飲食店のカスハラ対策完全ガイド!7類型別の対応例・掲示文・義務化準備を解説

「飲食店のカスハラ対策」と言われても、「結局、自分の店は何から手をつければいいのか」と悩む店長・経営者は少なくありません。本記事では、正当なクレームとの線引きから、7類型別の対応とそのまま使えるトーク例、店内掲示文・記録シート、義務化への備えまでを、個人店やワンオペ店舗が明日から使える形で整理します。

この記事でわかること

  • 飲食店のカスハラ対策として、まず何を整えればよいか
  • 正当なクレームと毅然と断るべきカスハラの線引き
  • 7類型別の対応と、そのまま使えるトーク例
  • 店内掲示文と記録シートのテンプレート
  • ワンオペ・少人数店での対応と2026年10月の義務化準備

飲食店のカスハラ対策とは、お客様や取引先からの社会通念上許容される範囲を超えた言動(暴言・威圧・土下座の強要・不当な要求・長時間の拘束など)から従業員を守るために、店として方針・初動対応・打ち切り基準・記録の仕組みを整える取り組みです。2026年10月1日からは、従業員を雇用するすべての事業主に対し、カスハラ防止のための雇用管理上必要な措置が義務化されます。義務化で企業が整えるべき全体像は、カスハラ対策義務化で企業がやるべき5つの措置で詳しく解説しています。

カスハラ対策実務ガイド編集部の結論
編集部では、飲食店が最初に整えるべきものは、分厚いマニュアルではなく次の4点だと考えます。①店として守る線引き、②現場が一人で抱え込まない初動フロー、③対応を打ち切る基準、④記録を残す仕組み。お店を守るのは経営者の責任であり、従業員が暴言や暴力に耐える必要はありません。

特に、店長が現場対応も兼ねる個人店やワンオペ店舗では、「誰が判断するか」「どこで対応を切り替えるか」を事前に決めておくことが、従業員保護と接客品質の両立につながります。なお本記事の編集部独自整理は、農林水産省・厚生労働省のガイドライン等の公的情報をもとに、飲食店の現場で実際に使いやすい形へ再構成したものです。

この記事の編集者

カスハラ対策実務ガイド編集部

カスハラ対策実務ガイド編集部

カスハラ対策実務ガイドは、企業・店舗・現場担当者に向けて、カスタマーハラスメント対策に役立つ実務情報を発信するWebメディアです。編集部では、カスハラの基礎知識、社内体制づくり、従業員を守る対応手順、マニュアル整備のポイントなどを、現場で活用しやすい形でわかりやすくお届けしています。

飲食店のカスハラ対策でまず整えるべき5つのこと

飲食店のカスハラ対策でまず整えるべき5つのこと

カスハラ対策は、複雑なマニュアルを完成させなくても、最初の5つの土台を決めるだけで現場が大きく動きやすくなります。ここでは要点だけを示し、詳しい手順は記事後半の各章に譲ります。

店としての対応方針を決める

最初に決めるべきは「うちの店はカスハラを許容しない」という基本方針です。農林水産省・厚生労働省の『カスタマーハラスメント対策ガイドライン』(令和8年2月策定)でも、お店としての考え方を文章で明確に示すことが対策の出発点とされています。方針が一行でも明文化されていれば、従業員は「どこまで対応し、どこで断るか」を迷わず判断でき、いざという時に店が守ってくれるという安心感につながります。方針文書をゼロから作る場合は、社内向け・店頭掲示向けの文面をまとめたカスハラ社内方針の例文テンプレートを参考にしてください。

現場で使う初動対応フローを作る

カスハラの多くは、お店のミスへのクレーム対応がこじれて発展します。だからこそ、まずは「聴く→事実を把握する→要望を把握する→責任者へ引き継ぐ」という初動の流れを決めておくことが重要です。一人で抱え込ませず、早い段階で店長・責任者につなぐ前提にしておけば、現場のアルバイトが過度な要求を一人で受け止めずに済みます。初動から責任者対応までの流れを文書化する場合は、カスハラ対応マニュアルの作り方で対応フローやエスカレーション表の作成手順を確認できます。具体的なトーク例は後述します。

対応を打ち切る基準を決める

「いつまで対応すればいいのか」が決まっていないと、現場は際限なく拘束されます。ガイドラインでは、適切な対応を尽くしても要求が続く場合の目安として、長時間化は30分、同じ内容の繰り返しは3回といった基準が示されています。この目安をあらかじめ共有しておくことで、従業員は罪悪感なく「これ以上は対応できません」と伝えられます。

記録・録音・防犯カメラの運用ルールを整える

カスハラが起きた時、客観的な記録があるかどうかでその後の対応が変わります。誰が・いつ・何を記録するのか、録音はどう行うのか、防犯カメラの映像はどう保存するのかを、発生前に決めておきましょう。記録に残すべき項目は、後半で「記録シート」の形で提供します。

警察・本部・責任者へつなぐ基準を共有する

暴力や脅迫など、カスハラの範囲を超えた犯罪行為に発展した場合は、ためらわず警察に通報する基準を全員で共有しておきます。最寄りの交番の電話番号を控えておく、本部や責任者への連絡ルートを決めておくといった準備があるだけで、緊急時に現場が固まらずに動けます。

飲食店のカスハラ対策が急務となっている背景

飲食店のカスハラ対策が急務となっている背景

「うちはそこまでひどくないから」と先送りにしている店ほど、いざという時に対応できません。被害の実態・義務化・経営リスクという3つの角度から、なぜ今着手すべきかを整理します。

半数以上の飲食店がカスハラを経験している

飲食店ドットコム(株式会社シンクロ・フード)が2024年8月に飲食店経営者・運営者357人に行った調査では、カスハラを「受けたことがある」と答えた店が55.7%にのぼり、半数以上が経験していることがわかりました。受けた内容で最も多かったのは「威圧的な言動」で63.8%。グルメサイト・SNSでの誹謗中傷や低評価、従業員の個人情報・写真をSNSに投稿されるといった被害も確認されています。一方で同調査では、84.0%が対応マニュアルを「作成していないし、予定もない」と答えており、被害は多いのに対策は進んでいない実態が浮かび上がっています(出典:飲食店ドットコム(株式会社シンクロ・フード)調べ「飲食店のカスハラ対策を調査」2024年/調査データは飲食店リサーチ)。

カスハラ対策は全事業主に求められる義務になる

2025年6月に公布された改正労働施策総合推進法により、カスハラを防止するための雇用管理上の措置が事業主に義務付けられました。施行日は2026年10月1日で、対象は従業員を1人でも雇用するすべての事業主。中小企業や個人事業主への適用猶予措置はありません。小規模な飲食店も例外なく対応が求められます。改正の経緯や施行日の詳細は厚生労働省「令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について」に、企業が講ずべき具体的措置は厚生労働省「ハラスメント防止対策」の指針にまとまっています。

対策の遅れは離職・営業妨害・口コミ被害につながる

カスハラは、対応した従業員の心身を消耗させ、離職や人手不足の引き金になります。さらに、店内の雰囲気の悪化や対応の長時間化は、他のお客様の体験まで損ないます。グルメサイトやSNSでの悪評をほのめかす脅しは、放置すれば店の評判にも直結します。つまりカスハラ対策は、従業員を守る労務問題であると同時に、売上と評判を守る経営課題でもあるのです。

飲食店のカスハラ対策はクレームとの線引きから始まる

すべての苦情がカスハラではありません。対策の第一歩は、改善につながる正当なクレームと、毅然と断るべきカスハラを見分ける軸を持つことです。

正当なクレームと毅然と断るべきカスハラの違い

お客様からのクレームには正当なものが多く、業務改善や新たなサービス開発の糧になります。消費者基本法第5条でも、事業者は苦情を適切かつ迅速に処理する体制を整えるよう定められており、正当なクレームを不当に制限してはなりません。料理の作り直しや返金の相談といった通常対応の範囲は、まずしっかり受け止めるべきものです。問題は、その要求の手段や態様が社会通念上の許容範囲を超えたときに、クレームがカスハラへと変わる点にあります。下の表で両者の違いを整理します。

判断軸正当なクレームカスハラの可能性が高い例
要求内容料理の作り直し、返金相談土下座、過大な賠償、個人情報の要求
手段・態様冷静な指摘暴言、威圧、長時間拘束、無断撮影
継続性一度の申し入れ何度説明しても繰り返す
業務影響通常対応の範囲他の客対応や営業に支障が出る

この表を朝礼やマニュアルに掲げておくと、現場での判断のブレを減らせます。カスハラ全般の定義や、企業が最初に整えるべき対策の全体像は、カスハラ対策とは?正当なクレームとの違いで詳しく整理しています。

カスハラに該当するか判断する3つの要素

厚生労働省は、カスハラを次の3つの要素で定義しています。判断に迷ったときは、この3点に当てはめて考えると整理しやすくなります(参考:政府広報オンライン「カスハラとは?義務化されるカスハラ対策」)。

  • ①顧客等の言動>:お客様や取引先など、事業に関係する者による言動である
  • ②社会通念上の範囲を超える>:要求内容や手段が常識的な範囲を逸脱している
  • ③就業環境が害される>:その言動により従業員の働く環境が損なわれている

3つすべてを満たす場合がカスハラにあたります。お店に非がある場合でも、対応方針を超えて言動が続くなら、カスハラと判断してかまいません。

飲食店で起こりやすいカスハラ7つの類型

ガイドラインでは、飲食店で起こるトラブルを踏まえ、カスハラを7つの類型に整理しています。自店で起こり得るのはどれかをイメージしながら確認してください。

  • 暴力>:殴る・蹴る・物を投げるなど身体的な攻撃
  • 侮蔑・暴言>:人格否定や見下す発言など失礼な言動
  • 恐怖・威圧>:怒鳴る・机を叩くなど恐怖を感じさせる言動
  • 無関係・不当要求>:店に無関係な要求や私的な質問の押しつけ
  • 長時間化/繰り返し/非協力>:適切に対応しても続く・繰り返す・話が通じない

各類型の対応動画や事例は、農林水産省「飲食店におけるカスタマーハラスメント対策」でも公開されています。

「やめてください」「できません」が通じない時の判断基準

7類型を見分ける実務的な分かれ目は、「やめてください」「できません」と明確に伝えても、その言動が続くかどうかです。暴力・侮蔑・恐怖・無関係要求の4類型は、すぐに「やめてください」と伝えるべきもの。一方、長時間化・繰り返し・コミュニケーション不成立は、適切な対応を尽くしてもなお続く点が特徴です。いずれも、お店の対応方針に沿って対応してもやまない場合はカスハラと判断し、毅然と切り替えてよい、というのが共通の基準になります。

編集部が推奨する判断フレーム
現場判断では「要求内容」「手段・態様」「継続性」「業務・従業員への影響」の4点で確認するのがおすすめです。要求内容が一部正当でも、伝え方や拘束時間が社会通念上の範囲を超える場合は、通常のクレーム対応から組織対応(責任者対応)へ切り替えましょう。

飲食店のカスハラ対策【7つの類型別対応】

ここからは記事の核として、7類型ごとに「現場の具体例・避けたいNG対応・そのまま使えるトーク例・責任者への引き継ぎ基準・記録すべき内容」をまとめます。自店の状況に合わせて取捨選択してください。

暴力:安全確保と警察への連絡を最優先する

殴る・蹴る・物を投げる、わざとぶつかってくるといった行為が該当します。スープへの異物混入を主張しながら危険な行為に及ぶケースなどが典型です。「落ち着かせよう」と相手に近づくのはNG。まず逃げる・物陰に隠れるなど、安全確保を最優先します。複数人いれば協力して警察へ通報しましょう。引き継ぎは「身の危険を感じた時点で即・責任者と警察へ」。記録には、けがの有無、破損した物、行為の具体的内容、目撃者を残します。

トーク例
「お客様、これは危険な行為です。冷静なお話し合いをお願いいたします」と一度だけ制止を伝え、収まらなければ通報に移ります。

侮蔑・暴言:人格否定には制止と記録で対応する

オーダーミスをきっかけに「お前みたいなのがいると迷惑だ、辞めろ」などと人格を否定する暴言を浴びせるケースです。お店のミスを謝るのは当然ですが、暴言まで黙って受け入れる必要はありません。ミスへの謝罪と、暴言の制止は切り分けて伝えるのがポイントです。繰り返される場合は、相手に伝えたうえで録音し、対応を打ち切ります。引き継ぎは「人格否定・名誉毀損にあたる発言が出た時点」。記録には発言内容(できるだけ原文)、時刻、録音の有無を残します。

トーク例
「当店のミスについてはお詫び申し上げます。ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。しかし、店員を侮蔑するような発言はお控えください」

恐怖・威圧:大声や脅しには複数名対応へ切り替える

大声で怒鳴る、机を叩く、「殺すぞ」と脅す、土下座や念書を要求するといった言動です。一人で正面から対峙し続けるのはNG。まず安全を確保できる距離をとり、複数名での対応に切り替えます。土下座や念書については「お店として必要な対応はいたしますが、土下座や念書といった対応はできません」と明確に断ります。引き継ぎは「恐怖を感じた時点/脅迫的発言が出た時点」。記録には脅し文句、要求内容、複数名対応の状況を残します。

トーク例
「他のお客様だけでなく、当店の営業にも支障をきたしております。どうか、声のトーンを下げていただけますでしょうか」

無関係・不当要求:個人情報や過剰要求は明確に断る

連絡先を聞き出す、通学先を尋ねる、営業時間外の対応や無理な値引きを求めるなど、業務と無関係な要求や私的な質問の押しつけが該当します。常連だからと曖昧に受け流すのはNGで、つけこまれる原因になります。私的な会話が業務に支障をきたす場合は「これ以上は業務に支障があるため対応できません」と明言します。引き継ぎは「断ってもやめない時点」。記録には要求内容、対象となった従業員、繰り返しの回数を残します。

トーク例
「申し訳ございませんが、連絡先等プライベートに関わるご質問はご遠慮いただいております」

長時間化:対応時間の目安を決めて打ち切る

料理の提供が遅れたことなどをきっかけに、適切に対応してもやりとりが延々と続くケースです。曖昧に付き合い続けるのはNG。ガイドラインの目安は「適切な対応を尽くしても30分以上続く場合」で、ここを越えたらこれ以上は対応できないことを明言します。それでも要求が続くなら「これ以上の対応はいたしかねます」と切り替えます。引き継ぎは「30分の目安を越えた時点」。記録には開始・終了時刻、要求内容、対応者を残します。

トーク例
「お待たせして大変申し訳ございません。厨房に確認し、あと3、4分ほどでご提供できますが、いかがいたしましょうか」と具体的な見通しを示します。

繰り返し:同じ要求は回数を決めて記録する

「メニュー写真と実物が違う」と何度も作り直しや謝罪を求める、同じ案件で繰り返しクレームを入れるケースです。毎回ゼロから対応し直すのはNG。目安は「同様の内容が3回以上続く場合」で、これ以上は対応できないことを伝えます。スタッフ間で情報を共有し、対応の一貫性を保つことも重要です。引き継ぎは「3回目の繰り返しが出た時点」。記録には要求の回数、内容の変遷、共有した相手を残します。

トーク例
「ご期待に沿えず申し訳ございません。手作りという特性上、写真と全く同じにはならない点をご理解ください。同じご用件でのご指摘を続けることはお控えいただけますでしょうか」

コミュニケーション不成立:撮影・SNS投稿・会話不能時の対応

説明を遮って一方的に話す、謝罪を一切受け付けない、SNS用に店内やキッチン・他のお客様を無断撮影するといったケースです。「他のお客様の迷惑なので」という言い方はNG。からまれて事態が悪化することがあるためです。会話が成立しない場合は、一通り聴いたうえで「これ以上の対応はできません」と区切ります。引き継ぎは「無断撮影を確認した時点/会話が成立しないと判断した時点」。記録には撮影の有無、SNS投稿の事実、やりとりの経緯を残します。

トーク例
「許可なくキッチン内部や他のお客様、スタッフが映り込む場所を撮影するのはご遠慮ください」

飲食店で使えるカスハラ対応トーク例と記録シート

類型別の対応に加えて、どの場面でも使える初動・打ち切り・通報のトーク例と、コピーして使える記録シートをまとめます。マニュアルに貼り付けてご活用ください。

初動対応で使えるトーク例

初動では、まず受け止めと事実確認に徹し、感情を増幅させないことが肝心です。話の腰を折らず、うなずきや復唱で「聴いている」ことを伝えます。

「ご不快な思いをおかけし、申し訳ございません。内容について、具体的に教えていただけますでしょうか」
「お客様のご要望は●●ということでよろしいでしょうか。確認のうえ、対応できる範囲をお伝えいたします」

お店に非がある部分だけを限定して謝罪し、ごね得を認めない姿勢を保つことで、正当なクレームのままスムーズに収束しやすくなります。

対応を打ち切る時のトーク例

打ち切りは、感情的にならず事実ベースで淡々と伝えるのがコツです。これまでの対応を示したうえで、ここが限界であることを明言します。

「当店がこれまで対応した内容が、私どもの誠意でございます。これ以上の対応はいたしかねますので、お引き取りください」
「すでに2度、退店をお願いしております。退店いただけない場合は、警察に連絡させていただきます」

退店を求めても応じない場合は、複数名で伝え、録音しながら対応すると安全です。

警察へ連絡する時の判断基準

カスハラがその範囲を超え、犯罪に該当し得る段階に入ったら、ためらわず通報します。判断のめやすは次のとおりです。

  • 身の危険があるとき>:暴力・物を投げる・つかみかかる等が起きている
  • 脅迫されたとき>:「どうなっても知らない」等、害を加える告知がある
  • 退去要求に応じないとき>:複数回の退店要請後も居座る

暴行罪・脅迫罪・強要罪・威力業務妨害罪・恐喝未遂罪などが成立し得るため、これらは警察への被害届を含む対応を検討すべき場面です。

カスハラ発生時に記録すべき項目(記録シート)

記録は、後日の対応・出禁判断・警察相談すべての土台になります。次の表をそのまま1枚のシートにして、レジ裏やバックヤードに常備しておきましょう。

項目記録内容
発生日時○月○日 ○時○分(開始・終了)
発生場所店内入口/レジ前/客席など
対応者氏名・役職
客の言動発言・行動をできるだけ原文で記録
店側の対応謝罪・説明・打ち切り・退店要請など
証拠録音/防犯カメラ/予約情報/目撃者
今後の対応出禁検討/警察相談/社内共有など

その場で全項目を埋められなくても、対応後すぐにメモを残すだけで証拠としての価値が大きく上がります。

飲食店でできるカスハラの予防策

飲食店でできるカスハラの予防策

カスハラは、起きてから対応するだけでなく、起こさせない・記録できる店づくりで被害を大きく減らせます。発信・掲示文・証拠・店づくりの観点で解説します。

店内掲示やSNSで方針を発信する

「カスハラは認めない」というメッセージを店内掲示やSNSで発信すると、お客様への注意喚起になり、過度な言動の抑止につながります。ガイドラインでも、お客様自身が「やりすぎてはいけない」と気づける工夫が推奨されています。ただし、威圧的な掲示は店の雰囲気を壊しかねないため、トーンには配慮が必要です。「従業員も大切なお客様の一員です」といった、店の世界観を保った表現にするのがおすすめです。

店内掲示に使えるカスハラ対策方針の例文

そのまま使える掲示文を2パターン用意しました。お店の雰囲気に合わせて、柔らかめ・毅然めを選ぶか、組み合わせてご利用ください。より詳しい文例は、カスハラ社内方針の例文|店舗掲示文テンプレートでも紹介しています。

パターン1:雰囲気を壊さない柔らかめの掲示文
当店は、お客様と従業員の双方が気持ちよく過ごせるお店を目指しています。スタッフへの暴言・威圧的な言動・過度な要求・無断での撮影などはご遠慮ください。皆さまのご理解とご協力をお願いいたします。

パターン2:従業員を守る毅然とした掲示文
当店では、すべてのお客様に気持ちよくお過ごしいただくため、従業員への暴言・威圧的な言動・過度な要求・無断撮影等はご遠慮いただいております。従業員の安全を守るため、悪質な言動が続く場合は、対応を中止し、退店をお願いすることがあります。あらかじめご了承ください。

防犯カメラ・録音・予約記録で客観的な証拠を残す

防犯カメラは、カスハラ発生時の記録として活用でき、「防犯カメラ作動中」と示すこと自体が注意喚起にもなります。録音や録画を行う場合は、トラブル防止のため、店内掲示や口頭で「記録を残す場合がある」ことを伝えておくと安心です。取得した音声・映像は、カスハラ対応や事実確認の目的に限定し、無断公開や目的外利用は避けましょう。完全予約制にして相手を特定しやすくする、予約記録を残すといった工夫も有効です。いずれの場合も、個人情報の保護に関する法律等を守り、顧客の個人情報を適切に取り扱うことが前提になります。

クレームを生まない店づくりとマニュアル整備

そもそもクレームの種を減らすことが、最も効果的な予防策です。注文の復唱で聞き間違いを防ぐ、メニュー写真と実物の差をなくす、アレルギー表記を明確にする、ドタキャン対策として予約ルールを整えるなど、日々の運営の精度を上げましょう。あわせて、対応手順を明文化したマニュアルを整え、研修やロールプレイで全員に浸透させることで、誰が対応しても一貫した判断ができるようになります。全業種共通の考え方は厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(PDF)が参考になり、飲食店向けの具体的な作り方は、カスハラ対応マニュアルの作り方とひな形で解説しています。

義務化に備える飲食店のカスハラ対策体制づくり

義務化に備える飲食店のカスハラ対策体制づくり

2026年10月の義務化では、雇用管理上の措置が事業主に求められます。大企業向けの体制をそのまま真似る必要はなく、店の規模に翻訳して整えれば十分です。

経営者が示す基本方針と相談体制の整備

義務化で求められる措置は、方針の明確化と周知にとどまりません。厚生労働省の指針を飲食店向けに整理すると、最低限おさえたいのは次の点です。

  • 方針の明確化・周知>:「従業員はカスハラに耐えなくてよい」を明文化する
  • 相談体制の整備>:被害は責任者にまず相談してよいと全員に伝える
  • 不利益取扱いの禁止>:相談を理由にシフト減や叱責をしない
  • プライバシー保護>:相談者・被害者の情報を守る
  • 悪質事案への対処方針>:警察通報や利用お断りの基準を事前に決める

特に「相談したらシフトを減らされた」「店長に怒られた」と感じると、従業員は二度と相談しなくなります。不利益取扱いの禁止は、小さな店ほど明確にしておきたいポイントです。義務化の全体像は、カスハラ対策義務化で企業がやるべき5つの措置で確認できます。

ワンオペ・少人数店でも回る対応ルールのつくり方

相談窓口や顧問弁護士を常設できない小規模店でも、現実的なルールは作れます。場面ごとに「何をするか」を1枚に決めておくだけで、一人の現場でも迷わず動けます。

状況ワンオペ時の対応
暴言が続く一度制止し、収まらなければ対応を打ち切る
退店に応じない110番または最寄り交番に連絡
無断撮影された撮影中止を求め、日時・内容を記録
身の危険を感じる料理提供や会計より安全確保を優先
後日再来店の恐れ顔・予約名・発生内容を責任者へ共有

あわせて、最寄り交番と責任者の番号をレジ裏に貼る、危険時に常連客へ送る合図を決めておくなど、「一人で抱えない仕組み」を物理的に用意しておくことが最大の防御になります。

被害を受けた従業員へのフォローと再発防止

対応が終わったら、最初に矢面に立った従業員へ必ず声をかけ、心理的なケアを行います。必要に応じて勤務シフトの調整や、産業医・カウンセラーにつなぐことも検討しましょう。あわせて、事例を従業員と共有し、判断基準や対応手順を見直すことで、同じ被害の再発を防ぎます。裁判事例や他社の取組はあかるい職場応援団(厚生労働省)でも確認でき、カスハラ研修おすすめ7選と選び方も、従業員研修・店長研修の体制づくりの参考になります。

飲食店のカスハラ対策に関するよくある質問

現場でよく寄せられる疑問に、要点を絞って回答します。個別の法的判断が必要な場合は、弁護士など専門家への相談をおすすめします。

カスハラ客を出禁にしてもよい?

悪質な言動を繰り返す客に対しては、施設管理や従業員保護の観点から、退店要請や以後の利用お断りを検討できる場合があります。実際に大手チェーンでも、カスハラと判断したケースで利用をお断りする例があります。ただし、対応の妥当性を後から説明できるよう、発言内容・対応経緯・退店要請の回数などを記録しておくことが重要です。

実際に出禁を検討する場合の法的根拠や判断基準、通知方法については、カスハラ客を出禁にする判断基準と手順で詳しく解説しています。

録音や防犯カメラの設置は問題ない?

店舗内での録音・録画は、カスハラ発生時の記録として有効で、設置自体に問題はありません。録音する場合は、店内掲示や口頭で「記録を残す場合がある」ことを伝えておくと安心です。防犯カメラは「作動中」と示すことで抑止にもなります。取得した音声・映像は対応や事実確認の目的に限定し、個人情報の保護に関する法律等を守って適切に管理しましょう。

口コミやSNSで悪評を書くと脅された場合は?

「料金をタダにしなければSNSに悪評を載せるぞ」といった発言は、恐喝未遂罪や威力業務妨害罪にあたる可能性があります。脅しに屈して不当な要求に応じる必要はありません。発言を記録し、悪質な場合は警察への相談を検討します。実際に投稿された事実無根の内容については、プラットフォームへの削除依頼も選択肢になります。

料理に異物が入っていたと言われた場合はどう対応する?

まずは謝罪し、作り直して再提供するなど、お店として必要な対応を行います。そのうえで、なお「作り直しは当たり前だ」「不衛生な店だ」などと理不尽な言動が続く場合は、「先ほどのご指摘については謝罪し、作り直したものをご提供いたしました。これ以上同じご用件でのご指摘を続けることはお控えいただけますでしょうか」と伝えます。食品は確認が難しいケースもあるため、状況・対応内容・提供物を記録に残しておくことが大切です。

酔客による暴言や居座りはカスハラにあたる?

酔っているかどうかにかかわらず、暴言や威圧、退店要請に応じない居座りは、カスハラに該当し得ます。お客様にどのような背景や事情があっても、暴力や暴言に従業員が耐える必要はありません。大声や暴言には一度制止を伝え、収まらなければ対応を打ち切ります。退店に応じない、他のお客様にからむといった場合は、複数名対応に切り替え、必要に応じて警察に連絡します。

アルバイトだけで対応してもよい?

初動の受け止めはアルバイトでも構いませんが、カスハラの判断や打ち切り、退店要請といった対応は、店長・責任者が担うのが基本です。ガイドラインでも、従業員1人で対応させず、複数名や責任者で対応することが推奨されています。新人やアルバイトには「困ったらまず責任者に連絡・相談する」と最初に教えておき、一人で抱え込ませない体制をつくりましょう。新人・アルバイト向けにロールプレイを取り入れる場合は、カスハラ研修おすすめ7選とロールプレイ研修の選び方も参考になります。

まとめ:飲食店のカスハラ対策は方針・初動・記録から始めよう

飲食店のカスハラ対策は、完璧なマニュアルがなくても始められます。大切なのは、正当なクレームはしっかり受け止めつつ、社会通念を超えた言動には毅然と対応するという線引きです。2026年10月には全事業主に対策が義務付けられますが、身構える必要はありません。まずは「店としての方針を一行で明文化する」「初動から打ち切りまでの対応フローを決める」「記録シートを1枚用意する」——この3点から着手しましょう。お店を守るのは経営者の責任であり、従業員が暴言や暴力に耐える必要はありません。その姿勢を仕組みにすることが、働きやすい店と安定した経営への第一歩になります。

参考情報・編集部注記

編集部注記
本記事では、公的情報に基づく解説に加え、カスハラ対策実務ガイド編集部が飲食店の現場向けに、判断軸・トーク例・掲示文・記録シートとして再整理しています。個別事案の法的判断については、弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。なお、飲食店ドットコムの調査データを引用する際は「飲食店ドットコム(株式会社シンクロ・フード)調べ」と明記しています。

本記事は、以下の公的情報・調査をもとに作成しています。