カスハラ条例とは?自治体一覧・罰則・義務化との違いと5つの対応

「自社の地域にカスハラ条例はあるのか」「条例に罰則はあるのか」「2026年10月の国の義務化と何が違うのか」——カスハラ対策の担当者がいま最も整理しづらいのがこの3点です。本記事では、カスハラ条例の基礎から、制定自治体の一覧、東京都条例のポイント、罰則の有無、国の義務化との違い、企業が備える5つの対応までを、担当者がそのまま社内で動ける形で整理します。

この記事でわかること

  • カスハラ条例とは何か、どんなルールなのか
  • 東京都をはじめ、どの自治体が条例を制定しているか(一覧)
  • カスハラ条例に罰則はあるのか、刑事・民事責任との関係
  • 2026年10月の国の義務化と条例の違い
  • 企業が施行日までに整えるべき5つの対応

カスハラ条例とは、顧客等による暴言・脅迫・過度な要求・長時間の拘束などの著しい迷惑行為から就業者を守るために、自治体が基本理念・関係者の責務・事業者の取組などを定めた条例です。多くは罰則で取り締まるよりも、社会全体でカスハラを防止するためのルールづくりを目的としています。さらに2026年10月1日からは、条例の有無にかかわらず、従業員を雇用するすべての事業主にカスハラ防止のための雇用管理上必要な措置が義務化されます。義務化で企業が整えるべき全体像は、カスハラ対策義務化で企業がやるべき5つの措置で詳しく解説しています。

カスハラ対策実務ガイド編集部の結論
カスハラのルールは、自治体ごとの「条例」と、国の「義務化」という二層構造で理解するのが要点です。東京都条例(2025年4月1日施行)をはじめ多くの条例に罰則はなく、三重県桑名市のように公表の仕組みを持つ例が例外。一方、2026年10月1日からの国の義務化は全国一律で、条例がない地域でも対応は避けられません。条例の有無を待つのではなく、方針明文化・相談窓口・対応マニュアル・研修・記録体制という最低ラインから、施行日までに着手することが重要です。

なお本記事の編集部独自整理は、RILG・厚生労働省・東京都・桑名市などの公的な一次情報をもとに、企業の実務担当者が判断・行動しやすい形へ再構成したものです。個別事案の法的判断については、弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

この記事の編集者

カスハラ対策実務ガイド編集部

カスハラ対策実務ガイド編集部

カスハラ対策実務ガイドは、企業・店舗・現場担当者に向けて、カスタマーハラスメント対策に役立つ実務情報を発信するWebメディアです。編集部では、カスハラの基礎知識、社内体制づくり、従業員を守る対応手順、マニュアル整備のポイントなどを、現場で活用しやすい形でわかりやすくお届けしています。

カスハラ条例とは?まず結論をわかりやすく解説

最初に、カスハラ条例がどんなルールで、何を対象にしているのかを大づかみに整理します。定義・正当なクレームとの線引き・条例のタイプという3つの観点から解説します。

カスハラ条例は顧客等の著しい迷惑行為から就業者を守る自治体ルール

カスハラ条例とは、顧客等による暴言・脅迫・過度な要求・長時間の拘束といった著しい迷惑行為から就業者を守るため、自治体が基本理念・関係者の責務・事業者の取組などを定めた条例です。多くの条例は、違反者を罰則で取り締まるというよりも、社会全体でカスハラを防止するためのルールづくりや啓発に主眼を置いています。条例や厚生労働省の整理を踏まえると、カスハラは次の3つの要素で判断されます。

  • ①顧客等の言動>:顧客や取引先など、事業に関係する者による言動である
  • ②社会通念上の範囲を超える>:要求内容や手段が常識的な範囲を逸脱している
  • ③就業環境が害される>:その言動により就業者の働く環境が損なわれている

3要素のいずれかを欠く言動は、条例が想定するカスハラとは異なる扱いになります。暴行・暴言・土下座要求・執拗な言動といった該当行為の典型例や定義は、カスハラの定義や具体例で詳しく解説しています。

正当なクレームはカスハラ条例の対象外

商品やサービスへの不満を伝える正当なクレームは、業務改善のきっかけにもなる正当な権利行使であり、カスハラ条例が規制しようとしているものではありません。問題になるのは、要求の内容に妥当性がない場合や、要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な場合です。この点は条例上も意識されており、たとえば東京都条例は、条例の適用に当たって顧客等の権利を不当に侵害しないよう留意しなければならないと定めています。条例の対象になる言動か判断に迷う場合は、カスハラはどこから?クレームとの違いと3つの判断ステップで、正当・要注意・カスハラの線引きを確認できます。

多くの条例は罰則よりも防止・啓発を重視している

カスハラ条例は、その仕組みの強さによって大きく3つのタイプに分けて理解すると整理しやすくなります。

  • 理念・防止型>:基本理念や責務、啓発施策を中心に定める。罰則・公表は設けない
  • 禁止規定あり型>:「何人もカスハラを行ってはならない」と明確に禁止する。多くは罰則なし
  • 公表・警告あり型>:確認・認定のうえ、概要公表・警告・氏名公表の仕組みを持つ

2026年6月時点で確認できる条例の大半は、理念・防止型または禁止規定あり型で、罰則を設けていません。例外的に、三重県桑名市の条例は公表・警告・氏名公表という仕組みを備えており、この点は後の罰則のセクションで詳しく取り上げます。

東京都カスハラ条例のポイントを押さえる

「カスハラ条例」で検索する方の多くが実質的に知りたいのが東京都条例です。施行の経緯・対象範囲・罰則の有無・事業者に求められる対応の4点を押さえます。

全国初のカスハラ防止条例として施行された経緯

東京都カスタマー・ハラスメント防止条例は、2024年10月11日に公布され、2025年4月1日に施行されました。カスタマーハラスメントについて定めた条例としては全国初であり、その後の各自治体の条例制定の流れをつくる起点となりました。都は条例制定に先立ち検討部会を設置して防止対策の具体的内容を議論し、パブリックコメントを経て条例を成立させています。条例の位置づけはTOKYOノーカスハラ支援ナビでも公開されています。

対象となる事業者・就業者・顧客等の範囲

東京都条例は、登場人物を「都内」を軸に次のように定義しています。

  • 事業者>:都内で事業(非営利活動を含む)を行う法人・団体・個人
  • 就業者>:都内で業務に従事する者(都外で従事する関連業務を含む)
  • 顧客等>:就業者から商品・サービスの提供を受ける者や、業務に密接に関係する者

そのうえで条例は「何人も、あらゆる場において、カスタマー・ハラスメントを行ってはならない」と定め、対面に限らず電話・メール等を含めて広く禁止しています。

東京都条例に罰則はあるのか

結論からいうと、東京都カスハラ条例に罰則はありません。カスハラを「行ってはならない」と明確に禁止している一方で、違反した顧客等や事業者に対する罰金・勧告・命令・公表といった制裁規定は設けていません。あくまで社会全体で防止を図ることを基本理念とし、関係者の責務と都の施策を定める「理念・防止型かつ禁止規定あり型」の条例です。罰則がないことは「対応しなくてよい」という意味ではなく、後述する国の義務化や安全配慮義務との関係で、企業の対応は実質的に必要になります。

東京都条例について、対象となる事業者・就業者の範囲、都外本社やSNS対応が対象になるケース、罰則がない場合の実務リスクまで詳しく確認したい場合は、東京都カスハラ条例の対象範囲・罰則・企業対応5ステップで整理しています。

東京都のガイドラインで事業者に求められる対応

東京都は条例に基づき、2024年12月に「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」を、2025年3月に「各団体共通マニュアル」を策定しました。事業者には、これらの指針に基づいて、必要な体制の整備、カスハラを受けた就業者への配慮、防止のための手引(マニュアル)の作成といった措置を講じる努力義務が課されています。条例本文・指針・共通マニュアルは、東京都「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」のページにまとめられています。

カスハラ条例を制定した自治体を一覧で確認する

この記事の核となるセクションです。民間を含む幅広い職場向けの条例を都道府県・市町村に分けて一覧化し、自治体職員向けの条例は別表に整理します。

都道府県のカスハラ条例一覧

民間事業者を含む幅広い職場を対象とする都道府県の条例は、以下のとおりです。一般財団法人 地方自治研究機構(RILG)の整理および各自治体公式情報をもとに、2026年6月時点で編集部が確認できた主な制定状況です。

自治体条例名公布日施行日罰則・公表特徴一次情報
東京都東京都カスタマー・ハラスメント防止条例2024年10月11日2025年4月1日なしカスハラ条例として全国初。禁止規定+指針・共通マニュアル東京都
北海道北海道カスタマーハラスメント防止条例2024年11月29日2025年4月1日なし議員提案により成立北海道
群馬県群馬県カスタマーハラスメント防止条例2025年3月27日2025年4月1日なし「何人も」禁止規定を置く群馬県
愛知県愛知県カスタマーハラスメント防止条例2025年7月11日2025年10月1日なし指針・共通マニュアルを策定愛知県
静岡県静岡県カスタマーハラスメント防止条例2025年10月17日2026年4月1日なし施行は2026年4月静岡県
埼玉県埼玉県カスタマーハラスメント防止条例2025年12月23日2026年7月1日なし表彰制度等を規定RILG

市町村のカスハラ条例一覧

都道府県に先行して、または独自に条例を整備した市町村もあります。とくに桑名市は、基礎自治体として初めて制裁的な仕組みを盛り込んだ点で注目されています。

自治体条例名公布日施行日罰則・公表特徴一次情報
三重県桑名市桑名市カスタマーハラスメント防止条例2024年12月25日2025年4月1日概要公表・警告・氏名公表基礎自治体で初の制裁的措置桑名市
群馬県嬬恋村嬬恋村カスタマーハラスメント防止条例2025年3月4日2025年4月1日なし顧客等の禁止規定を置く嬬恋村
群馬県中之条町中之条町カスタマーハラスメント防止条例2025年6月20日2025年6月20日なし公布日に即日施行中之条町
静岡県長泉町長泉町カスタマーハラスメント防止条例2025年11月5日2026年4月1日なし「何人も」禁止規定長泉町
茨城県城里町城里町カスタマーハラスメント防止条例2025年12月10日2025年12月10日なし公布日に即日施行RILG
島根県美郷町美郷町カスタマーハラスメント防止条例2025年12月19日2026年2月1日なし「何人も」禁止規定RILG

条例は今後も追加される見込みです。最新状況は各自治体・RILGの公表資料で確認してください。

自治体職員向け条例・不当要求対策型との違い

カスハラ条例には、民間を含む幅広い職場を守る条例とは別に、自治体職員を主な対象とするタイプがあります。住民や行政サービス利用者からの不当要求・迷惑行為(行政対象暴力)から職員を守り、公務を円滑・適正に執行することを目的とするもので、前掲の民間向け条例とは別表として整理します。

自治体条例名施行日主な対象タイプ一次情報
徳島県牟岐町牟岐町カスタマーハラスメント防止条例2025年10月1日行政サービス利用者等・町職員確認・認定・措置の仕組みあり牟岐町
滋賀県守山市守山市不当要求行為等対策条例2003年10月1日職員不当要求対策型(従来型)守山市

これらは保護対象が「職員」である点で、民間企業の従業員を含む幅広い条例とは性格が異なります。自社の所在地の条例がどちらのタイプかを確認することが大切です。

自治体窓口で実際に起きた暴言・居座り・執拗な要求などの事例と、職員を守るための対応策は、公務員のカスハラ事例5選で詳しく解説しています。

自治体ごとに異なる定義・対象範囲・施行日

一覧を見て分かるとおり、条例はカスハラの定義の文言、対象とする顧客・就業者の範囲、施行日が自治体ごとに少しずつ異なります。施行日は2025年4月に集中する一方、静岡県は2026年4月1日、埼玉県は2026年7月1日と先の日付のものもあります。複数地域に拠点を持つ企業は、拠点ごとに適用される条例の有無と内容を個別に確認する必要があります。なお、条例の有無にかかわらず後述の国の義務化は全国一律で適用される点に注意してください。

カスハラ条例と国の義務化の違いを整理する

読者が最も混乱しやすいのが、自治体の「条例」と国の「義務化」の違いです。両者の関係を比較表で整理し、条例がない地域でも対応が必要な理由まで解説します。

条例は自治体ルール、改正労働施策総合推進法は全国の事業主義務

カスハラ条例が「制定した自治体の区域内」のルールであるのに対し、2026年10月1日に施行される改正労働施策総合推進法は、全国すべての事業主に雇用管理上の措置義務を課す法律です。具体的な義務化の内容は、カスハラ対策義務化で企業がやるべき措置で詳しく解説しています。両者は対立するものではなく、重ねて適用される関係にあります。違いを整理すると次のとおりです。

項目カスハラ条例改正労働施策総合推進法
制定主体自治体
対象地域制定した自治体内全国
主な対象顧客等・就業者・事業者など事業主
主な内容基本理念・責務・施策・禁止規定など雇用管理上の措置義務
罰則多くはなし直接の刑事罰ではなく、助言・指導・勧告・企業名公表等の対象になり得る
実務上の意味地域ごとの上乗せ・啓発全企業が満たすべき最低ライン

義務化で企業に求められる雇用管理上の措置

改正法では、カスハラ対策が事業主のハラスメント防止のための雇用管理上の措置義務とされ、国が示す指針を踏まえて具体的な対策を講じることが求められます。中小企業にも猶予はなく、全国一律で適用されます。指針で想定されている措置の柱は次のとおりです。

  • 方針の明確化・周知>:カスハラへの対処方針を定め、労働者に周知する
  • 相談体制の整備>:相談窓口を定め、担当者が適切に対応できる体制を整える
  • 事実確認と配慮>:相談後に事実関係を確認し、被害を受けた労働者へ配慮する
  • 再発防止・プライバシー保護>:再発防止に取り組み、相談者の情報を守る
  • 不利益取扱いの禁止>:相談等を理由とする不利益取扱いをしない

これらはパワハラ防止措置と同様の枠組みで、方針の明確化や相談窓口の設置にとどまらず、事実確認・被害者への配慮・再発防止まで含めて、実際に運用できる体制として整える必要があります。施行日・対象事業主・準備手順を詳しく確認したい場合は、2026年10月のカスハラ対策義務化の記事も参照してください。

条例がない地域でも企業対応が必要な理由

「自社の地域に条例がないから、まだ対応しなくてよい」という理解は誤りです。国の義務化は条例の有無に関係なく、2026年10月1日から全国一律で適用されるからです。条例がある地域では、国の義務に加えて地域固有の責務(啓発・研修への協力など)が上乗せされると考えると整理しやすくなります。つまり、条例がない地域の企業も、国の義務化への対応は避けられません。

カスハラ条例に罰則はあるのか刑事・民事責任とあわせて整理する

「条例に罰則はあるのか」という疑問に答えつつ、条例上の責務・公表、刑事責任、民事責任という4つの層に分けて、企業と行為者が負うリスクを整理します。

リスク誰に関係するか具体例ポイント
条例上の責務事業者・顧客等・就業者方針整備・啓発・相談体制多くは罰則なし
条例上の公表等主に行為者桑名市の概要公表・警告・氏名公表自治体により異なる
刑事責任行為者暴行・脅迫・強要・業務妨害等既存法で問題化し得る
民事責任行為者・企業双方損害賠償・安全配慮義務個別判断が必要

多くの条例が罰則を設けていない理由

現在の条例の多くは罰則を設けていません。背景には、カスハラに当たる言動が多様で、禁止行為を罰則付きで限定列挙すると、かえって正当なクレームまで萎縮させたり、線引きをめぐる誤認が生じたりするおそれがある、という事情があります。そのため多くの条例は、罰則ではなく理念・責務・啓発を通じて社会全体での防止を図る設計を選んでいます。

桑名市の公表・警告・氏名公表という実効性の仕組み

例外的に実効性を高める仕組みを持つのが三重県桑名市の条例です。就業者や事業者は、顧客の言動がカスハラに該当するか、市長に「確認」または「認定」を求めることができます。市長は対策委員会への諮問を経て判断し、確認・認定を行ったときは事案の概要を公表し、認定した場合は行為者に警告を行います。警告後も改善が不十分なときは、委員会の意見を聴いたうえで行為者の氏名等を公表することができます。

桑名市では、2025年6月30日に、対策委員会の答申を受けてカスハラに該当すると認定された事案について、実際に概要の公表が行われています。氏名公表まで至らずとも、公表という仕組み自体が抑止力として機能し得る点が注目されています。

罰則がなくても暴行・脅迫・強要などは犯罪になり得る

条例に罰則がないからといって、カスハラが「お咎めなし」になるわけではありません。カスハラに含まれる言動の多くは、既存の刑法等で犯罪になり得ます。代表的なものは次のとおりです。

  • 暴行罪・傷害罪>:殴る・蹴る・物を投げつける等。怪我をさせれば傷害罪
  • 脅迫罪・強要罪>:害を加えると告げる、土下座を強要する等
  • 業務妨害罪>:多数回の電話や無言電話で業務を妨害する
  • 不退去罪・名誉毀損罪>:退去要求に応じず居座る、SNSで店や従業員を中傷する等

実際に、土下座をさせて画像をSNSに投稿した事案で名誉毀損罪により罰金刑が科された例や、宅配トラブルで営業所長に土下座させた事案で強要罪として有罪判決が出た例など、刑事事件化した事例があります。悪質なケースでは、警察への通報や弁護士を通じた警告といった毅然とした対応が必要です。

企業が放置した場合の安全配慮義務違反リスク

企業側が負うのが民事上のリスクです。事業者は労働者が安全と健康を確保しつつ就業できるよう配慮する安全配慮義務(労働契約法5条)を負っており、従業員がカスハラ被害に遭っているのに何も対策をしなかったり、従業員1人に対応を押し付けたりすると、安全配慮義務違反として損害賠償を請求されるおそれがあります。患者の暴力に対して具体的措置を講じなかった病院に約1,900万円の賠償が命じられた裁判例もあります。条例の罰則の有無にかかわらず、企業として組織的に対応する体制を整えることが、このリスクを下げる鍵になります。

カスハラ条例と義務化に備えて企業が進める5つの対応

ここからは実務です。国の指針が求める措置を、現場でそのまま動ける5つのステップに落とし込みます。各ステップで「何を」整えるか(成果物)を明示します。対策全体の考え方はカスハラ対策の基本もあわせてご覧ください。

1. カスハラに対する基本方針を明文化する

最初に着手すべきは、カスハラを許さないという企業の姿勢を文書として明文化することです。経営者の名で方針を示すことで、現場の従業員が毅然と対応してよいという後ろ盾になります。社内周知に加え、店頭掲示や自社サイトでの社外周知も有効で、これ自体が抑止力になります。そのまま使える表現はカスハラ基本方針の例文・ひな形を参考にしてください。成果物は、カスハラ基本方針・社外掲示文・社内周知文です。

2. 相談窓口とエスカレーション体制を整える

次に、従業員が被害を一人で抱え込まないための相談窓口と、現場から上位者・経営層へつなぐエスカレーションの流れを整えます。国の義務化でも相談体制の整備は中核に位置づけられています。誰に・どの段階で相談し、いつ警察や弁護士につなぐかを明確にしておくことが重要です。成果物は、相談窓口一覧・エスカレーションフローです。

3. 正当なクレームとの線引きを含む対応マニュアルを作成する

現場の判断のばらつきを防ぐため、初動対応の手順と、正当なクレームとカスハラを見分ける判断基準を盛り込んだマニュアルを作成します。要求内容に妥当性があるか、手段・態様が社会通念上相当かという2つの軸で判断し、要求をあきらめさせる対応へ切り替える基準を定めておくと、現場が動きやすくなります。作成手順はカスハラ対応マニュアルの作り方で詳しく解説しています。成果物は、初動対応フロー・判断基準表・NG対応集です。

4. 従業員研修と記録・証拠保全を仕組み化する

マニュアルを定着させるには研修が欠かせません。あわせて、トラブル時に事実を立証できるよう、録音・録画のルールやインシデントの記録様式を整え、証拠保全を仕組み化します。録音を行う際は、盗聴・盗撮と誤解されないよう運用ルールを定め、その旨を掲示することが望ましいとされています。研修の選び方はカスハラ研修の選び方もご覧ください。成果物は、研修資料・録音ルール・インシデント記録票です。

5. 自治体の奨励金・支援制度を活用する

費用面の不安には、自治体の支援制度が役立ちます。研修費用や支援制度の全体像は、カスハラ研修の費用相場と公的支援でも整理しています。たとえば東京都の令和8年度(2026年度)「カスタマーハラスメント防止対策推進事業 企業向け奨励金」は、対象の都内中小企業等(常時雇用する従業員300人以下)に定額40万円を支給する制度です。マニュアル整備に加え、次のいずれか1つの取組を実施することが要件とされています。

  • 録音・録画環境の整備
  • AIを活用したシステム等の導入
  • 外部人材(弁護士・社労士・研修講師・警備会社等)の活用

奨励金の受付方法・期間・要件は年度ごとに変わります(令和8年度は事前エントリー制・超過時抽選)。申請を検討する場合は、奨励金特設サイトで最新の募集要項を必ず確認してください。成果物は、申請要件チェック・対象取組の整理です。

なお、実際のカスハラ対応は業種によって起こりやすい場面が異なります。飲食店や介護施設では、現場の初動対応・掲示文・契約解除の判断など、より具体的な運用設計が必要です。

カスハラ条例に関するよくある質問

検索で多く寄せられる疑問に、結論を先に示しながら簡潔に回答します。個別の法的判断が必要な場合は、弁護士など専門家への相談をおすすめします。

カスハラ条例は全国で施行されている?

いいえ。カスハラ条例は制定した自治体内でのみ効力を持つもので、2026年6月時点では一部の都道府県・市町村にとどまります。ただし国の義務化(改正労働施策総合推進法)は2026年10月1日から全国一律で適用されるため、条例がない地域でも対応は必要です。

カスハラ条例に違反すると罰則はある?

多くの条例には罰則がありません。東京都条例も禁止規定はありますが罰則や公表の規定はありません。例外として桑名市の条例には、概要公表・警告・氏名公表という仕組みがあります。なお罰則の有無にかかわらず、暴行・脅迫・強要などは刑法等の犯罪になり得ます。

東京都カスハラ条例に罰則はある?

ありません。東京都条例はカスハラを禁止し、都・事業者・就業者・顧客等の責務を定めていますが、違反者への罰金や企業名公表などの制裁規定は設けていません。ただし、条例に罰則がない場合でも、暴行・脅迫・強要などは既存の刑法等で問題になり得ます。また、企業は国の義務化や安全配慮義務の観点から、組織的な対策を整える必要があります。

条例がない地域の企業も対応が必要?

必要です。条例の有無にかかわらず、2026年10月1日からの国の義務化により、全国の事業主に雇用管理上の措置義務が課されます。まずは方針・相談窓口・記録体制という最低ラインの整備から着手しましょう。

正当なクレームとカスハラの違いは?

正当なクレームは、商品やサービスへの不満を伝える正当な権利行使で、規制の対象外です。カスハラは、要求内容に妥当性がない場合や、要求を実現する手段・態様が社会通念上不相当で、就業環境を害する場合に成立します。要求内容と手段・態様の2軸で判断するのが基本です。

中小企業はいつまでに何を準備すべき?

2026年10月1日の施行日までに、最低限、基本方針の明文化・相談窓口の設置・記録体制の整備を進めるのが目安です。中小企業にも猶予はありません。費用が不安な場合は、東京都の40万円奨励金など自治体の支援制度の活用も検討しましょう。

カスハラ対策に使える補助金・奨励金はある?

あります。代表例が東京都の「カスタマーハラスメント防止対策推進事業 企業向け奨励金」で、要件を満たす都内中小企業等に定額40万円が支給されます。マニュアル整備に加え、録音・録画環境の整備、AI活用システムの導入、外部人材の活用のいずれか1つの実施が要件です。受付方法・期間は年度ごとに変わるため、特設サイトで最新の募集要項を確認してください。地域によっては他の自治体や厚生労働省の支援が利用できる場合もあります。

まとめ:カスハラ条例と国の義務化を分けて理解し早めに体制を整えよう

カスハラのルールは、自治体ごとの「条例」と、2026年10月1日から全国一律で課される国の「義務化」という二層構造になっています。条例は地域限定で多くは罰則がなく、桑名市のように公表の仕組みを持つ例は例外です。一方、国の義務化は全企業が満たすべき最低ラインであり、条例がない地域でも対応は避けられません。罰則の有無にかかわらず、暴行・脅迫などは犯罪となり、放置すれば企業は安全配慮義務違反のリスクを負います。まずは方針の明文化・相談窓口・記録体制という最低ラインから着手し、自社の所在地の条例を確認することを、次の一歩としてください。

参考情報・編集部注記

編集部注記
本記事では、公的情報に基づく解説に加え、カスハラ対策実務ガイド編集部が企業の実務担当者向けに、定義・自治体一覧・比較表・責任の整理として再構成しています。掲載した自治体の制定状況は2026年6月時点で編集部が確認した内容であり、条例は今後も追加・改正される可能性があります。最新情報は各自治体公式サイト・RILG等で必ずご確認ください。個別事案の法的判断については、弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

本記事は、以下の公的情報をもとに作成しています。