カスハラ客を出禁にできる?法的根拠・判断基準・通知書の文例と5つの手順

特定のお客様の言動に現場が疲弊している、もう来店をお断りしたい——そう思いながらも、「出禁にして訴えられないか」「SNSで晒されないか」が気になり、踏み切れないままではないでしょうか。本記事では、2026年8月6日時点で公式情報を確認できた厚生労働省の指針・東京都のガイドライン・個人情報保護委員会のガイドライン等を突き合わせ、出禁の可否と法的根拠、対応レベルの判断基準、実行の5つの手順、そのまま使える通知書の文例2パターン、再来店時やリスト管理までの事後運用を、そのまま社内検討に使える形でまとめます。出禁は感情的な拒絶ではなく、事業者が本来持つ権利にもとづく措置です。判断基準と手順を整えておけば、従業員を守る現実的な選択肢になります。

この記事でわかること

  • 出禁の可否と法的根拠、慎重な判断が必要になる場面
  • カスハラ該当性の確認方法と、赤・黄・緑の対応レベルの分け方
  • 安全確保から社内共有までの実行5ステップ
  • 通知書で明確にすべき項目と、そのまま使える文例2パターン
  • 再来店時の対応、出禁リストの管理、期間と解除の決め方

結論:民間の店舗・施設では、法令や既存の契約等に反しない限り、カスハラを行った顧客を出禁にすることは原則として可能です。出禁の通知に法律で定められた様式はなく、口頭でも通知できます。ただし、通知した事実を残せるよう、書面やメール等での記録化が望まれます。医療・介護・交通・宿泊など個別法や契約上の義務がある場合、予約や会員契約等の既存契約がある場合は、個別の検討が必要です。

カスハラ対策実務ガイド編集部の結論
編集部では、出禁対応で最も差がつくのは通知書の文面ではなく「カスハラ該当性の判断」と「出禁という措置の妥当性の判断」を切り分けられているかだと考えます。該当性は入口の判定にすぎず、どの措置を選ぶかは被害の程度と再発可能性から別に決めるものです。判断基準・決裁者・通知方法・事後運用を組織のルールとして設計し、判断の経緯を記録として残す——この2点が、施行日までの実務の芯になります。

なお本記事の対応レベル表、チェックリスト、通知書の文例は、一次情報をもとに編集部が実務向けに再構成したもので、法定の様式ではありません。指針の改正や新たな裁判例の公表により内容が変わる可能性があるため、最新の情報は必ず各公的機関の公式ページでご確認ください。個別の事案で出禁が適法かどうかの判断や、既存契約の解除などの法的論点については、弁護士等の専門家にご相談ください。

この記事の編集者

カスハラ対策実務ガイド編集部

カスハラ対策実務ガイド編集部

カスハラ対策実務ガイドは、企業・店舗・現場担当者に向けて、カスタマーハラスメント対策に役立つ実務情報を発信するWebメディアです。編集部では、カスハラの基礎知識、社内体制づくり、従業員を守る対応手順、マニュアル整備のポイントなどを、現場で活用しやすい形でわかりやすくお届けしています。

カスハラ客は原則として出禁にできる|法的根拠と限界

ここでは、出禁がそもそも認められる措置なのかを、根拠と限界の両面から整理します。あわせて、出禁と混同されやすい他の措置との違いも確認します。

出禁・取引拒否・対応打ち切りは対象範囲が異なる

法的根拠の前に、混同されやすい3つの措置を切り分けます。ここが曖昧なまま出禁だけを通知すると、「店には来なくなったが電話とメールでの要求が止まらない」という穴が残るためです。

措置制限する対象主な場面併用の要否
出禁(立ち入り拒否)店舗・施設への入店、入館、敷地内への立ち入り店頭での暴言、居座り、他の顧客への迷惑行為電話・メールでの接触は止まらないため、単独では不十分な場合がある
取引・サービス提供の拒否今後の契約、注文、予約、会員継続、配送、来訪サービス等ECや通販、予約制サービス、BtoB取引、訪問サービス来店を伴わない業態では中心的な措置になる
対応の打ち切り・窓口制限電話やメールの対応回数・時間、担当者、受付窓口執拗な連絡、長時間拘束、同一要求の反復出禁・取引拒否と併せて設定する

事案によっては、「出禁+連絡手段の制限」をセットで設計する必要があります。自社の業態で顧客との接点がどこにあるかを洗い出し、組み合わせを決めてください。

契約自由の原則・施設管理権と裁判例から分かること

【情報確認日:2026年8月6日】前提として、「出禁」は法律に定義のある用語ではなく実務上の呼称です。裏づけとなるのは、事業者が誰と契約するかを自ら決められるという契約自由の原則と、施設の所有者・管理者が秩序を保つために誰をどのような態様で立ち入らせるかを決められるという施設管理権の2つです。

行政もこの考え方を前提としています。東京都の「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」(令和6年12月19日、6産労雇労第1524号)および「TOKYOノーカスハラ支援ナビ」は、事業者がとるべき対応例として、著しい迷惑行為の事実が認められた場合に施設管理権(民法第206条)にもとづき施設外への退去を命じること、および出入り禁止となった顧客等が再び来訪した場合にも同様に退去を命じることを挙げています。

ただし同じ資料は、正当な理由のない恣意的な退去要請や出入り禁止、商品・サービスの提供拒否がないよう十分に留意することも求めています。「何でも自由に断れる」という理解は誤りであり、後述する判断基準と記録が不可欠です。

裁判例もこの考え方を補強します。平成29年1月12日静岡地方裁判所沼津支部判決は、温泉旅館の出入り禁止処分に対し相手方が損害賠償を請求した事案で、当該処分は不法行為とはいえないと判断しました。その根拠として、公共の建物ではない建物の所有者・管理者は、法令等に反しない限り、誰を立ち入らせ誰を立ち入らせないかを自由に決定できるのが原則である、との考え方が示されています。ただし下級審の一事例であり、あらゆる出禁が適法と保証されるものではありません。

既存契約や医療・介護など出禁を慎重に判断すべきケース

「公共性が高いから出禁にできない」という線引きは実務では機能しません。確認すべきは、契約と個別法によって自社に提供義務が生じていないかです。次のいずれかに当てはまる場合は、通知の前に個別の検討が必要です。

  • 既存契約が残っている>:予約、会員契約、定期契約、前払い・回数券など
  • 個別法や契約上の提供義務がある>:医療、介護、福祉、交通、宿泊など
  • 言動との関係の確認が必要>:障害特性、認知症、疾病等が背景にある可能性
  • 差別と評価されるおそれ>:人種・性別・障害・国籍等の属性が判断に混入している

絶対に避けるべきなのは、属性そのものを理由に立ち入りを断ることです。判断の対象はあくまで当該顧客の言動であり、その言動と契約・法令上の義務との関係を個別に確認する順序を崩さないでください。障害のある方への合理的配慮が必要な場面と、社会通念上許容される範囲を超えた言動は切り分けて扱います。合理的配慮の考え方は、内閣府「障害を理由とする差別の解消の推進」で公開されている事例集が参考になります。

また既存契約がある場合は、契約の解除・解約や返金処理と、施設への立ち入り制限を分けて検討するのが実務上の要点です。返金や修理の義務が残っているのに連絡を一切遮断すると、別のトラブルを招きます。判断に迷う場合は、業界所管の法令を確認したうえで弁護士にご相談ください。

特に介護施設では、利用者の生活の場であることや、利用契約・重要事項説明書との関係から、一般店舗と同じ考え方で直ちに利用停止や退去へ進めない場合があります。介護施設特有の判断基準は、介護施設のカスハラ対応と契約解除の進め方で詳しく解説しています。

出典:東京都「TOKYOノーカスハラ支援ナビ/事業者がとるべき対策」(2026年8月6日確認)

カスハラ客を出禁にするか判断する基準

カスハラ客を出禁にするか判断する基準

ここからは、法律上できるかではなく、自社として出禁にすべきかを決める基準を扱います。公式の定義から、現場が使える判断表まで落とし込みます。

要求内容と手段・態様の両方からカスハラ該当性を確認する

判断の出発点は、公的な定義に照らして「そもそもカスハラに当たるのか」を確認することです。カスハラ対策の義務化は改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号、2025年6月11日公布)にもとづくもので、その内容を具体化したのが、2026年2月26日に告示された厚生労働省の「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号、2026年10月1日施行)です。同指針は、職場におけるカスタマーハラスメントを次の3つの要素をすべて満たすものと定義しています。

  • 要素①:職場において行われる顧客等の言動であること
  • 要素②:業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものであること
  • 要素③:それにより労働者の就業環境が害されるものであること

電話やSNS等インターネット上の言動も対象です。実務で最も判断が割れる要素②について指針は、言動の「内容」「手段や態様」に着目して総合的に判断するとし、いずれか一方が社会通念上許容される範囲を超えた場合にも該当し得るとしています。厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」が示す、要求内容の妥当性と手段・態様の相当性という2段階の確認と同じ枠組みです。

具体的には、要求内容に一定の妥当性があっても、伝え方が暴力的・威圧的・継続的・拘束的・差別的・性的であれば、社会通念上不相当と考えられ該当し得ます。逆に、言い方は穏当でも契約内容を著しく超えた要求など内容そのものが不当な場合もあります。判断では、発生の経緯、頻度、継続性、業種・業態、従業員の心身の状態などを総合的に考慮します。厚生労働省のポータルサイト「あかるい職場応援団」で公開されている研修資料も参考になります。

見落とせないのが、自社側に原因となる問題がなかったかを先に確認することです。説明不足、商品の不具合、対応ミス、案内の誤りが起点になっていないかを確認します。事実にもとづく正当な苦情や改善要望はカスハラではなく、業務改善の材料です。要求内容と手段・態様の具体的な線引きは、カスハラとクレームの違いを判断する5つの基準で詳しく解説しています。

危険性・継続性・業務妨害性から対応レベルを3段階に分ける

公式の定義は該当性の判定であり、そのままでは「どこまでの措置を取るか」の答えになりません。危険性・継続性・業務妨害性の3軸で状況を仕分け、対応レベルに変換しておくと判断がぶれにくくなります。次の3段階を自社の基準表のたたき台としてください。

レベル該当する状況の例想定する措置
赤(即時対応)暴力、脅迫、器物損壊、つきまとい、重大なセクシュアルハラスメント、危険物の持ち込み段階的警告を経ずに、安全確保・退去要請・警察通報・即時の出禁を検討する
黄(警告後に判断)暴言、執拗な電話やメール、長時間の拘束、同一要求の反復、土下座や謝罪文の強要警告、対応時間・回数の制限、担当者変更、窓口一本化を行い、改善がなければ出禁・取引停止を検討する
緑(通常対応)商品や対応上の事実にもとづく苦情・改善要望であり、脅迫、人格否定、長時間拘束、同一要求の反復等がなく、就業環境を害する程度に至っていないもの通常のクレーム対応を継続する。出禁の対象としない

この表は、厚生労働省指針をもとに編集部が実務向けに整理した目安です。分類にあたっては、回数ではなく行為の重大性と就業環境への影響で判断することが重要です。カスハラの定義に反復性は必須とされておらず、一度の脅迫や深刻な人格否定であっても該当し得ます。

そのうえで押さえておきたいのが、カスハラに該当すると判断したことと、出禁が適切であることは別問題であるという点です。該当性は入口の判定にすぎず、実際にどの措置を選ぶかは、従業員が受けた被害の程度と再発可能性の2点から決めます。措置が重すぎれば相当性を欠くと評価される余地が残り、逆に安全が脅かされている場面で段階にこだわれば従業員を危険にさらします。

この判断基準を社内で運用できる確認項目に落とし込みたい場合は、カスハラ判断・初動対応チェックリストも活用してください。チェックリストは、現場担当者がカスハラを確定するためではなく、上司や本部へ報告する基準として使用します。

警告・窓口一本化・対応打ち切り・出禁を使い分ける

黄レベルの事案では、いきなり出禁に飛ばず段階を設けます。警告 → 対応時間・回数の制限 → 担当者変更・窓口一本化 → 対応打ち切り → 取引停止 → 出禁、という順序で強度を上げるのが基本形です。

段階を踏むことには、改善の機会を与える意味だけでなく、後に出禁の判断が恣意的でなかったことを説明する材料が残るという効果があります。「いつ、どのような警告をし、その後どう変化しなかったか」の記録があれば、判断の経緯を筋道立てて示せます。

一方、暴力や明確な脅迫等がある場合は、段階的な警告よりも安全確保を優先します。従業員を相手から離し、状況に応じて退去要請や警察への通報を行ってください。

また、対応の打ち切りを担当者一人の判断で行わないことも大切です。東京都の「カスタマー・ハラスメント防止のための各団体共通マニュアル」(令和7年3月)でも、対応を中止する際は、組織としての回答であること、説明を尽くしていること、これ以上の議論はできないことを伝えたうえで終了する進め方が示されています。誰の判断で何を伝えて打ち切ったのかを明確にしておくことが、その後の出禁判断の土台になります。

出典:厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号/2026年8月6日確認)

カスハラ客を出禁にする5つの手順

カスハラ客を出禁にする5つの手順

ここでは、出禁を決めてから運用に乗せるまでの流れを時系列の5ステップで示します。通知書の記載項目と文面は次のセクションで扱うため、本セクションは社内をどう動かすかに絞ります。前セクションで決めた対応レベルが、そのまま手順2以降の判断材料になります。

手順1 従業員の安全を確保し事実と証拠を保全する

最初に行うのは、被害を受けた従業員を相手からいったん離すことです。対応は複数名に切り替え、以降は一人で応対させません。暴力・脅迫など緊急性がある場合は、記録より先に警察へ通報します。

安全を確保したら、事実の保全に移ります。記録する項目は、日時、場所、発言内容、行為、要求内容、対応に要した時間、対応者、目撃者です。あわせて録音、録画、防犯カメラ映像、メール、チャット、通話履歴を確保します。防犯カメラは保存期間を過ぎると上書きされるため、当日中に該当箇所を切り出しておくのが安全です。

記録の作法として徹底したいのが、事実と、担当者の感想・人格評価を必ず分けて書くことです。「態度が異常だった」ではなく、「14時05分から約40分間、レジ前で大声を出し続けた」と書きます。この記録は後に開示請求を受けたり、訴訟で証拠として扱われたりする可能性があるため、誰が読んでも同じ場面を再現できる書き方を基準にしてください。

手順2 社内基準と契約関係を確認して決裁を取る

出禁は現場担当者だけで決める措置ではありません。誰が判断し誰が決裁するかを、あらかじめ規程で定めます。決裁の前に確認すべきは、その顧客との間に残っている法律関係です。

  • 既存契約>:予約、会員契約、定期契約の有無
  • 金銭関係>:前払い金、回数券、未精算の代金
  • 未処理案件>:返金、修理、交換、保証対応
  • 進行中の苦情>:まだ回答していない申し出の有無

あわせて、入店を断るだけでよいか、取引停止や連絡制限まで必要かを検討します。切り分けは前半の措置の比較表を基準にしてください。最後に、決裁者と通知者を分けて明確にすることが重要です。通知するのは現場の一担当者ではなく責任者以上とします。

出禁の判断基準、決裁者、警告から出禁へ切り替える条件、警察・弁護士との連携基準まで社内文書に落とし込む方法は、カスハラ対応マニュアルの作り方と必須項目で解説しています。

手順3 出禁の範囲・期間・連絡窓口・通知方法を決める

通知の前に条件を確定させます。曖昧なまま伝えると、後から「あの店では断られたが、こちらの店では聞いていない」といった食い違いが生じます。次のチェックリストで漏れを確認してください。

  • 対象範囲:当該店舗のみか、同一法人の全店舗か
  • 制限内容:入店だけか、予約・注文・配送・電話・メールも対象か
  • 開始日:即日か、通知到達後か
  • 期間:期間を定めるか、定めずに見直し時期を決めるか
  • 連絡窓口:返金・契約解除・保証対応など正当な処理を受け付ける窓口と連絡方法
  • 通知方法:口頭、電話、メール、書面のいずれか(併用可)
  • 記録方法:誰が、何を、どう残すか

「全店舗を対象にできるか」という疑問がよく生じます。同一法人が運営する他店舗を対象範囲に含めることも考えられますが、無条件ではありません。行為の重大性、他店舗での再発可能性、既存契約の有無などを踏まえ、必要かつ相当な範囲に限定してください。あわせて、社内で共有する顧客情報が、当初特定した利用目的の範囲内かどうかも確認が必要です。なお、別法人であるグループ会社やフランチャイズ加盟店まで自社の判断で含めることは避けます。その理由は、後半の出禁リストの管理に関する項目で説明します。

期間についても、無期限にしなければならない決まりはありません。事案に応じて設計し、期間を定めない場合でもいつ見直すかは決めておきます。詳しくは後半の解除条件の項目で扱います。

手順4 出禁を明確に通知し通知した事実を記録する

通知の場面では、「今後のご来店をお断りします」と解釈の余地なく伝えます。「しばらく控えていただけますか」といった曖昧な表現では、制限の対象や期間について双方の解釈が分かれる可能性があります。また、担当者個人の判断ではなく会社としての判断であることを明示してください。

通知の場は他のお客様がいない場所を選び、複数名で対応します。逆上が予想される場合は退避経路と通報体制を準備しておきます。電話で通知する場合も、可能な限り複数名で対応状況を共有します。録音する場合は、社内の録音ルール、利用目的、保存期間、閲覧権限等を確認したうえで実施してください。

通知後は、通知した日時、方法、伝えた内容、相手の反応、同席者を記録します。その場で口頭により伝えたうえで、後日同じ内容を書面で送付すれば、通知した内容と経緯を記録として残しやすくなります。

なお、通知書を作成しなければ出禁の効力が生じないというわけではありません。通知に法律上定められた様式はなく、口頭でも通知は可能です。書面化する目的は、通知した事実と内容を客観的に残すことにあります。義務化に向けて社内体制そのものを整える場合は、厚生労働省のリーフレット(詳細版)で、講ずべき措置の全体像をあわせて確認してください。

手順5 関係者に共有し再来店時の対応を決める

最後に、決定内容を現場が動ける形にします。共有先は業務上必要な最小限の従業員に限定し、共有する情報も本人を取り違えないために必要な範囲にとどめます。同姓同名や容貌が似ているだけの別人を誤って制止すれば、それ自体が新たなトラブルになります。

そのうえで、来店時の声かけ、責任者への連絡経路、警察へ通報する基準の3点をあらかじめ決めておきます。具体的な言い回しは後半の再来店時の対応で示します。

あわせて厳守したいのが、顔写真や氏名を店頭に掲示したりSNSで公開したりしないことです。名誉毀損やプライバシー侵害の問題となり得るため、共有は社内の限定的な範囲にとどめます。

カスハラの出禁通知書の書き方と文例

前述のとおり通知書は法律上必須の書式ではありません。ここでは通知した事実と内容を明確に残すための文書として、記載項目と文面の作り方を解説します。

通知書で明確にすべき項目とそのまま使える文例

通知書に盛り込みたい項目を整理します。いずれも法定の必須様式ではなく、後から解釈の争いが生じやすい点を先回りして潰すためのものです。

項目記載の要点
宛名相手の氏名。判明している範囲で正確に
通知日発信日
問題となった行為日時・場所・行為の内容を事実ベースで特定
断る内容来店・入館・取引・予約等のどれを断るか
対象範囲対象となる店舗・施設・サービス
適用開始日いつから適用されるか
連絡窓口返金・契約処理等が残る場合の受付先
違反時の対応立ち入った場合に退去を求め、必要に応じて警察へ連絡する旨
発信者会社名、部署、責任者名

上表は編集部が実務向けに整理したもので、法定の書式ではありません。なお、社印は必須項目ではありません。会社としての判断であることを示す手段の一つではありますが、押印がないから通知が無効になるわけではありません。以下、行為の重大性が異なる2つのパターンの文例を示します。

文例A:警告後も迷惑行為が続いたケース

◯◯◯◯ 様

令和◯年◯月◯日

株式会社◯◯◯◯ ◯◯店 店長 ◯◯◯◯

ご来店のお断りについて

平素より当店をご利用いただき、誠にありがとうございます。

◯◯◯◯様におかれましては、令和◯年◯月◯日および同年◯月◯日、当店店頭において、従業員に対し◯◯分以上にわたり大声での発言を繰り返され、他のお客様のご利用および当店の業務に支障が生じました。当店より令和◯年◯月◯日に改善のお願いを申し上げましたが、その後も同様の状況が続いております。

つきましては、誠に恐れ入りますが、令和◯年◯月◯日以降、当店(◯◯店)へのご来店、および当店従業員・店舗へのお電話・メールでの直接のご連絡をお断りさせていただきます。今後のご連絡は、下記のお客様対応室に限らせていただきます。

なお、ご購入いただいた商品の返品・返金等のお手続きが残っている場合は、下記窓口にて承ります。

【お問い合わせ窓口】株式会社◯◯◯◯ お客様対応室 電話◯◯◯-◯◯◯◯-◯◯◯◯(平日◯時〜◯時)

本件に関する今後のご連絡は、上記窓口までお願いいたします。何卒ご理解を賜りますようお願い申し上げます。

文例B:暴力・脅迫等により即時に出禁とするケース

◯◯◯◯ 様

令和◯年◯月◯日

株式会社◯◯◯◯ ◯◯事業部 部長 ◯◯◯◯

ご来店およびお取引のお断りについて

◯◯◯◯様は、令和◯年◯月◯日◯時頃、当社◯◯店店内において、従業員に対し身体的接触を伴う行為および「◯◯」との発言を行われました。当該行為は、従業員の安全を著しく損なうものです。

つきましては、令和◯年◯月◯日以降、当社◯◯店を含む当社が運営する全店舗へのご来店・ご入館、ならびに当社との今後のお取引をお断りいたします。

今後、当社施設内に立ち入られた場合には、退去をお求めするとともに、状況に応じて警察に連絡いたします。

なお、ご契約の解約手続き等が必要な場合は、下記窓口にて書面により承ります。

【窓口】株式会社◯◯◯◯ 法務部 住所◯◯◯◯/電話◯◯◯-◯◯◯◯-◯◯◯◯

以上、通知いたします。

文例Bは全店舗と今後の取引全体という広い範囲を想定した文面です。行為の重大性や既存契約の有無に応じ、必要な範囲だけを残して使用してください。また、開始日は「本書面到達をもって」とせず日付で固定するほうが安全です。内容証明郵便だけでは受領まで証明されないため、到達を起点にすると開始日が確定しない場合があります。

文例を自社用に書き換える際は次の4点を守ってください。通知書は相手方の手元に残り、そのまま公開される可能性のある文書だという前提で作成します。

  • 人格を否定しない>:「異常」「悪質」等の評価語を使わない
  • 個人情報を書き込みすぎない>:被害を受けた従業員の氏名等は最小限に
  • 事実ベースで書く>:公開されても企業側が不利になりにくい表現にする
  • 窓口を必ず案内する>:返金・契約処理等が残る場合の受付先を明記する

行為の重大性と再発リスクに応じて文面を調整する

2つの文例は、丁寧さの度合いではなく目的が異なります。文例Aは事実の指摘と適用範囲の明示が主目的、文例Bは安全確保を最優先し、適用と違反時の対応を明確に伝えることが主目的です。自社の事案に合わせる際は、次の3つの観点で調整します。

  • 前置きの量>:謝意や挨拶をどこまで入れるか
  • 適用範囲>:当該店舗に限るか、全店舗・全取引に及ぼすか
  • 違反時の対応>:退去要請や警察への連絡をどこまで具体的に書くか

そのうえで最も重要なのは、トーンよりも行為の特定の精度です。日時・場所・行為の内容を具体的に記載しておけば、後から双方の認識が食い違った場合にも、争点と判断の根拠を整理しやすくなります。逆に記載が抽象的なままでは、どれほど丁重な文面でも火種が残ります。手順1で保全した記録を、そのまま文面に反映させてください。

内容証明郵便や弁護士名義を検討すべきケース

重大な事案では、通知の送り方自体も検討します。ここで誤解が多いのが内容証明郵便です。内容証明郵便を使えば通常の文書より法的効力が強まる、というものではありません。

誤解しやすい点:内容証明は、記載内容が真実であることまで証明するものではありません
日本郵便の説明によれば、内容証明は、いつ、いかなる内容の文書が誰から誰宛に差し出されたかを、差出人が作成した謄本によって証明する制度です。そして同社が証明するのは内容文書の存在であり、文書の内容が真実であるかどうかを証明するものではないとされています。こちらの主張が正しいと公的に認められるわけではなく、いつ、どのような内容の文書を差し出したかを証明しやすくしたい場合に用いられる手段だと理解してください。相手に届いたことの記録まで残すには、配達した事実を証明する配達証明の併用を検討します。

弁護士への相談・依頼を検討すべきなのは、次のような場面です。

  • 行為が重大>:暴力、脅迫、ストーカー的な行為があった
  • 金銭要求がある>:高額の損害賠償を求められている
  • 措置の範囲が広い>:全店舗規模での出禁、既存契約の解除を伴う
  • 相手が法的対応に出た>:相手方が弁護士を立てた

弁護士名義で通知を送る利点は文書の重みだけではありません。以後の連絡窓口を社外に置けるため、従業員が相手方と直接やり取りせずに済む点が、現場にとって最も大きな効果になります。

出禁や警告だけでは行為が止まらず、差止め、損害賠償請求、被害届、刑事告訴等を検討する場合は、カスハラで顧客を訴える方法と民事・刑事の手段も確認してください。出禁にすることと、相手の法的責任を追及することは別の手続きです。

出典:日本郵便「内容証明」/「配達証明」(2026年8月6日確認)

カスハラを理由に出禁にした後のトラブルへの備え

カスハラを理由に出禁にした後のトラブルへの備え

出禁は通知して終わりではなく、その後の運用まで設計して初めて機能します。ここでは再来店・現場対応・リスト管理・期間の見直しの4点を扱います。

再来店時は退去を求め必要に応じて警察へ通報する

出禁を通知した相手が再び来店した場合、まず行うのは退去を求めることです。刑事上は、事前に出禁を通知した人物が施設に立ち入った場合には建造物侵入罪が、入店後に退去を求めても応じない場合には不退去罪(刑法第130条)が問題となり得ます。ただし成立の可否は個別の事情により判断されるため、必ず犯罪が成立すると断定はできません。現場では「罪に問える」と決めつけず、退去を求めたうえで警察の判断を仰ぐ進め方が安全です。

東京都の指針でも、退去に応じない場合には不退去罪(刑法第130条後段)が成立し得る旨を伝えたうえで、弁護士や警察と連携して対応することが示されています。警察に来てもらう場合に備え、出禁を通知した記録(日時・方法・内容)、本人確認に使える資料、当日の状況とやり取りの3点をすぐ出せるようにしておいてください。

現場での声かけは、感情を交えず事実と依頼だけを伝えます。

「◯◯様、当店は令和◯年◯月◯日付の書面でご来店をお断りしております。恐れ入りますが、ご退店をお願いいたします。」

「ご要望がある場合は、お客様対応室の◯◯番までご連絡ください。この場ではお受けできません。」

警察へ通報する際は、次のように状況を伝えます。

「◯◯店です。令和◯年◯月◯日に書面で出入り禁止を通知した人物が来店しています。退去をお願いしましたが応じていただけません。現在も店内におり、他のお客様がいらっしゃいます。」

伝えるべき要素は、①出禁を通知済みであること、②退去を求めたこと、③現在も応じていないこと、④現場の危険性、の4点です。この順序をメモにして各店舗に配っておくと、動揺した状況でも情報を落とさずに伝えられます。

従業員が実力で排除しないための行動ルールを決める

再来店の場面で最も避けたいのは、従業員が相手を実力で店外に出そうとすることです。腕を掴む、押し出すといった行為は、状況によっては暴行罪等に問われるおそれがあり、こちらが加害者側として扱われかねません。実力行使には踏み込まないという線引きを、事前に共有しておく必要があります。

現場に配る行動ルールは、判断を要しない断定形で示してください。

  • 相手に触らない、無理に押し出さない
  • 店外に出た相手を追いかけない
  • 複数名で距離を取って対応する
  • その場で責任者へ連絡する
  • 迷ったら通報基準に従って警察へ通報する

このルールをバックヤードへの掲示や研修で周知しておくことは、労働契約法第5条が定める安全配慮義務の観点からも意味があります。ただし、掲示や研修だけで安全配慮義務を果たしたことになるわけではありません。責任者への連絡、警察への通報、被害を受けた従業員へのフォローが実際に機能する体制まで整えて、はじめて意味を持ちます。

出禁リストは個人情報保護と誤認防止を踏まえて管理する

出禁にした顧客の情報を社内で共有する際は、個人情報保護法との関係を整理しておく必要があります。氏名・顔写真・会員番号等により特定の個人を識別でき、検索できるよう体系的に構成して管理している場合には、個人情報データベース等を構成する個人データ、さらには保有個人データに該当し得ます。詳細は個人情報保護委員会の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」およびガイドラインQ&Aをご確認ください。

共有の範囲は、次の2つを区別して運用します。

  • 同一法人内の他部署・他店舗>:同一事業者内での利用にあたり、原則として第三者提供ではない。ただし当初特定した利用目的を超える利用は目的外利用の問題が生じるため、利用目的の記載を確認しておく
  • 別法人のグループ会社・FC加盟店>:原則として第三者提供として検討が必要。手順3で対象範囲に安易に含めないとしたのは、この違いがあるため

グループで共有したい場合は共同利用の枠組みを用いる方法があります。その場合、共同利用する旨、共同して利用される個人データの項目、共同して利用する者の範囲、利用する者の利用目的、当該個人データの管理について責任を有する者の氏名または名称および住所(法人の場合は代表者の氏名を含む)を、共同利用の開始前に本人へ通知するか、本人が容易に知り得る状態に置くことが必要です(ガイドライン(第三者提供時の確認・記録義務編))。

実際の管理では、次の項目を満たしているか確認してください。

  • ☐ 利用目的を明確にし、社内で共有している
  • ☐ 登録する情報を、識別に必要な最小限にとどめている
  • ☐ 事実と担当者の評価・所見を分けて記録している
  • ☐ 閲覧できる従業員を限定している
  • ☐ 更新の責任者を決めている
  • ☐ 保存期間と削除の基準を決めている
  • ☐ 同姓同名・容貌の類似による誤認を防ぐ確認手順がある
  • ☐ 同一法人内の共有と、別法人への提供を区別して運用している
  • ☐ 開示・訂正・利用停止等の請求を受ける可能性を想定した記載になっている

上記のチェックリストは、個人情報保護委員会のガイドラインをもとに編集部が実務向けに整理したものです。実務上は最後の項目が最も効きます。保有個人データに該当する場合、本人から開示等の請求を受ける可能性があるためです。記録は「本人に見られても差し支えない事実の書き方」で残す——この原則を守ることが、開示請求や社内共有に伴う管理リスクの低減につながります。

出禁の期間・解除条件・見直し方法を決めておく

出禁の期間について、無期限が原則ということはありません。設計には次の3つの考え方があり、事案によって適するものが変わります。

  • 期間を定めない>:見直し時期のみ設定する。重大な行為や再発可能性が高い事案に適する
  • 一定期間を定める>:1年など期限を区切る。行為が単発で改善の余地がある事案に適する
  • 定期的に見直す>:半年ごと等の点検を組み込む。長期の会員契約等がある事案に適する

いずれを選ぶかは、行為の重大性、再発可能性、謝罪や改善の有無、そして従業員の安全と心情から判断します。被害を受けた従業員がまだ在籍している場合、その心情を無視した早期解除は、会社が従業員を守らなかったという受け止めにつながります。

あわせて、解除の申請を受け付ける窓口と、解除を判断する決裁者も決めておきます。そして担当者や店長が交代しても同じ判断ができるよう、なぜ出禁としたのかという理由と経緯を記録として残すことが欠かせません。数年後に「前任者が決めたことなので分からない」となれば、解除の可否も再来店時の対応も判断できなくなります。

出典:個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」(2026年8月6日確認)

まとめ:カスハラの出禁は判断基準・通知・事後対応まで組織で設計する

カスハラを理由とする出禁は、法令や既存の契約等に反しない限り原則として可能ですが、可否の判断だけを切り出しても現場は動けません。どの措置を選ぶかの基準、誰がどう通知するかの手順、通知した後の再来店対応とリスト管理までがつながって、初めて従業員を守る仕組みとして機能します。

次の一歩として、自社の規程やマニュアルに、入店・入館の制限、取引の停止、対応の打ち切りと窓口の一本化、警察・弁護士への連携基準を明記してください。会社としての基本姿勢をまだ文書化していない場合は、カスハラ社内方針の例文とテンプレートをもとに、出入り禁止や取引停止に関する方針を追加できます。

出禁の運用ルールは、カスハラ対策全体の一部です。2026年10月1日の施行までに必要となる方針、相談窓口、対応フロー、記録様式、研修等の全体像は、カスハラ対策義務化で企業がやるべき5つの措置で確認してください。

参考情報・編集部注記

編集部注記
本記事は、カスハラ対策実務ガイド編集部が厚生労働省の指針、東京都の指針・マニュアル、個人情報保護委員会のガイドライン、日本郵便の制度説明等の一次情報を調査し、判断基準、実行手順、通知書の文例、事後運用として再構成したものです(専門家監修なし・情報確認日:2026年8月6日)。記事内の対応レベル表、チェックリスト、通知書の記載項目と文例は、一次情報をもとに編集部が実務向けに再整理したものであり、法定の分類や様式ではありません。本文では、断定を避けて「該当し得る」「問題となり得る」といった表現にとどめています。本記事は一般的な情報提供であり、個別事案への法的助言ではありません。個別の事案で出禁が適法かどうかの判断や、既存契約の解除・返金処理などの法的論点については、弁護士等の専門家にご相談ください。

なお、平成29年1月12日静岡地方裁判所沼津支部判決は、判決文の全文を公的データベースで確認できていないため、判示内容を紹介する公開情報にもとづいて記載しています。下級審の一事例であり、この判決のみをもってあらゆる民間施設での出禁が適法になるものではありません。

本記事は、以下の公的機関の一次情報をもとに作成しています。最新の内容は各リンク先をご確認ください。

更新履歴:2026年8月6日公開(令和8年厚生労働省告示第51号、東京都の指針・各団体共通マニュアル、個人情報保護委員会ガイドラインの内容を反映)。指針の改正、新たな裁判例の公表、自治体条例の新設・改正があった場合は本記事を改訂します。