「カスタマーハラスメントの事例を知りたい」と検索する人の多くは、自社で起きた言動が本当にカスハラなのかを確かめ、現場の対応に落とし込みたいと考えています。本記事では、代表的な事例15選の一覧から、正当なクレームとの線引き、行為類型別・業種別の実例、刑事事件・裁判例、そして初動対応・記録・エスカレーション基準への落とし込みまでを、実務担当者が明日から使える形で整理します。
この記事でわかること
- カスタマーハラスメントの代表的な事例15選を一覧で確認できる
- 正当なクレームと毅然と対応すべきカスハラを見分ける判断軸
- 行為類型別・業種別の具体的な事例と現場での初動対応
- 刑事事件・裁判例から見る対応の判断ライン
- 事例を自社の初動・記録・エスカレーション基準へ落とし込む方法
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客等からの言動のうち、要求内容の妥当性に照らして手段・態様が社会通念上不相当であり、それによって従業員の就業環境が害されるものを指します。2026年10月1日からは、従業員を雇用するすべての事業主に対し、カスハラ防止のための雇用管理上必要な措置が義務化されます。義務化で企業が整えるべき全体像は、カスハラ対策義務化で企業がやるべき5つの措置で詳しく解説しています。
カスハラ対策実務ガイド編集部の結論
編集部では、事例は「眺めて終わり」では意味がないと考えます。重要なのは、各事例を①現場の初動対応、②記録すべき内容、③責任者・警察・弁護士へ引き継ぐ基準、④自社マニュアルへの反映、の4点に落とし込むことです。従業員が暴言や暴力に耐える必要はなく、事例を仕組みに変えて備えることが企業の責任です。本記事の編集部独自整理は、厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」「職場のハラスメントに関する実態調査」、政府広報、あかるい職場応援団の裁判例データベースなど公的情報をもとに、現場で実際に使いやすい形へ再構成したものです。
この記事の編集者
カスハラ対策実務ガイド編集部
カスハラ対策実務ガイドは、企業・店舗・現場担当者に向けて、カスタマーハラスメント対策に役立つ実務情報を発信するWebメディアです。編集部では、カスハラの基礎知識、社内体制づくり、従業員を守る対応手順、マニュアル整備のポイントなどを、現場で活用しやすい形でわかりやすくお届けしています。
カスタマーハラスメントの代表的な事例15選を一覧で確認

現場で起こりやすいカスハラ15事例を一覧で示します。各行は本文の各セクションへの予告です。「種別」欄では、実際の事件・裁判例や報道に基づくものと、現場で起こり得る典型例とを区別しています。
| 事例 | 種別 | 主な類型 | 起こりやすい業種 | 初動対応 |
|---|---|---|---|---|
| 「死ね」「無能」などの暴言を浴びせる | 典型例 | 精神的攻撃 | 小売・飲食・コールセンター | 録音・複数名対応・上長報告 |
| 「SNSに晒すぞ」と脅す | 典型例 | 威圧・脅迫 | 飲食・宿泊・自治体 | 証拠保存・個人対応を避ける |
| 従業員に物を投げる | 典型例 | 身体的攻撃 | 小売・医療・介護 | 安全確保・警察連携 |
| 土下座を要求する | 裁判例・事件あり | 過剰要求・強要 | 小売・飲食・学校 | 応じない・責任者対応 |
| 長時間電話を切らせない | 報道事例あり | 拘束・リピート | コールセンター | 対応時間の上限設定 |
| 退去要請に応じず居座る | 典型例 | 不退去・拘束 | 店舗・窓口 | 退去要請記録・警察相談 |
| 根拠なく全額返金を迫る | 典型例 | 不当要求 | 小売・EC・宿泊 | 事実確認・規約に基づく回答 |
| 店員を名指しでSNS投稿する | 裁判例・事件あり | 個人攻撃 | 飲食・小売 | スクショ保存・削除依頼 |
| 従業員の容姿や性別を侮辱する | 典型例 | 差別的言動 | 接客全般 | その場で制止・記録 |
| 従業員に性的発言をする | 典型例 | 性的言動 | 介護・医療・飲食 | 担当交代・警告・記録 |
| 医療スタッフに暴言・暴力を振るう | 裁判例・事件あり | 医療カスハラ | 医療 | 院内ルール・警備/警察連携 |
| 介護職員に過度なケアを要求する | 典型例 | 過剰要求 | 介護 | 契約範囲の説明・家族含め記録 |
| ホテルで不当なアップグレードを要求する | 典型例 | 過剰サービス要求 | 宿泊 | 規約説明・責任者対応 |
| 自治体窓口で長時間苦情を続ける | 報道事例あり | 行政対象暴力 | 自治体 | 対応時間・場所・担当制限 |
| 学校に不当な謝罪を迫る | 典型例 | 保護者対応 | 学校 | 組織対応・記録・第三者相談 |
本記事では、単に事例を紹介するだけでなく、各事例を「現場の初動対応」「記録すべき内容」「責任者・警察・弁護士へ引き継ぐ基準」まで落とし込むことを重視しています。自社で起きた相談記録やヒヤリ・ハットと照らし合わせながら確認してください。
カスタマーハラスメントの事例を判断するための基準

同じ「クレーム」でも、どこからがカスハラなのか。判断の軸と、対象に含まれる行為の範囲をここで押さえます。
カスタマーハラスメントは顧客等による社会通念上不相当な言動を指す
厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、カスハラを、顧客等からのクレーム・言動のうち、その要求内容の妥当性に照らして要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当であり、それによって労働者の就業環境が害されるもの、と整理しています。2025年6月11日に公布された改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)でも、職場で行われる顧客等の言動であって、業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超え、労働者の就業環境を害するもの、と定義づけられました。厚生労働省は、この防止措置が2026年(令和8年)10月1日施行で全事業主の義務となり、中小企業にも適用猶予はないと説明しています。具体的に講ずべき措置は、2026年2月26日公布のカスタマーハラスメント防止指針で示されています(出典:厚生労働省「令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について」)。
つまりカスハラの成立は、行為者が顧客等であること、社会通念上許容される範囲を超えた言動であること、就業環境が害されること——という3要素で判断されます(該当しうる具体例は政府広報オンラインでも紹介されています)。「自社の業務として受け止めるべき範囲を超えているか」を起点に考えると、現場での見極めがしやすくなります。
正当なクレームとカスハラは要求内容と手段で分ける
品質や接客の問題を指摘する正当な申し入れは、カスハラには当たりません。両者を分けるのは「要求内容の妥当性」と「手段・態様の相当性」です。たとえば、購入した商品に明らかな不具合があり、交換や返金を求めること自体は正当な申し入れです。一方で、交換対応の範囲を超えて「迷惑料を払え」と迫ったり、担当者を長時間拘束したりすれば、カスハラに当たり得ます。
- <要求内容で見る>:根拠のない金銭・交換・特別扱いの要求は妥当性を欠く
- <手段・態様で見る>:暴言・威圧・長時間拘束・反復は態様が不相当である
- <総合的に判断>:要求内容または手段・態様が社会通念上の範囲を超え、就業環境を害する場合はカスハラに当たり得る
判断に迷いやすいグレーゾーンは、「カスハラはどこから?クレームとの違いと現場で使える3つの判断ステップ」で、要求内容・手段・業務への影響の順に確認できます。
電話・メール・SNS上の攻撃もカスハラに含まれる
カスハラは店舗や窓口での対面に限りません。厚生労働省の整理でも、電話・メール・SNSなどインターネット上の言動が含まれ得ます。匿名性が高く拡散しやすいぶん、現場では「直接対面していないから様子を見る」という判断が被害を長引かせがちです。電話の大量入電、しつこいメール、従業員を名指しした投稿なども、態様によってはカスハラとして扱い、証拠を保存する対象になります。
現場で起きやすいカスタマーハラスメントを行為類型別に整理

厚生労働省が示す代表的な言動類型に沿って、現場で実際に起きるセリフや行動を具体的に見ていきます。まず全体像を表で整理します。
| 言動類型 | 具体的な言動の例 |
|---|---|
| 身体的な攻撃 | 殴る・蹴る・物を投げつける・唾を吐く |
| 精神的な攻撃 | 暴言・人格否定・侮辱・脅し文句 |
| 威圧的な言動 | 大声での恫喝・机を叩く・睨み続ける |
| 継続的・執拗な言動 | 同じ要求の繰り返し・無言電話・長文メールの連投 |
| 拘束的な行動 | 居座り・長電話・退去要請に応じない |
| 差別的な言動 | 性別・年齢・国籍・障害などに関する侮辱的発言 |
| 性的な言動 | 卑わいな発言・身体への接触・つきまとい |
| 従業員個人への攻撃 | 名指しでのSNS投稿・自宅謝罪の要求 |
出典:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(PDF)。以下、現場で頻度が高い6グループに分けて補足します。
暴言・脅迫・人格否定などの精神的な攻撃
「死ね」「無能」「殺すぞ」といった発言で従業員を追い詰めるタイプです。直接の暴力がなくても、人格を否定する言葉や害悪をほのめかす脅し文句は、就業環境を害する典型として扱われます。現場では録音と複数名対応、上長への即時報告が初動の基本になります。
殴る・蹴る・物を投げつける身体的な攻撃
従業員に物を投げる、突き飛ばす、掴むといった身体への攻撃です。けがの危険が現実化するため、まず距離を取り、安全を確保したうえで警察と連携する判断が求められます。防犯カメラ映像は重要な証拠になります。
土下座や不当な返金を迫る過剰な要求
謝罪として土下座を強要する、根拠なく全額返金や交換を迫るなど、義務のないことを求めるタイプです。土下座の強要は、状況によって強要罪等に該当し得る行為であり、従業員が応じる必要はありません。その場限りの謝罪はエスカレートを招くこともあるため、規約と事実確認に基づいて毅然と対応し、責任者が引き取ります。
居座り・長電話・大量入電による拘束や反復行為
退去要請に応じず居座る、電話を切らせない、同じ内容で何度も架電するといった、時間を奪う拘束・反復型です。報道では、通信会社のフリーダイヤルへ短期間に多数のクレーム電話をかけたとして逮捕に至った例も伝えられています。対応時間の上限をあらかじめ決め、退去要請の事実を記録しておくことが鍵です。
SNSでの晒しや従業員個人への攻撃
店員を名指しでSNSに投稿する、土下座させた写真を拡散する、自宅まで謝罪に来るよう求めるなど、攻撃が従業員個人に向かうタイプです。実名・顔写真・勤務先が含まれる投稿は被害が拡散しやすいため、URL・スクリーンショット・投稿日時を保存し、個人で対応させない体制が欠かせません。
性的な言動や差別的な発言によるカスハラ
従業員の容姿や性別を侮辱する、卑わいな発言を繰り返す、つきまとうといった性的・差別的なタイプです。介護や医療、飲食など接触の多い現場で起こりやすく、その場での制止、担当交代、記録が初動の柱になります。
業種別に見るカスタマーハラスメントの発生場面と初動対応

被害の実態や必要な対応は業種で異なります。厚生労働省は業種別マニュアル(スーパーマーケット業編・宅配業編など)も整備しています。自社業種の見出しから読み進めてください。
小売業の事例|返品・返金要求や店員への暴言
返品・返金や交換をめぐるトラブルが暴言・威圧に発展しやすい業種です。後述のとおり、レジ担当が客と言い争いになり大声でなじられた事案が裁判でも争われています。
<現場での初動>返品・返金ルールを確認し、一次対応者だけで判断せず責任者へ引き継ぎます。
病院だけでなく、薬局でも待ち時間や医薬品の在庫不足、自己負担額への不満をきっかけに、暴言や長時間拘束へ発展することがあります。薬局特有の事例と応需義務を踏まえた対応は、「薬局のカスハラ対策」で詳しく解説しています。
飲食業の事例|接客態度への叱責やSNS投稿
提供の遅れや接客への不満が、長時間の叱責やSNSでの拡散につながりやすい業種です。報道では、飲食店での過剰な要求や脅迫的な電話により、営業継続に支障が生じた事例も伝えられています。
<現場での初動>提供遅れへの謝罪と、従業員への暴言・SNS投稿予告への制止を切り分けて対応します。詳しくは「飲食店のカスハラ対策」をご覧ください。
コールセンターの事例|長電話・大量入電・脅迫
顔が見えないぶん、暴言・わいせつ発言・長電話・大量入電が起こりやすい現場です。後述するNHKサービスセンター事件のように、会社が電話応対マニュアルや対応困難電話の転送体制を整えていたかどうかが、後の法的判断で評価されています。
<現場での初動>通話時間・発言内容・回数を記録し、上席転送や切電基準に沿って対応します。
運輸業の事例|駅員・乗務員への暴行や無断撮影
遅延や誤配送への怒りが、駅員・乗務員・営業所員への暴行や無断撮影に向かう業種です。報道では、宅配の誤配送をめぐり客が営業所長に土下座をさせて撮影した事案で、強要罪に問われた例も伝えられています。
<現場での初動>乗客・利用者対応と乗務員・職員の安全確保を分け、危険を感じた時点で運行管理者や警察への連携に切り替えます。
医療機関の事例|院内暴力・ペイハラ・過度な要求
患者や家族による暴言・暴力、過度な要求(いわゆるペイシェントハラスメント)が起きやすい現場です。報道や裁判例では、入院患者の家族が夜勤の看護師らを長時間問い詰め、人格攻撃や身体的圧迫に及んだ事案も取り上げられています。
<現場での初動>患者対応と職員保護を分け、院内ルール・警備・警察連携を確認します。
介護施設の事例|利用者や家族による暴言・セクハラ
利用者や家族による暴言、契約範囲を超えるケアの要求、職員へのセクハラが起こりやすい業種です。同じ内容で毎日のように面談や架電を繰り返し、説明を尽くしてもなお対応を強要するような場合は、業務妨害として扱われ得ます。
<現場での初動>利用者本人の状態と家族の過剰要求を分けて記録し、施設長・法人本部に共有します。対応の進め方は「介護施設のカスハラ対応」で解説しています。
宿泊業の事例|不当なアップグレード要求や長時間叱責
不当な部屋のアップグレードや特別扱いの要求、長時間の叱責が起こりやすい業種です。要求に応じる前例をつくると次の要求を呼び込むため、規約に沿った説明と責任者対応で線を引くことが重要になります。
<現場での初動>要求の可否を現場で即答せず、規約を確認したうえで責任者が一次回答を引き取ります。
自治体・学校の事例|窓口拘束や不当な謝罪要求
窓口での長時間の苦情、不当な謝罪要求といった行政対象暴力が起こりやすい領域です。報道された事案では、執拗な情報公開請求や架電を繰り返した者に対し、自治体側が損害賠償を求めた例も伝えられています。
<現場での初動>窓口・電話の対応時間と担当を組織で決め、個人で抱え込ませず上席や法務へ共有します。
公務職場で実際に起きた具体的な被害と、自治体が進めている職員保護策については、「公務員のカスハラ事例5選!深刻化する実態と職員を守る対応策」もあわせてご覧ください。
刑事事件・裁判例から見るカスタマーハラスメント対応の判断ライン

事例の中には刑事事件に発展するものがあります。ここでは罪名の解説ではなく、現場が何を判断すべきかと、企業側の責任を分けた裁判例を見ます。
暴力・脅迫を受けた場合は警察対応を検討する
殴る・物を投げるといった暴力や、害悪をほのめかす脅迫は、その場で従業員の安全が脅かされる事態です。こうした言動は暴行罪・脅迫罪などに当たり得ます。暴力・脅迫など従業員の安全に関わる言動がある場合は、距離を取って安全を確保し、責任者へ共有したうえで、警察への相談・通報を検討します。防犯カメラの設置は、抑止と証拠収集の両面で機能します。
土下座要求や居座りは強要・不退去・業務妨害に発展し得る
土下座の強要は強要罪、退去要請に応じない居座りは不退去罪、大量入電や大声での妨害は威力業務妨害罪に該当し得ます(各罪の条文はe-Gov法令検索「刑法」を参照)。報道では、商品の不良を理由に店員へ土下座を強要し写真をSNSに投稿した2013年の事案で、強要罪に問われ、名誉毀損罪でも略式起訴された例が伝えられています。こうした行為が刑事事件として扱われ得ることを、現場判断の目安として共有しておくことが大切です。
- <土下座の強要>:応じる義務はなく、強要罪に当たり得る
- <居座り>:「お引き取りください」と明確に伝え、退去要請を記録する
- <大量入電>:頻度・内容を記録し、業務妨害として警察相談を検討する
企業が従業員を守らないと安全配慮義務を問われる可能性がある
企業は労働契約法上の安全配慮義務(同法5条)を負い、カスハラを放置すれば損害賠償を問われる可能性があります。医療法人社団こうかん会(日本鋼管病院)事件(東京地裁平成25年2月19日判決)では、せん妄状態の入院患者から暴行を受けた看護師について、ナースコール時に他の看護師が応援に駆けつける周知を病院が行っていなかったことなどから、安全配慮義務違反が認められ損害賠償が命じられました(参照:あかるい職場応援団 第71回)。この裁判例からは、暴力リスクが予見できる状況では、応援体制や複数名対応のルールを事前に整えておくことが重要だと分かります。
一方、NHKサービスセンター事件(東京高裁令和4年11月22日判決、原審・横浜地裁川崎支部令和3年11月30日判決)では、コールセンターでわいせつ発言や暴言を受けた事案について、会社が対応ルールを定めて周知・運用し、相談・ケア体制も整えていたことから安全配慮義務違反が否定されています(参照:あかるい職場応援団 第70回)。この裁判例からは、マニュアル・転送体制・相談窓口などを平時から整備しておくことが、企業責任の判断にも影響し得ると分かります。スーパーのレジ担当の事案(東京地裁平成30年11月2日判決)でも、客の退職要求に応じず入店拒否の可能性を伝えるなど対応していたことが評価され、責任が否定されました。体制整備が企業責任の否定に働くという点は、実務上の重要な示唆です。
カスタマーハラスメントの事例から学ぶ予防と対応のポイント

事例を眺めるだけで終わらせず、自社の運用設計に接続します。予防の起点・被害が深刻化する共通点・対応設計の考え方を順に示します。
対応の遅延や説明不足がトラブルを拡大させることがある
厚生労働省の実態調査では、カスハラの発生原因の上位に「顧客対応・サービス等の遅延」(71.2%)、「対応者の説明・コミュニケーションの不足」(63.6%)が挙がっています(出典:厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」令和5年度)。つまり予防の起点は自社側の運用にもあり、最初の対応の速さと説明の丁寧さを整えるだけで、カスハラに発展する芽の一部は抑えられます。
一人対応を続けると被害が深刻化しやすい
事例に共通するのは、従業員が一人で対応を続けた場面で被害が深刻化している点です。同調査では、カスハラがあった企業の被害として、通常業務への悪影響(63.4%)、意欲・エンゲージメントの低下(61.3%)、休職・離職(22.6%)が報告されています。早い段階で複数名・責任者へ引き継ぐ運用が、被害の連鎖を断つうえで効果的です。
事例ごとに初動対応・記録・エスカレーション基準を決める
同じ「カスハラ」でも、暴言と長電話と暴力では取るべき初動が異なります。事例の型ごとに、初動・記録すべき内容・エスカレーション基準をあらかじめ決めておくと、現場が迷わず動けます。下表は設計のたたき台です。
| 事例 | 初動対応 | 記録すべき内容 | エスカレーション基準 |
|---|---|---|---|
| 暴言 | 制止・担当交代 | 発言内容・時間・同席者 | 人格否定・脅迫がある |
| 長電話 | 対応上限を伝える | 通話時間・要求内容 | 同一内容が複数回続く |
| 返金要求 | 規約・事実確認 | 商品状態・説明履歴 | 金銭要求が過大 |
| SNS晒し | 証拠保存 | URL・スクショ・投稿日時 | 実名・顔写真・勤務先が含まれる |
| 暴力 | 距離を取る・通報 | 防犯カメラ・被害状況 | 身体接触・物損がある |
この基準を職場で共有しておくと、個人の判断に頼らずに対応できます。記録項目を1枚のシートにして、レジ裏やバックヤードに常備しておくと運用が定着します。
事例を自社のカスハラ対応マニュアルに落とし込む
集めた事例は、類型化して自社マニュアルへ反映してはじめて価値を生みます。対処方法、相談のタイミング、記録の取り方、弁護士・警察との連携基準を一連の流れとして整理し、就業規則や服務規律にも「カスハラを容認しない」方針を明記します。社内向け・社外公表向けの方針文を作る場合は、「カスハラ社内方針の例文テンプレート」も参考になります。作成の手順は「カスハラ対応マニュアルの作り方とひな形」で詳しく解説しています。あわせて研修で運用を定着させる場合は「カスハラ研修おすすめ7選と選び方」も参考にしてください。
カスタマーハラスメントの事例に関するよくある質問
現場でよく寄せられる疑問に、要点を絞って回答します。個別の法的判断が必要な場合は、弁護士など専門家への相談をおすすめします。
暴言だけでもカスタマーハラスメントになりますか?
なり得ます。直接の暴力がなくても、人格を否定する言葉や脅し文句など、手段・態様が社会通念上不相当で就業環境を害する場合は、暴言だけでもカスハラに当たり得ます。ただし、個別の事情を踏まえた判断が前提です。
正当なクレームとカスハラの違いは何ですか?
「要求内容の妥当性」と「手段・態様の相当性」で分けます。品質や接客の問題を指摘する正当な申し入れはカスハラではありません。要求内容が過大なとき、または要求を通す手段が暴言・威圧・長時間拘束などのときに、カスハラに当たり得ます。詳しい判断基準は「カスハラ対策とは?正当なクレームとの違い」でも解説しています。
SNSに従業員名を書かれた場合もカスハラですか?
カスハラは対面に限らず、電話・メール・SNSなどネット上の言動も対象になり得ます。実名・顔写真・勤務先などが含まれる投稿は被害が拡散しやすいため、URL・スクリーンショット・投稿日時を保存し、従業員個人に対応させないことが重要です。
カスハラを受けたら警察に相談してもよいですか?
暴行・脅迫・強要・不退去・業務妨害などに当たり得る場合は、警察への相談や通報を検討してかまいません。まずは従業員の安全確保を最優先にし、状況を記録したうえで、改善しなければ通報する旨を伝えて対応します。
カスハラ事例を社内マニュアルに活かすにはどうすればよいですか?
事例を類型化し、型ごとに「初動対応・記録すべき内容・エスカレーション基準」を定めるのが基本です。就業規則や服務規律にも方針を明記し、相談窓口や連携基準とあわせて運用します。手順は「カスハラ対応マニュアルの作り方とひな形」をご覧ください。
まとめ:カスタマーハラスメントの事例は自社の初動・記録・基準に活かそう
カスハラの事例は、見て終わりにせず、自社の運用に落とし込んでこそ意味があります。大切なのは、正当なクレームはしっかり受け止めつつ、社会通念を超えた言動には毅然と対応するという線引きです。2026年10月には全事業主に対策が義務付けられますが、身構える必要はありません。まずは「型ごとの初動対応を決める」「記録シートを1枚用意する」「責任者・警察への引き継ぎ基準を共有する」——この3点から着手しましょう。従業員が暴言や暴力に耐える必要はなく、事例を仕組みに変えて備えることが、働きやすい職場と安定した経営への第一歩になります。
参考情報・編集部注記
編集部注記
本記事では、公的情報に基づく解説に加え、カスハラ対策実務ガイド編集部が現場向けに、事例一覧・判断軸・初動対応・記録項目として再整理しています。引用した裁判例・統計は一次情報を確認のうえ記載していますが、個別事案の法的判断については、弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。報道ベースの事例は、確認できる範囲で表現を一般化しています。
本記事は、以下の公的情報・調査をもとに作成しています。
- 厚生労働省「令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について」(令和8年10月1日施行/カスタマーハラスメント防止指針)
- 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(PDF)
- 厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和5年度)
- 政府広報オンライン「カスハラとは?法改正により義務化されるカスハラ対策の内容」
- あかるい職場応援団(厚生労働省)第71回|入院患者から暴行を受けた看護師に関する裁判例
- あかるい職場応援団(厚生労働省)第70回|NHKサービスセンター事件に関する裁判例
- e-Gov法令検索「刑法」(強要罪・不退去罪・威力業務妨害罪・脅迫罪・名誉毀損罪等)
- e-Gov法令検索「労働契約法」(第5条・安全配慮義務)
カスハラ対策実務ガイド 
