カスハラとクレームの違いとは?現場で迷わない5つの判断基準

「これはクレームなのか、それともカスハラ(カスタマーハラスメント)なのか」と、顧客対応の現場でとっさの判断に迷った経験はないでしょうか。本記事では、正当なクレームとの線引きから、現場でそのまま使える5つの判断基準、グレーゾーンの見極め方、迷ったときの判断フローと打ち切りトーク例、2026年10月の義務化への備えまでを、現場担当者が明日から使える形で整理します。

この記事でわかること

  • カスハラとクレームの違いを判断する3つの軸
  • 現場でそのまま使える5つの判断基準
  • 正当・カスハラ・グレーゾーンの具体例と見極め方
  • 迷ったときの判断フローと対応打ち切りのトーク例
  • 2026年10月の義務化に向けて整えるべきこと

カスハラとクレームの違いとは、顧客からの「正当な改善要求(クレーム)」と、「社会通念上許容される範囲を超え、従業員の就業環境を害する言動(カスハラ)」を、要求内容の妥当性・手段の相当性・就業環境への影響という3つの軸で線引きすることです。2026年10月1日からは、カスハラ防止のための雇用管理上必要な措置が、従業員を雇用するすべての事業主に義務化されます。義務化で企業が整えるべき全体像は、カスハラ対策義務化で企業がやるべき5つの措置で詳しく解説しています。

カスハラ対策実務ガイド編集部の結論
編集部では、現場が迷わないために必要なのは分厚い知識ではなく、次の3つの軸だと考えます。①要求内容は妥当か、②手段・態様は社会通念上相当か、③従業員の就業環境が害されていないか。正当なクレームを過剰にカスハラ扱いして切り捨てず、毅然と断るべき言動には一線を引く——この線引きの精度こそが、従業員と顧客の双方を守ります。

特に、判断軸を担当者個人の感覚に委ねると、対応にばらつきが生まれます。「どの基準で見るか」「どこで上長に上げ、どこで打ち切るか」を事前に共有しておくことが、従業員保護と顧客との健全な関係の両立につながります。なお本記事の編集部独自整理は、厚生労働省・政府広報等の公的情報をもとに、現場で実際に使いやすい形へ再構成したものです。

この記事の編集者

カスハラ対策実務ガイド編集部

カスハラ対策実務ガイド編集部

カスハラ対策実務ガイドは、企業・店舗・現場担当者に向けて、カスタマーハラスメント対策に役立つ実務情報を発信するWebメディアです。編集部では、カスハラの基礎知識、社内体制づくり、従業員を守る対応手順、マニュアル整備のポイントなどを、現場で活用しやすい形でわかりやすくお届けしています。

カスハラとクレームの違いが一目で分かる早見表

カスハラとクレームの違いが一目で分かる早見表

カスハラとクレームの違いは、「要求内容の妥当性」と「伝え方(手段・態様)」の2点に集約されます。まずは正当なクレーム・要注意クレーム・カスハラの3区分で全体像を確認してください。

区分要求内容手段・態様対応方針
正当なクレーム事実に基づく合理的な改善要求対話が可能傾聴・事実確認・改善
要注意クレーム要求が一部過大、または感情的威圧・反復の兆候がある対応範囲を明示・上長共有・記録
カスハラに該当し得る言動要求が不当、または要求と無関係暴言・脅迫・長時間拘束・土下座要求など安全確保・組織対応・打ち切り・外部相談

クレームは「正当」と「要注意」に分けて捉えると現場で扱いやすくなります。このうち要求が不当なものや要求を伴わない嫌がらせが、社会通念上許容される範囲を超え、従業員の就業環境を害する場合に、カスハラに該当し得ます。カスハラ対策全体の進め方を知りたい方は、カスハラ対策とは?義務化の内容・具体例・5つの対応手順を解説もあわせてご覧ください。

カスハラとクレームの違いは「妥当性」と「手段」で決まる

クレームとカスハラは「顧客からの意見・要求」という点では共通しますが、その目的において決定的に異なります。両者の関係性を、定義に立ち返って整理します。

クレームは商品やサービスへの正当な改善要求

クレームとは、商品やサービスに対する不満や改善を求める顧客の声を指します。その本来の目的は問題の解決や品質向上にあり、具体的な事実に基づいて合理的な範囲で要求がなされるのが特徴です。たとえば初期不良の交換要求や、提供されなかったサービスの改善要望などが典型例です。こうした正当なクレームは決して否定すべきものではなく、誠実に対応すれば顧客満足度の向上や再発防止につながる、企業の成長機会にもなり得ます。だからこそ、後述するカスハラと混同して切り捨ててしまわないことが重要です。

カスハラは妥当性を欠く要求や不当な嫌がらせ

一方のカスハラは、顧客等の言動が社会通念上許容される範囲を超え、従業員の就業環境を害する状態を指します。本人に嫌がらせの意図があるかどうかにかかわらず、要求内容や手段・態様が相当性を欠く場合には、カスハラに該当し得ます。2025年6月に公布された改正労働施策総合推進法では、カスハラは次の3つの要素をすべて満たすものとして整理されています。

  • ①顧客等の言動>:顧客・取引先・施設利用者など、事業に関係を有する者の言動である
  • ②社会通念上の範囲を超える>:業務の性質その他の事情に照らし、許容される範囲を超えている
  • ③就業環境が害される>:その言動により、労働者の就業環境が害されている

ポイントは、要求の中身が不当な場合だけでなく、要求自体は正当でも伝え方が度を越している場合や、要求を伴わない嫌がらせもカスハラになり得る点です。土下座の強要、長時間の叱責、SNSでの拡散をほのめかす脅しなどは、社会通念上許容される範囲を超える言動の代表例として、国の資料でも示されています。なお該当性は言動の目的だけで決まるものではなく、経緯・状況、業種業態、頻度・継続性、労働者の心身の状況などを総合的に考慮して判断されます。

不当なクレームはカスハラに含まれるという関係性

クレームは「正当なクレーム」と「不当なクレーム」に分かれます。このうち不当なクレームや要求を伴わない嫌がらせが、社会通念上許容される範囲を超え、従業員の就業環境を害する場合に、カスハラに該当し得ます。不当なクレームであれば直ちにすべてがカスハラになるわけではなく、就業環境が害されることまで含めて見るのがポイントです。言い換えれば、「クレーム=悪」でも「クレーム=カスハラ」でもありません。正当なクレームには誠実に応じ、不当なクレームや嫌がらせには毅然と対応する——この振り分けこそが現場に求められる判断です。

カスハラとクレームの違いを見分ける5つの判断基準

ここでは、現場でそのまま使える5つの判断基準を解説します。いずれか一つで機械的に断定せず、複数の観点から総合的に見極めることが大切です。

要求内容に合理性があるか

まず確認したいのは、顧客が求めている内容そのものが合理的で実現可能かどうかです。商品の欠陥に対する交換や返金、サービスの不備に対する適正な範囲の補償などは、企業として当然応じるべき妥当な要求といえます。反対に、実際の損害を大きく超える金銭の要求、企業の責任範囲を超えた要求、実現不可能な条件の提示などは妥当性を欠く要求です。たとえば自己過失で破損した商品の返金要求や、軽微なミスに対する高額な慰謝料の請求などがこれに当たります。

要求の伝え方が社会通念上相当か

次に見るのは、要求を伝える手段や態度が社会通念上相当かどうかです。たとえ要求内容が妥当であっても、その伝え方が一線を越えていればカスハラに該当し得ます。怒鳴る、暴言を吐く、人格を否定する、机を叩いて威圧する、土下座を強要するといった言動は、冷静で建設的な対話が成立していないサインです。なお、「要求内容」と「手段・態様」のどちらか一方が社会通念上許容される範囲を超える場合でも該当し得ますが、最終的には従業員の就業環境が害されているかも含めて、3要素を総合的に確認します。

言動が執拗・継続的ではないか

3つ目は、同じ要求が執拗に繰り返されたり、対応が不必要に長引いたりしていないかという観点です。国の指針でも、継続的・執拗な言動や長時間の拘束は、カスハラに該当しやすい典型例として位置づけられています。すでに回答・解決した内容について納得せず何度も連絡を続ける、窓口や電話で長時間にわたり従業員を拘束する、退去を求めても居座り続ける——こうした行為は、一回ごとの言動は穏やかでも、積み重なることで業務妨害に近づき、就業環境を害していきます。

従業員の就業環境を害していないか

4つ目は、その言動によって従業員の就業環境が実際に害されているかどうかです。前述の3要素のうち、最後の決め手となる重要な観点です。従業員が強い精神的苦痛を感じて通常業務に支障が出ている、特定の顧客対応を恐れて萎縮している、そのために他の顧客への対応が滞っている——こうした状態に至っていれば、就業環境が害されていると評価できます。「担当者個人がどう感じたか」だけでなく、客観的に見て一般的な労働者が同様の状況で就業に支障を来すかという視点で判断します。

事業者側の落ち度や合理的配慮の必要性も確認したか

最後の基準は、安易な断定を防ぐための逆方向のチェックです。カスハラ該当性は、言動の目的・経緯・状況、業種業態、頻度・継続性、従業員の心身の状況などを総合的に考慮して判断されるもので、ひとつの基準だけで決めつけてはいけません。とくに、自社の不適切な対応や説明不足が背景にないか、障害のある方が合理的配慮を求めているのではないかは、カスハラと断定する前に必ず確認します。

  • 事業者側の落ち度>:自社の不適切な対応や説明不足が背景にないか
  • 合理的配慮の必要性>:障害のある方が配慮を求めているのではないか

障害者差別解消法では、事業者に合理的配慮の提供が義務づけられています。障害のある方が差別の是正や社会的障壁の除去(合理的配慮の提供)を求める意思表明は、それ自体はカスハラに当たりません。話が伝わりにくい場面でも、互いに確認しながら理解を重ねる「建設的対話」によって対応することが、国の指針でも求められています。

具体例で見るカスハラとクレームの違いと境界線

基準を理解しても、実際の現場では判断に迷うケースが少なくありません。正当なクレーム・カスハラ・グレーゾーンの順に、具体例で見極め方を確認します。

正当なクレームと判断できるケース

正当なクレームは、要求内容が具体的かつ合理的で、伝え方も対話が可能な範囲にとどまります。次のような例が典型です。

  • 初期不良の交換>:購入した家電が動かず、新品交換を求める
  • 誤提供の是正>:注文と異なる料理が提供され、正しい料理を求める
  • 配送遅延の確認>:予定日に商品が届かず、状況確認と改善を求める

いずれも企業側に対応すべき事実があり、要求の範囲も妥当です。多少語気が強くても、事実確認と誠実な対応で解決に向かうのであれば、カスハラと切り分けて丁寧に向き合うべきケースといえます。

カスハラに該当するケース

一方、要求内容が不当であるか、伝え方が著しく不相当な場合はカスハラに該当します。前項の正当クレームと同じ「商品・サービスへの不満」が出発点でも、行き着く先が大きく異なります。

  • 過剰な謝罪要求>:軽微なミスに土下座や経営者の謝罪を強要する
  • 過大な金銭要求>:実損をはるかに超える高額な慰謝料を請求する
  • 長時間の罵倒>:長時間にわたり大声で罵倒し続ける
  • 脅しによる要求>:「SNSに晒す」「通報する」と脅して要求を通そうとする

これらは要求内容や手段・態様が相当性を欠いており、従業員に精神的苦痛を与えます。後述のとおり、内容によっては刑法上の罪に問われ得る行為でもあります。

判断に迷うグレーゾーンの見極め方

最も悩ましいのが、正当な要素と不当な要素が混在するグレーゾーンです。ここでは複数の基準を個別に評価し、総合的に判断する姿勢が欠かせません。代表的な3パターンで考え方を示します。

<パターン1:要求は妥当だが言い方が威圧的>
交換要求自体は正当でも、「今すぐ責任者を出せ」「SNSに晒すぞ」と威圧する場合です。要求内容(合理性あり)と手段・態様(不相当)を切り分けて評価し、要求には応じつつ、威圧的な言動には毅然と一線を引きます。手段が一線を越えていれば、要求が妥当でもカスハラに該当し得ます。

<パターン2:話し方は冷静だが要求が過大>
口調は穏やかでも、軽微な配送遅延に対して商品代金を大きく超える慰謝料や特別待遇を求めるような場合です。手段は相当でも要求内容が妥当性を欠くため、応じられる範囲を冷静に説明し、過大な部分には応じない判断が必要になります。

<パターン3:同じ要求を執拗に反復>
一回ごとの言動は穏当でも、解決済みの内容を繰り返し蒸し返し、長時間の電話や居座りで業務を妨げる場合です。指針でも継続的・執拗な言動や長時間拘束は典型例とされており、頻度・継続性を含めて総合評価します。

いずれのパターンも、「要求内容の妥当性」「手段の相当性」「執拗さ・継続性」「就業環境への影響」を一つずつ評価し、最後に全体を見て判断するのが基本です。判断に迷う事案ほど、独断で結論を出さず、記録を残して上長や相談窓口と共有することが大切です。

現場で迷ったときのカスハラ・クレーム判断フロー

迷ったときに最優先すべきは「判断より安全」です。現場でそのまま使える対応の順序を、安全確保・切り分け・打ち切り判断の3ステップで示します。

暴力・脅迫・威圧がある場合は安全確保を優先する

暴力、脅迫、大声での威圧、退去要請に応じない居座りがある場合は、要求内容の妥当性を検討する前に、まず安全の確保を優先します。判断は後からでも取り戻せますが、従業員の安全は取り戻せません。

  • 一人にしない>:一次対応者を一人にせず、複数名で対応する
  • 上長へ交代>:速やかに上長へ報告し、対応を交代する
  • 外部へ連絡>:危険があれば警察・警備へ連絡する

要求内容と手段・態様を分けて確認する

安全が確保できたら、次は「何を求めているか(要求内容)」と「どう求めているか(手段・態様)」を切り離して確認します。両者を混ぜて評価すると、正当な要求まで一括で拒否したり、逆に威圧を見過ごしたりしがちです。要求内容については合理性と実現可能性を、手段・態様については威圧・暴言・執拗さの有無を、それぞれ前述の5つの基準に照らして点検します。このとき、自社側の落ち度や合理的配慮の必要性がないかも忘れずに確認します。

対応継続・上長交代・対応打ち切りを判断する

確認の結果をもとに、対応の方向を決めます。正当なクレームと判断できれば、傾聴と事実確認を続けて解決を図ります。手段が不相当だが対話の余地がある場合は、上長への交代でいったん仕切り直します。要求も手段も明らかに不当で改善が見込めない場合は、対応を打ち切る判断に進みます。重要なのは、この判断軸を担当者個人の感覚に委ねないことです。どの段階で上長に上げ、どの時点で打ち切るかという基準(エスカレーションライン)をあらかじめ社内で共有しておくと、現場が迷わず、対応のばらつきも防げます。具体的なエスカレーション表や記録様式まで整える場合は、カスハラ対応マニュアルの作り方も参考になります。

対応を打ち切る前に使える伝え方の例文

毅然と対応するといっても、感情的に突き放す必要はありません。あらかじめ言い回しを用意しておくと、現場が落ち着いて一線を引けます。場面別に、そのまま使える例文を紹介します。

威圧的な言動が続くとき
「ご意見は承りました。ただ、他のお客様や従業員への威圧的な言動が続く場合、これ以上の対応はいたしかねます」

過大な要求を求められたとき
「事実確認のうえ、当社として対応できる範囲をご説明します。土下座や個人への謝罪要求には応じられません」

同じ要求が執拗に繰り返されるとき
「同じ内容についてはすでに回答済みです。これ以上同じご要望が続く場合、本日の対応は終了させていただきます」

いずれも、相手の意見を一度受け止めたうえで、応じられる範囲と応じられない範囲を明確に示すのがコツです。やり取りはあわせて記録に残しておきます。社内で使う対応文言や店頭・窓口での掲示文まで整えたい場合は、カスハラ社内方針の例文テンプレートも活用できます。

カスハラが該当しうる法律と対応を誤ったときのリスク

悪質なカスハラは犯罪に該当し得る一方、対応を誤れば企業側もリスクを負います。刑法上の罪・安全配慮義務・逆方向のリスクの3点から整理します。

カスハラが抵触する可能性のある刑法上の罪

カスハラの行為は、内容によっては刑法上の罪に問われ得ます。代表的な行為と該当しうる罪を整理しました。

行為例該当しうる罪・問題
殴る・物を投げる暴行罪・傷害罪
「殺すぞ」「店を壊すぞ」と脅す脅迫罪など
土下座を強要する強要罪
店舗に居座る・退去しない不退去罪
長時間の電話・業務妨害威力業務妨害罪など
虚偽の内容をSNSや口コミに投稿する名誉毀損・信用毀損・業務妨害など
SNS投稿をほのめかして過大な要求を通そうとする脅迫・強要・業務妨害などが問題になり得る

これらに当たる行為を「クレーム」として受け入れ続ける必要はありません。悪質と判断される場合は、警察や弁護士などしかるべき機関への相談も選択肢になります。

放置すると問われる企業の安全配慮義務違反

カスハラを放置することは、企業自身のリスクにもなります。企業には従業員が安全に働ける環境を整える安全配慮義務があり、カスハラへの対応を怠れば、この義務違反を問われる可能性があります。近年の裁判では、トラブルを予見できたか、被害を防ぐ措置を講じていたかが厳しく問われる傾向にあります。対応の不備が認定されれば、従業員の休職・離職や人材流出を招くだけでなく、損害賠償につながる恐れもあります。

正当なクレームをカスハラ扱いする逆方向のリスク

見落とされがちなのが、逆方向のリスクです。正当なクレームを過剰にカスハラと扱ってしまうと、本来応じるべき顧客の声を切り捨てることになり、顧客との信頼関係を損ね、企業イメージの悪化を招きます。従業員を守ることと、正当な顧客の声に応じることは両立すべきものであり、線引きの精度こそが問われます。「カスハラ対策」を名目に正当な要求まで一律に拒否する運用は、改善の機会を失うだけでなく、SNSなどでの評判低下にも直結します。

合理的配慮の申し出をカスハラ扱いしないよう注意する

逆方向のリスクの中でも、とくに注意したいのが合理的配慮の申し出です。障害のある方が社会的障壁の除去(合理的配慮の提供)を求める意思表明は、それ自体はカスハラに当たりません。

合理的配慮を検討する場面では顧客の「属性」に、カスハラ該当性を検討する場面では顧客の「行為」に注目するという違いがあります。まずはじっくり話を聞き、配慮を求めているのか否かを見極めたうえで、過重な負担にならない範囲で実現可能かを検討する——この建設的対話の姿勢を、現場で共有しておくことが重要です。

違いを踏まえた現場対応と法改正への備え

判断軸を実際の対応と社内体制にどう落とし込むかを整理します。義務化への備えまで含めて確認しましょう。

正当なクレームには誠実に向き合い改善につなげる

正当なクレームには、迅速かつ誠実な対応で応えます。まず顧客の話を遮らずに最後まで聞き、事実関係を整理・確認したうえで、企業として取るべき対応を説明します。最後に再発防止策を伝え、必要に応じてフォローを行います。この一連の対応を、感情的にならず事実に基づいて進めることで、クレームを改善とロイヤルティ向上の機会へと転換できます。

カスハラには毅然と対応を打ち切る

カスハラと判断した場合は、従業員の安全を最優先に、毅然と対応します。要求に応じられない理由を冷静に説明し、それでも威圧や暴言が続くなら、対応を打ち切る旨を伝えます。このとき、一人で抱え込まず組織として対応すること、やり取りの内容を記録に残すことが鉄則です。記録は、後の法的措置や、安全配慮義務を果たした証跡としても役立ちます。

記録・報告・相談窓口のルールを整備する

個人の対応力だけに頼らず、組織として支える仕組みを整えることが、根本的な予防につながります。対応手順の枠組みは厚労省のカスタマーハラスメント対策企業マニュアルも参考になります。最低限、次の3点を標準化しておきましょう。

  • 記録>:発生日時・発言内容・対応結果を定型様式で残す
  • 報告>:現場から上長への迅速なエスカレーション経路を定める
  • 相談窓口>:従業員が安心して相談できる窓口を設置する

社内方針づくりの具体的な文面はカスハラ社内方針の例文テンプレートを、現場への落とし込みはカスハラ研修おすすめ7選を参考にしてください。

業種特有の線引きは、飲食店のカスハラ対策完全ガイド介護施設のカスハラ対応ガイドでも詳しく解説しています。なお国の指針では、対処内容の例として顧客等とのやり取りの録音・録画も挙げられています。録音・録画を行う場合は、個人情報の取扱いや保存期間についても社内でルール化しておく必要があります。

法改正で義務化される社内体制を整備する

こうした体制整備は、もはや任意ではありません。改正労働施策総合推進法(いわゆるカスハラ対策法)が令和7年(2025年)6月11日に公布され、令和8年(2026年)10月1日からは、カスタマーハラスメント対策が、従業員を雇用するすべての事業主の雇用管理上の措置義務となります。中小企業も含め、顧客対応を行う事業者は早めに社内体制を整えておく必要があります。

具体的に求められる措置は、令和8年(2026年)2月26日に告示された国の指針(事業主が講ずべき措置等についての指針)で示されています。方針の明確化と周知、相談体制の整備、事案発生時の適切な対応、再発防止、記録体制の整備などが柱です。その前提として、本記事で見てきた「カスハラとクレームの違いを見分ける判断軸」を社内で共有しておくことが、現場が迷わず動くための第一歩になります。

義務化の施行日・対象範囲・企業がやるべき措置を詳しく確認したい方は、カスハラ対策義務化で企業がやるべき5つの措置とは?施行日と準備手順を解説もあわせてご覧ください。

カスハラとクレームの違いに関するよくある質問

現場で迷いやすい点を、要点を絞って回答します。個別の法的判断が必要な場合は、弁護士など専門家への相談をおすすめします。

お客様が怒鳴っていても、要求が正しければクレームですか?

要求内容が正当でも、怒鳴る・暴言を吐くといった手段・態様が社会通念上許容される範囲を超え、従業員の就業環境が害される場合は、カスハラに該当し得ます。要求内容と伝え方を分けて評価し、要求には応じつつ、威圧的な言動には毅然と一線を引くのが基本です。

同じ問い合わせを何度も受ける場合はカスハラになりますか?

一回ごとの言動が穏やかでも、解決済みの内容を執拗に蒸し返し、長時間の電話や居座りで業務に支障が出る場合は、カスハラに該当し得ます。国の指針でも、継続的・執拗な言動や長時間拘束は典型例とされており、頻度・継続性を含めて総合的に判断します。

SNSに投稿すると言われた場合はカスハラですか?

「SNSに晒す」とほのめかして過大な要求を通そうとする行為は、内容や状況によって、脅迫・強要・業務妨害などが問題になり得ます。虚偽の内容を実際に投稿すれば、名誉毀損や信用毀損に当たる可能性もあります。ただし、事実に基づく正当な意見表明まで一律にカスハラと扱わないよう、内容を見極めることが必要です。

カスハラと判断したらすぐに対応を打ち切ってよいですか?

まずは従業員の安全を確保したうえで、応じられない理由を冷静に説明します。それでも威圧や暴言、執拗な要求が続く場合に、対応を打ち切る判断に進みます。打ち切りは担当者個人の感覚ではなく、社内で定めたエスカレーション基準に沿って組織として行い、やり取りは記録に残します。

合理的配慮の申し出とカスハラはどう見分ければよいですか?

障害のある方が社会的障壁の除去(合理的配慮の提供)を求める意思表明は、それ自体はカスハラに当たりません。合理的配慮を検討する場面では顧客の「属性」に、カスハラ該当性を検討する場面では顧客の「行為」に注目します。まずはじっくり話を聞き、配慮を求めているのかを見極めたうえで、過重な負担にならない範囲で実現可能かを建設的対話で検討します。

まとめ:カスハラとクレームの違いを理解し毅然と対応しよう

カスハラとクレームの違いは、要求内容の妥当性・手段の相当性・就業環境への影響という3つの軸で見極められます。クレームには「正当」と「不当」があり、不当なクレームや要求を伴わない嫌がらせが、社会通念上許容される範囲を超え就業環境を害する場合にカスハラに該当し得ます。現場で迷ったときは安全を最優先し、要求内容と手段を切り分けて確認すること。正当なクレームには誠実に、カスハラには毅然と対応しつつ、自社の落ち度や合理的配慮の必要性を見落とさないこと。この線引きの精度が、従業員と顧客の双方を守ります。2026年10月の義務化を機に、社内の判断基準と体制を今のうちに整えていきましょう。

参考情報・編集部注記

編集部注記
本記事では、公的情報に基づく解説に加え、カスハラ対策実務ガイド編集部が現場向けに、判断軸・具体例・トーク例・判断フローとして再整理しています。個別事案の法的判断については、弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。法令・指針の施行日等は本記事公開時点の情報であり、最新の情報は各公的機関の公表資料をご確認ください。

本記事は、以下の公的情報をもとに作成しています。