報告書が最も滞留しやすいのは、実は現場の上長の手元です。「自分のところで処理すべきか」「大ごとにしてよいのか」と迷ううちに時間が過ぎ、映像も記憶も失われていきます。受理から何時間以内に人事総務へ共有するかを、あらかじめ決めておくことをおすすめします。
受け取った直後に優先すべきは、書類の不備を指摘することではなく、本人の状態を確認することです。そのうえで、事実確認のために本人へ何度も同じ説明をさせないよう注意します。当時の場面を繰り返し語らせることは、本人にとって二次的な負担になり得るためです。周囲の従業員からの聴取や、防犯カメラ・通話録音といった記録の確認を組み合わせて、負担を分散させてください。
初期対応の重要性を示す例として、厚生労働省のカスタマーハラスメント対策企業マニュアルには、保護者から理不尽な言動を受けた教諭に対し、管理監督者である校長が事実関係を的確に把握しないままその場しのぎの対応を取ったことで、賠償責任が認められた裁判例が紹介されています。現場の管理職が一人で抱えず、組織として判断する体制が求められます。職場のハラスメントをめぐる裁判例は、あかるい職場応援団「裁判事例」でも公開されているため、社内研修の題材としても活用できます。
対応方針の決定と再発防止に向けた社内共有
事実確認を終えたら、会社としての方針を決めます。判断の軸になるのは、要求の内容が妥当か、そして要求の手段や態様が相当かという2点です。カスハラに該当すると判断した場合、選択肢には、以後の対応窓口を管理職に一本化する、来店や取引をお断りする、外部の専門家に相談する、犯罪に該当し得る言動については警察へ相談する、といった対応が含まれます。
カスタマーハラスメント防止指針では、特に悪質と考えられるものへの対処方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、実行できる体制を整備することが事業主の措置として示されています。どの段階で誰が外部へ相談するかを、事案が起きてから考えるのでは間に合いません。なお、法的手続の要否や進め方は事案ごとに異なるため、実際の判断にあたっては弁護士等の専門家に確認することが前提となります。
従業員からの相談を受け付ける方法、担当者の役割、社内外の連携先を具体化する手順は、カスハラ相談窓口の作り方と社外の相談先で確認できます。
あわせて必要なのが再発防止の視点です。同指針では、発生を契機に、原因や背景となった商品・サービス・接客の問題や、顧客とのコミュニケーション不足が把握された場合には、その問題自体の改善を図ることが取組例として挙げられています。個人が特定されない形に加工したうえで、事例と会社の対応を社内に共有することが、現場の判断基準を揃えることにつながります。
保存とプライバシー保護のルールを事前に決めておく
報告書には、従業員の心身の状態と顧客の個人情報という、性質の異なる機微な情報が同居します。そのため、閲覧できる役職の範囲、保管場所、共有時にマスキングする項目を事前に決めておく必要があります。カスタマーハラスメント防止指針でも、相談者等のプライバシー保護のために必要な措置を講じて労働者に周知すること、相談したこと等を理由に不利益な取扱いをしない旨を定めて周知・啓発することが、事業主の措置として示されています。
保存期間については、カスハラ報告書に共通する一律の年数が定められているわけではありません。法的対応の可能性、個人情報の保有期間、社内規程、再発防止への利用目的などを踏まえ、法務・労務・個人情報保護の担当者と協議して定めてください。報告書には録音や映像といった別の記録が紐づくため、それぞれの保存期間と廃棄の手順をセットで社内規程に明記しておくと運用が安定します。
カスハラ報告書を自社仕様に整え、現場に定着させる方法
最後は、様式を自社の実情に合わせて調整し、書き続けてもらうための工夫です。配布して終わりにしないための設計を確認しましょう。
厚生労働省の指針をもとに必要な記入欄を設計する
様式づくりの土台になるのが、公的機関の資料です。厚生労働省が2022年2月に公表したカスタマーハラスメント対策企業マニュアルには、カスハラの考え方、企業に求められる基本的な枠組み、現場対応や相談窓口の設計が整理されています。加えて、業種別カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(スーパーマーケット業編・宅配業編)があかるい職場応援団で公開されています。自治体の資料としては、東京都が2025年3月に公表したカスタマー・ハラスメント防止のための各団体共通マニュアルも参考になります。なお、これらの企業マニュアル類には、雇用管理上の措置を義務付ける法改正の成立前の内容である旨の注記が付されているため、最新の要件は指針本文で確認してください。
これらを読むときの視点は、文章をそのまま写すことではなく、指針が示す措置のうち、事案発生後の事実確認、従業員への配慮、顧客への対応、再発防止に関する項目を会社記入欄へ反映することです。報告書は、方針の周知や相談体制の整備、研修といった義務化対応のすべてを代替する書類ではありませんが、個別事案への対応漏れを確認するための実務ツールになります。
誤解しやすい点:パワハラ用の配布様式をそのまま流用しないでください
あかるい職場応援団のダウンロードコーナーでは「相談受付票」などの様式が配布されていますが、これらは社内の行為者を想定したパワハラ対応用です。そのまま使うと、相手方の特定情報や再来店の可能性といったカスハラ固有の欄が抜け落ちます。本記事の会社記入欄を参考に組み替えてください。
報告書を単独の書類で終わらせず、初動対応、エスカレーション、顧客への対応基準まで社内文書に落とし込む場合は、カスハラ対応マニュアルの作り方もあわせて確認してください。
業種と顧客接点に合わせて記入欄を入れ替える
次に行うのは、自社の顧客接点の洗い出しです。接点が変われば、残せる記録も、書くべき情報も変わります。
| 顧客接点 | 追加したい記入欄 |
|---|---|
| 対面(店舗・窓口) | 売場の位置、目撃者、防犯カメラ番号と時刻 |
| 電話 | 着信番号、通話録音のID、通話時間、架電回数 |
| メール・SNS | アカウント名やURL、原本の保存先、公開範囲 |
| 訪問・出張 | 訪問先、単独対応か複数対応か、退去を求めた時刻 |
例えばコールセンターであれば、同一人物からの架電回数を書く欄がないと執拗性を示せません。医療・介護であれば、相手が患者本人か家族かという続柄の欄が判断を大きく左右します。訪問販売や配送であれば、対応者が一人だったかどうかが安全配慮の観点で重要になります。自社の接点を書き出し、それぞれで「この欄がなければ後から困る」項目を足していけば、様式は実務に耐えるものへ近づきます。
報告をためらわせるのは様式の重さと心理的なハードル
整えた様式が使われなければ、体制は形だけのものになります。厚生労働省の令和5年度職場のハラスメントに関する実態調査報告書によると、顧客等からの著しい迷惑行為を受けた後の行動は「社内の上司に相談した」が38.2%である一方、「何もしなかった」も35.2%にのぼり、何もしなかった理由として最も多かったのは「何をしても解決にならないと思ったから」で56.1%でした。報告が上がらない背景には、様式の使いにくさだけでなく、報告しても状況は変わらないという諦めがあります。
そこで有効なのが、報告のハードルを段階的に下げる設計です。
- <二段構え>:まず3行程度の一次報告、詳細は後追いで書く
- <選択式>:チャネルや行為の類型はチェックボックスにする
- <入力手段>:スマートフォンの入力フォームからも提出できる
- <時間の確保>:報告を業務時間内の作業として明示する
記入に時間がかかる様式は、繁忙時間帯にはまず書かれません。詳細な記述が必要なのは重い事案だけであり、大半は短く記録できる形にしておくほうが、結果として組織に情報が集まります。
セカンドハラスメントを防ぐフィードバックの仕組み
報告が途絶える決定的な要因は、報告した本人が責められる経験です。「あなたの説明の仕方に問題があったのでは」といった反応は、報告した従業員をさらに傷つけるだけでなく、その様子を見た周囲にも「報告しないほうが安全だ」という学習を生みます。これを防ぐには、受理した側の第一声をあらかじめ決めておくのが確実です。まず報告に対する労いを伝え、事実確認はその後に行うという順序を、管理職研修で共有してください。
管理職・現場スタッフにどのような内容を学ばせるべきか、外部研修を選ぶ際の比較基準は、カスハラ研修の選び方とおすすめ研修で整理しています。
もう一つ欠かせないのが、処理結果を必ず本人に返すことです。会社としてどう判断し、何をしたのかが伝わらなければ、本人には何もしてもらえなかったという印象だけが残ります。短くても構わないので、判断と対応を本人に伝える工程を、会社記入欄の「本人へのフィードバック」として組み込んでおきましょう。
そのうえで会社が示すべきメッセージは、報告は評価される行動である、という一点に尽きます。報告件数が増えることを現場の問題と捉えず、これまで見えていなかった実態が可視化された成果として経営が説明すること。管理職の評価項目に報告の受理と共有を組み込むこと。この2つが、様式を配って終わりにしない体制の骨格になります。
【よくある質問】
Q. 7つの記載項目は法律で決まっている?
A. いいえ。法律や指針で全国共通の報告書様式が定められているわけではありません。本記事の7項目は、厚生労働省の指針・企業マニュアル等をもとに、編集部が実務上そろえておきたい記入欄として整理したものです。
Q. カスハラかどうか分からない段階でも報告してよい?
A. 報告してかまいません。該当性の判断は会社が行う事項であり、報告者に判断を求める運用にすると、報告そのものが上がらなくなります。様式にも「判断に迷う段階でも提出してよい」と明記しておくのが実務的です。
Q. パワハラ用の報告様式を流用してもよい?
A. そのままの流用はおすすめしません。パワハラの様式は行為者が自社の従業員である前提で作られており、相手方の特定情報や再来店の可能性、対応チャネルといったカスハラ固有の欄が不足しがちです。
Q. 相手の発言を正確に覚えていない場合はどう書く?
A. 鉤括弧を使わず、「趣旨としては」「正確な文言は不明だが」と明記して記録します。曖昧な記憶を正確な引用のように書くと、記録全体の信頼性が下がります。
Q. 報告書の保存期間は何年が正解?
A. 一律の年数は定められていません。法的対応の可能性、個人情報の保有期間、社内規程、再発防止への利用目的を踏まえ、法務・労務・個人情報保護の担当者と協議して定めてください。
Q. カスハラに該当しないと判断したら、対応は不要?
A. 不要とは限りません。商品・サービスや顧客対応に改善すべき点があった場合や、従業員に心身への影響が生じている場合は、必要な対応と配慮を行います。
まとめ:カスハラ報告書を整えて従業員を守る体制をつくろう
カスハラ報告書は、現場の記憶を組織の記録へ変え、次に同じ顧客と向き合う従業員を守るための文書です。報告者記入欄には、発生日時、発生場所・対応チャネル、対応者と関係者、相手方の情報、言動および要求の内容、対応の経過と関連記録、従業員への影響と本人の希望の7項目を備え、該当性の判断や対応方針は会社記入欄に分けておきましょう。発言は覚えている範囲で原文に近く記録し、不確かな部分はその旨を明記すれば十分です。7項目は法定の必須要件ではないため、自社の業種や顧客接点に応じて欄を入れ替えてかまいません。まずは本記事のテンプレートと自社の既存様式を見比べ、不足している欄を書き足すところから始めてください。報告書の整備とあわせて、会社として「カスハラを許さず、従業員を守る」という姿勢を明文化する場合は、カスハラ社内方針の例文・テンプレートも参考にしてください。
参考情報・編集部注記
編集部注記
本記事の7つの記載項目、報告者記入欄・会社記入欄の分け方、テンプレートおよび記入例は、カスハラ対策実務ガイド編集部が厚生労働省の指針・企業マニュアル・実態調査等の一次情報をもとに、企業の実務で使いやすい形へ再整理したものです(専門家監修なし・情報確認日:2026年8月6日)。法律で定められた全国共通の報告書様式ではなく、記入例も架空事例です。本文では、断定を避けて「望ましい」「参考になります」といった表現にとどめています。本記事は一般的な情報提供であり、個別事案への法的助言ではありません。自社の業種、顧客接点、社内規程に応じて調整し、個別事案の法的判断や規程の改定については、弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
本記事は、以下の公的機関の一次情報をもとに作成しています。最新の内容は各リンク先をご確認ください。
- 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」
- 厚生労働省「カスタマーハラスメント防止指針」(令和8年厚生労働省告示第51号・PDF)
- 厚生労働省「2026年(令和8年)10月1日から、カスタマーハラスメント対策等が義務化されます」(リーフレット詳細版・PDF)
- 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(PDF)
- あかるい職場応援団「業種別カスタマーハラスメント対策の取組支援」
- 厚生労働省「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」(PDF)
- 厚生労働省「精神障害の労災補償について」
- 東京都産業労働局「カスタマーハラスメントに関する実態調査」
- 東京都「カスタマー・ハラスメント防止のための各団体共通マニュアル」
更新履歴:2026年8月6日公開(令和8年厚生労働省告示第51号、厚生労働省カスタマーハラスメント対策企業マニュアル、令和5年度職場のハラスメントに関する実態調査、東京都カスタマーハラスメントに関する実態調査の内容を反映)。指針の改正、Q&Aの追加、公的様式の公表があった場合は本記事を改訂します。
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