カスハラの録音は違法?無断録音の証拠能力・告知文例・運用ルール

「カスハラ対応で録音を残したいが、相手に断らずに録音してよいのか」——現場からこう質問され、判断に迷っている担当者は少なくありません。本記事では、2026年8月6日時点で公式情報を確認できた厚生労働省の指針、個人情報保護委員会のQ&A、裁判所が公開する裁判例を突き合わせ、録音行為の適法性・証拠能力・告知の要否・社内運用ルールの4点を切り分けて整理し、そのまま社内検討に使える形でまとめます。なお、義務化制度の全体像を把握したい方は、カスハラ対策義務化で企業がやるべき5つの措置もあわせて確認してください。

この記事でわかること

  • 会話当事者による無断録音が違法になるかどうかの考え方
  • 証拠能力と証明力の違いと、裁判例が示した判断枠組みの射程
  • 録音を告知すべきかの判断基準と、そのまま使える文例4種
  • 社内規程・録音方式・保存期間・報告フローの設計方法
  • 顧客側から録音・撮影・投稿されたときの初動対応

結論:自社の従業員が会話の当事者として録音する場合、相手の同意を得ていないという事実だけで、直ちに違法となるわけではありません。ただし「当事者であればどのような録音でも問題ない」という意味ではなく、録音の目的・場所・手段、そして録音後の使い方によっては、プライバシー侵害などの問題が生じます。また、2026年10月1日にカスハラ防止措置が事業主の義務となりますが、義務化されるのは体制整備であって、録音すること自体が一律に法律上義務付けられるわけではありません。録音は、事実確認・対応記録・抑止・再発防止に使える対策手段の一つとして位置付けるのが実務上の出発点です。

カスハラ対策実務ガイド編集部の結論
編集部では、録音対応で最も差がつくのは機材でも録音の可否でもなく「4つの論点を切り分けられているか」だと考えます。①録音行為自体が違法になるか、②裁判に提出できるか(証拠能力)、③内容が事実を証明する力を持つか(証明力)、④公開や第三者提供が許されるか——この4つは別々に判断されます。「違法ではない」と「問題が起きない」を同義に扱わないこと、そして録音の開始条件・保存期間・閲覧権限・報告フローを文書として残すこと。この2点が、施行日までの実務の芯になります。

なお本記事の表・チェックリスト・文例・運用ルールは、一次情報をもとに編集部が実務向けに再構成したもので、法定の様式ではありません。本記事が「推奨」として示す社内承認や記録のルールは、法律上すべての企業に義務付けられた手続ではありません。法令・指針・Q&Aの改正により内容が変わる可能性があるため、最新の情報は必ず各公式ページでご確認ください。個別の事案における録音の適法性や、就業規則・社内規程の整備といった法的論点については、弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

この記事の編集者

カスハラ対策実務ガイド編集部

カスハラ対策実務ガイド編集部

カスハラ対策実務ガイドは、企業・店舗・現場担当者に向けて、カスタマーハラスメント対策に役立つ実務情報を発信するWebメディアです。編集部では、カスハラの基礎知識、社内体制づくり、従業員を守る対応手順、マニュアル整備のポイントなどを、現場で活用しやすい形でわかりやすくお届けしています。

まず、読者から寄せられることの多い5つの疑問について、原則的な回答と注意点を一覧で確認してください。

読者の疑問原則的な回答主な注意点
相手に断らず録音してよいか会話当事者による録音は原則として直ちに違法とはならない目的・場所・方法・公開方法によって問題になる
録音していることを伝える義務はあるか録音の告知自体が一律に義務付けられているわけではない個人情報に該当する場合は利用目的の通知・公表を検討する
無断録音は証拠になるか民事上、無断録音だけを理由に直ちに排除されるとは限らない証拠能力と証明力は別に判断される
録音データをSNSなどで公開してよいか原則として慎重な判断が必要プライバシー、名誉、秘密情報などの問題が生じる
カスハラ対策として録音は義務か録音自体が一律に義務付けられているわけではない企業の実態に応じた対策手段として検討する

以下で、それぞれの根拠と実務上の対応を解説します。

カスハラ対応の無断録音は違法?原則と例外

カスハラ対応の無断録音は違法?原則と例外

ここでは、録音という行為そのものが法的に問題になるかどうかを整理します。録音データを証拠として使えるかどうかは次章で扱い、本章は「録音してよいか」という一点に絞って解説します。

会話当事者の無断録音は原則として直ちに違法とはならない

【情報確認日:2026年8月6日】自社の従業員が会話の当事者として、相手に断らずに録音した場合、無断であることだけを理由に直ちに違法となるわけではありません。ただしこれは「原則として直ちに違法とはならない」という意味であり、「どのような録音でも必ず適法」という意味ではない点に注意が必要です。

このように考えられている理由は、会話の相手方が自らの意思でその内容を目の前の相手に話している以上、当事者がそれを記録に残すことによるプライバシー侵害の程度は、会話に加わっていない者に盗み聞きされる場合と比べて小さいと評価されやすいためです。裁判所も、一定の事情のもとでは当事者による無断録音を違法ではないと判断しています(具体的な裁判例は次章で扱います)。

従業員が会話当事者となる場面

  • 電話対応>:担当者自身が応対している通話を録音する
  • 店頭・窓口対応>:担当者が同席する場のやり取りを録音する
  • 訪問対応>:担当者が顧客先で行う面談を録音する

実務上重要なのは、録音する行為と、録音したデータをどう使うかを切り離して考えることです。録音行為自体に問題がなくても、データを必要性なく社内外へ共有したり公開したりすれば、そこで別途責任を問われることがあります。また、法律上の問題がない場合でも、自社の社内規程や、取引先の事務所・庁舎など他者が管理する施設のルールによって撮影・録音が制限されていることがあります。個別事案の適法性は具体的な事情によって異なるため、判断に迷う場合は弁護士などの専門家に確認してください。

会話当事者による録音と第三者による録音は分けて考える

同じ「無断録音」でも、担当者自身が参加している会話を録音するケースと、会話に参加していない者が録音機を仕掛けて他人のやり取りを録音するケースでは、評価が大きく異なります。前者は自分が受け取った情報を記録に残す行為ですが、後者は、話し手が誰にも聞かれていないと考えている会話を第三者が取得する行為だからです。

そのため、会話に参加していない第三者による録音は、人格権やプライバシーの侵害の程度が大きくなりやすく、問題になりやすい類型といえます。とりわけ更衣室のように、プライバシーへの合理的な期待が特に高い場所は、原則として録音の対象から除外すべきです。個別の法的検討を経ずに録音機器を設置してはいけません。従業員休憩室のように私的な会話が行われる空間も、対象者が「聞かれていない」と期待することに合理性があるため、録音を行う場合は目的と範囲を慎重に検討する必要があります。

もっとも、第三者による録音がすべて犯罪になると断定することもできません。誰の会話をどのような場所で、どのような方法・目的で録音したかによって、民事上の責任の有無も、刑事上の評価も分かれ得ます。なお、こうした録音は「盗聴」と呼ばれることがありますが、盗聴は法律上一義的に定義された用語ではなく、文脈によって指す内容が異なります。用語の当てはめではなく、行為の中身で判断してください。

目的・場所・手段・利用方法によって問題になる場合がある

録音が問題になるかどうかは、「無断かどうか」だけでは決まりません。責任が問われやすい典型的な行為を、その理由とあわせて整理すると次のとおりです。

行為例問題になり得る理由
会話に参加していない者が録音機を設置する人格権・プライバシー侵害の程度が大きくなりやすい
私的空間や秘密性の高い場所で録音する対象者の合理的なプライバシー期待が高い
録音データを脅迫や嫌がらせに使用する利用方法自体が違法評価を受ける
録音内容を必要性なく社内外へ共有する目的外利用・情報管理上の問題
SNSに氏名や音声を公開するプライバシー・名誉毀損の問題
一部だけを切り取って誤解を招く形で公開する事実を歪める公開態様として責任が生じ得る
顧客の個人情報や機密情報を不適切に保存する安全管理措置上の問題

表の右側に並ぶのは、いずれも「録音したこと」ではなく「どう録ったか」「録った後にどう扱ったか」に起因する問題です。カスハラ対応で録音を導入する際は、開始の可否だけでなく、その後の取扱いまで含めて設計する必要があります。なお、最終行の安全管理措置については、個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)に具体的な考え方が示されています。

出典:個人情報保護委員会「法令・ガイドライン等」(2026年8月6日確認)

カスハラの録音は証拠になる?証拠能力と信用性

カスハラの録音は証拠になる?証拠能力と信用性

録音してよいかという問題と、その録音が裁判で役に立つかという問題は別です。ここでは、証拠能力と証明力という2つの観点から、録音データの扱いを整理します。

無断録音でも民事上の証拠として直ちに排除されるとは限らない

証拠能力とは、その資料を裁判に証拠として提出し、取り調べてもらう資格のことです。民事訴訟では、相手方の同意なく録音したという一点だけを理由に、録音データが必ず証拠から排除されるわけではありません。

裁判例では、録音の手段・方法や人格権侵害の程度など、個別事案の事情を踏まえて証拠能力が判断されています。参考になる裁判例は次の2件ですが、いずれも射程には限界があります。

東京高等裁判所 昭和52年7月15日判決(判例時報867号60頁)
料亭での酒席の会話を、相手に知らせないまま録音したテープの証拠能力が争われた民事事件です。著しく反社会的な手段を用いて人の精神的・肉体的自由を拘束するなど、人格権侵害を伴う方法で採集された証拠は違法と評価され証拠能力を否定されてもやむを得ないとしたうえで、本件は発言者が知らない間に録音したにとどまるとして証拠能力を認めました。そのまま当てはめられない部分:収集手段が著しく反社会的かという判断枠組みを示したものであり、あらゆる無断録音の適法性を保証する判断ではありません。

最高裁判所 平成12年7月12日決定(刑集54巻6号513頁)
詐欺の被害を受けたと考えた者が、相手方の説明内容に不審を抱き、後日の証拠とするために会話を録音した事案です。そうした事情のもとで一方の当事者が会話を録音することは、相手方の同意を得ないで行われたものであっても違法ではなく、録音テープの証拠能力は否定されないとしました。そのまま当てはめられない部分:刑事事件における証拠能力の判断であり、民事の紛争や企業が業務として行う録音一般に、そのまま一般化できるものではありません。

注意したいのは、これらを根拠に「最高裁判例があるのだから無断録音はすべて適法で、すべて有効な証拠になる」と読み替えないことです。民事訴訟と刑事事件では判断の枠組みが異なり、また各判断はいずれも具体的な事情を前提としています。

証拠能力と証明力は別に判断される

証拠として提出できることと、その内容が事実の証明に役立つことは別問題です。後者は証明力(信用性)の問題であり、実務で差がつくのはむしろこちらです。提出はできても、内容が信用されなければ主張の裏付けにはなりません。

信用性が下がりやすい録音

  • 発言者が特定できない>:誰の発言か客観的に確認できない
  • 音声が不明瞭>:雑音が多く発言内容を追えない
  • 会話の一部のみ>:前後の経緯が分からず文脈を欠く
  • 誘導的な質問>:発言を意図的に引き出した疑いが残る
  • 記録が不十分>:日時や場所、編集の有無が確認できない

つまり録音は「証拠になる/ならない」の二択ではなく、残し方によって証拠としての信用性に大きな差が生じます。カスハラ対応で必要なのは、録音を取ることそのものではなく、後から第三者が検証できる形で残すことです。

原本・日時・経緯・対応記録をセットで残す

録音の信用性を支えるのは、音声そのものよりも、それを取り巻く記録です。次のチェックリストを、社内の対応記録様式に組み込んでください。

  • 原本データの扱い:元の録音ファイルは編集せずそのまま保存する/文字起こしや内容確認は複製ファイルで行う/重大案件は通常の自動削除の対象から外す
  • 記録すべき情報:録音日時、場所、担当者、相手方、対応手段/録音開始前の経緯と、録音終了後に何が起きたか/相手の要求内容と自社の回答を分けて記載する
  • 周辺証拠との紐付け:同席者や目撃者の氏名を記録する/関連するメール、チャット、防犯カメラ映像を紐付ける/ファイル名や案件番号の付け方を全社で統一する

なお、より厳格な管理を行う場合の選択肢として、原本のハッシュ値を取得して記録し、後日の改ざんがないことを示せるようにしておく方法もあります。すべての企業に必須の対応ではありませんが、訴訟や刑事手続まで想定する重大案件では検討に値します。

録音だけでなく、メール、映像、対応記録、診断書など、法的措置に備えて確保すべき証拠の全体像は、カスハラで顧客を訴える前に準備すべき証拠で詳しく解説しています。

出典:裁判所「裁判例結果詳細(平成11年(あ)第96号 詐欺被告事件)」(2026年8月6日確認)

カスハラの録音は告知すべき?判断基準と文例

現場が最も判断に迷うのが「録音していると伝えるべきか」です。ここでは、録音の種類と目的から告知の要否を判断する枠組みと、そのまま使える文例を示します。

通常録音と個別の証拠保全では告知方法が異なる

企業の録音には、全通話を業務として自動録音する「通常録音」と、社内で定めた開始条件を満たした時点で特定事案について開始する「個別の証拠保全」の2種類があります。この2つを同じルールで運用すると、録音の開始条件や告知方法を現場が判断しにくくなります。

なお、以下に示すのは法律上すべての企業に義務付けられる手続ではなく、録音を安全に運用するための本記事における推奨ルールです。自社の業種や体制に合わせて調整してください。

項目通常録音(全件録音)個別の証拠保全
主な目的応対品質向上、認識相違の防止、抑止特定事案の事実確認、法的対応の準備
開始タイミング着信・応対の開始時に自動暴言、長時間化、同一要求の反復など、社内で定めた開始条件を満たした時点
告知方法音声ガイダンス、掲示、ポリシー等で事前に周知規程に沿って口頭で伝えるか否かを判断
社内承認導入時に規程で包括的に決定開始・継続に管理者や法務が関与
保存方法通常の保存領域で一律管理案件フォルダで隔離し原本を保全
保存期間業務上の必要性に応じて設定事案終結や法的請求の可能性を踏まえ延長
停止を求められた場合目的を説明し対応方法の変更可否を検討規程と承認手順に沿って判断し理由を記録

特に重要なのは、個別に告知しないという判断を担当者の独断で行わせないことです。社内規程の定め、管理者や法務の承認、証拠保全の必要性という3点を踏まえて組織として決め、その判断理由を記録に残してください。告知しない録音は、あくまで必要性が認められる場面に限った例外的な運用と位置付けるべきものです。

録音目的ごとに告知の有無を判断する

「抑止目的なら告知、証拠目的なら非告知」といった単純な二分法は実務では機能しません。全通話を対象とする通常録音では事前の周知を基本とし、個別事案の証拠保全では、録音の目的、緊急性、社内規程、管理者への報告手順を踏まえて、告知するかどうかを判断するのが現実的です。

録音の目的告知の考え方告知するメリット告知しない場合の注意点
応対品質の向上事前告知を基本とする利用目的の説明と整合する目的の公表が別途必要
顧客との認識相違の防止事前告知を基本とする後日の「言った言わない」を防ぐ顧客の不信を招きやすい
カスハラの抑止事前告知が効果的言動の沈静化が期待できる抑止効果が得られない
従業員の安全確保事前告知を基本とする会社が守る姿勢を示せる従業員が孤立しやすい
個別トラブルの事実確認事案ごとに判断する対応の透明性を保てる社内承認を得て判断理由を記録する運用が望ましい
裁判や警察相談の証拠保全必要性と承認を踏まえ判断正当な目的を説明できる担当者の独断に委ねないルールを設ける

いずれの目的であっても、録音を開始した事実と、告知したかどうかは対応記録に残してください。後から説明を求められたときに、判断の合理性を示せるかどうかが分かれ目になります。

個人情報保護法上は利用目的の通知・公表を確認する

通話内容から特定の個人を識別できる場合、その録音は個人情報に該当し得ます。顧客番号や電話番号など、他の情報と容易に照合して個人を識別できる場合も同様です。この場合、個人情報取扱事業者は個人情報保護法第21条により、取得した個人情報の利用目的をあらかじめ公表しているときを除き、速やかに本人に通知または公表する義務を負います。

誤解しやすい点:公的なQ&Aは電話録音を前提にしたものです
個人情報保護委員会は、顧客との電話の通話内容を録音する場面について、個人情報保護法上、録音している旨まで相手方に伝える義務は負わないとの考え方を示しています。ただしこれは電話録音に関するQ&Aであるため、対面での録音や映像を伴う録画についても、常に同じ結論になると一般化しないよう注意が必要です。

利用目的を明らかにしておく方法

  • プライバシーポリシー>:録音の利用目的を特定して公表する
  • 店頭・窓口の掲示>:来店客が確認できる位置に表示する
  • 音声ガイダンス>:通話の冒頭で利用目的とあわせて伝える

注意が必要なのは、当初特定した利用目的と異なる用途に使う場面です。カスハラ対応の記録として取得した録音を、社内研修の教材として使う、社外の関係者に共有するといった場合には、利用目的の範囲内かどうかを個別に検討する必要があります。社外へ共有する場合は、利用目的の範囲だけでなく、個人データの第三者提供に関する規律が適用されるか、弁護士への相談や業務委託などの例外・整理に該当するかも確認してください。あわせて、録音データが保有個人データに該当する場合には本人からの開示請求(同法第33条)の対象になり得る点、利用する必要がなくなったデータは遅滞なく消去するよう努めることが求められる点(同法第22条)も押さえておいてください。

また、民間企業に適用される規律と、地方公共団体などの行政機関等に適用される規律は同一ではありません。自治体の窓口で録音を行う場合は、民間事業者向けのガイドラインやQ&Aをそのまま当てはめず、個人情報の保護に関する法律についてのQ&A(行政機関等編)で自組織に適用される規律を確認してください。「録音の告知義務がない」ことは「自由に録音し、自由に利用してよい」ことを意味しません。

電話・店頭・録音拒否時に使える告知文例

現場で使える形に落とし込んだ文例を4種類挙げます。いずれも、録音の目的、適切に管理すること、正確な事実確認のためであることを含める構成にしています。

1. 通常の電話録音アナウンス
「お電話ありがとうございます。応対品質の向上と正確な内容確認のため、この通話は録音し、適切に管理しております。取得した情報の利用目的は、当社ウェブサイトのプライバシーポリシーに記載しております。」

2. 店頭・窓口の掲示文
「当店では、お客様対応の品質向上と、従業員とお客様とのやり取りを正確に確認するため、必要に応じて応対内容を録音する場合がございます。記録は当社の規程に基づき適切に管理いたします。」

3. カスハラ発生後に録音開始を伝える文
「お話の内容を正確に確認し、社内で適切に対応させていただくため、ここから先のやり取りを録音させていただきます。記録は目的の範囲内で適切に管理いたします。」

4. 顧客から「録音するな」と言われた場合の切り返し文
「正確な事実確認のため、当社ではこのやり取りを記録しております。録音を伴う方法での対応が難しい場合は、書面での受付、または責任者からのご回答に切り替えさせていただきます。」

4の文例は、対応を打ち切るための言葉ではなく、記録を残せる別の手段に切り替えるための言葉です。「ご了承いただけない場合は」といった言い回しは、録音に相手方の同意が必要であるかのような誤解を与えるため避けてください。威圧的な表現や「録音を拒否するなら対応しない」と一律に突き放す表現も使わないでください。正当な苦情を述べている顧客に対しても同じ文言を使うことになるため、あくまで手段の変更として説明できる表現にしておくことが重要です。謝罪や補償を過剰に求められた場合の断り方や対応手順は、カスハラで謝罪を要求されたときの対応方法もあわせて参照してください。

出典:個人情報保護委員会「顧客との電話の通話内容は個人情報に該当しますか。また、通話内容を録音している場合、録音している旨を相手方に伝えなければなりませんか。」(2026年8月6日確認)

カスハラの録音を実務で機能させる4つの運用ルール

カスハラの録音を実務で機能させる4つの運用ルール

録音は、機器を導入しただけでは対策になりません。ここでは、規程・機材・データ管理・報告フローという4つの側面から、社内で回る運用の作り方を解説します。

ルール1 録音の目的・対象・開始条件を社内規程に定める

現場が迷う原因のほとんどは、判断基準が文書化されていないことにあります。担当者が毎回その場で考えるのではなく、規程で先に決めておくべき項目は次のとおりです。

  • 目的と対象範囲>:録音の目的/対象となる部署・窓口・場面/全件録音か一定条件で開始するか
  • 開始・停止の判断>:録音開始の判断基準/担当者が単独で開始できる範囲/管理者承認が必要なケース/録音を停止する条件/顧客から異議を受けた場合の対応
  • 録音後の取扱い>:報告先と報告期限を含む報告フロー/録音データの目的外利用の禁止

ここで押さえておきたいのが、法改正との関係です。2026年10月1日施行の改正労働施策総合推進法により、カスハラ防止措置がすべての事業主の義務となり、2026年2月26日には「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)が公布されました。指針は、方針の明確化と周知・啓発、相談体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応、悪質なカスハラの抑止のための措置などを求めています。

誤解しやすい点:カスハラ対策の義務化=録音の義務化ではありません
指針では、顧客等とのやり取りを録音・録画することが、カスハラへの対処の内容の具体例の一つとして挙げられており、その際は個人情報保護法等を遵守し顧客等の個人情報を適切に取り扱うべきことも示されています。裏を返せば、指針は録音を選択肢の一つとして示しているにとどまり、録音すること自体を一律に義務付けているわけではありません。「義務化されたから録音が必須になった」ではなく、指針が求める事実確認・事後対応・再発防止を実行するための手段の一つとして位置付けてください。

指針が企業に求める措置や、録音・録画以外に整えるべき対応を確認したい場合は、カスハラ防止指針で企業に求められる対応もあわせて参照してください。

録音の開始条件、保存ルール、報告フローを含む社内マニュアル全体の作り方は、カスハラ対応マニュアルの作り方で詳しく解説しています。あわせて、厚生労働省のハラスメント対策総合情報サイト「あかるい職場応援団」でも、カスタマーハラスメント対策企業マニュアルやポスター等の資料が無償で公開されています。

ルール2 電話と対面で録音方法を使い分ける

録音手段は、場面によって適するものが異なります。特定の製品ではなく、方式ごとの特性から選定してください。

録音方式適した場面自動録音音声の明瞭さデータ管理主な注意点
固定電話・ビジネスフォン店舗や事業所の電話対応機種・接続機器による安定している機器単位で分散しやすい保存容量と上書きに注意
クラウドPBX・CTIシステムコールセンター対応サービスでは可能安定している一元管理しやすい権限設定の設計が必要
ICレコーダー店頭・窓口・訪問対応原則手動。音声検知機能を持つ機種もある設置位置に左右される手動での取り込みが必要紛失と取り込み漏れ
業務用スマートフォン訪問対応や外出先端末・OS・アプリ・電話システムによる環境に左右される端末内に残りやすい私物端末との区別が必須
防犯カメラの音声記録店内での常時記録対応機種・設定による周囲の音を拾いやすい映像とあわせて管理撮影範囲と掲示の整合

自動録音の可否は機種やシステム構成によって異なるため、導入前に必ず自社の環境で確認してください。対面対応が多い職場では、常時稼働している電話録音だけでは記録が残らない場面が生じます。窓口にどの方式を配置するかを、業務の実態に合わせて決めてください。なお、担当者の私物スマートフォンへの保存は、紛失、退職時の持ち出し、クラウドへの自動同期といったリスクを伴うため、原則として避ける運用を検討することをおすすめします。

ルール3 保存期間・原本管理・閲覧権限を定める

録音データは、残せば残すほど良いものではありません。管理できない量を抱えることは、それ自体が情報管理上のリスクになります。

保存期間は、通常録音とトラブル案件の録音で分けて設計してください。個人情報保護法は保存期間を一律に定めておらず、利用する必要がなくなった個人データは遅滞なく消去するよう努めることを求めています(第22条)。したがって「何年間」と一律に断定するのではなく、利用目的、業務上の必要性、法的請求が生じる可能性などを踏まえて自社で決め、その根拠を規程に残す形が適切です。

管理面で定めておく項目

  • 原本と加工データを区別する>:文字起こしや編集版と分けて保管する
  • 管理責任者を明確にする>:部署単位で責任者を指名する
  • 閲覧範囲を限定する>:閲覧できる部署・役職を定める
  • 閲覧履歴を残す>:誰がいつ確認したかを記録する
  • 削除ルールを定める>:期間終了後の消去方法と、重大案件の削除停止

あわせて、漏えいが起きた場合の報告・調査・本人対応のフローも事前に決めておいてください。録音データは、顧客の音声だけでなく、他の顧客の情報や社内の機密情報を含んでいることがあり、漏えい時の影響が大きい情報資産です。

ルール4 録音を報告・判断・再発防止につなげる

録音を取っただけで終わっている企業は少なくありません。録音が対策として機能するのは、次の流れに組み込まれたときです。

ステップ実施内容ポイント
1. 録音規程に沿って開始する開始理由も記録する
2. 対応記録作成経緯と要求内容を整理する事実と評価を分ける
3. 管理者への報告定めた期限内に報告する担当者に抱えさせない
4. 該当性の判断カスハラに当たるか検討する正当な苦情と区別する
5. 対応方針決定今後の対応と窓口を決める必要に応じ外部連携
6. 従業員ケア被害者への配慮を行う二次被害を防ぐ
7. マニュアル更新基準と手順を見直す実際の事案を反映する

このフローで特に注意したいのが、4の判断です。録音が存在することだけを理由にカスハラと決めつけてはいけません。指針も、顧客等からの苦情のすべてがカスハラに該当するわけではなく、社会通念上許容される範囲で行われたものは正当な申入れであると明示しています。正当な苦情とカスハラを分ける具体的な判断軸は、カスハラとクレームの違いを判断する5つの基準で詳しく解説しています。

判断にあたっては、顧客の要求内容、従業員側の対応、発生に至った経緯をあわせて確認し、重大度に応じて法務・警察・弁護士への連携を検討します。社内窓口の整備方法や、警察・弁護士・行政機関などの使い分けは、カスハラ相談窓口の作り方と社外の相談先を参照してください。6の従業員ケアでは、被害を受けた従業員に何度も音声を聞かせないなど、録音を扱う過程で二次被害が生じないよう配慮が必要です。

録音に限らず、カスハラ該当性の判断、発生時の初動対応、企業としての対策状況をまとめて確認する場合は、カスハラチェックリストも活用してください。

よくある失敗例

  • 担当者の私物スマートフォンに保存している
  • 元データを上書き編集してしまう
  • 録音日時や案件名が後から分からなくなる
  • 保存期間を決めずに蓄積し続けている
  • 関係のない従業員が閲覧できる状態になっている
  • 録音があることだけでカスハラ認定してしまう
  • 音声を社内研修で無断共有している
  • 録音をSNS対策や広報対応と連動させていない

なお、録音機能を導入するだけでは、カスハラ対策としては不十分です。開始条件、保存期間、閲覧権限、報告フローまでを文書化して初めて、現場が迷わずに動ける状態になります。自社で規程を整備する場合は、本記事のチェックリストと社内規程項目一覧をそのままたたき台として活用してください。規程の整備、対応マニュアルの作成、従業員研修、相談窓口の設計について社内で人手が足りない場合は、社会保険労務士や弁護士などの専門家に相談する方法もあります。

出典:厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号/2026年8月6日確認)

顧客に録音・撮影・投稿されたときの対処法

顧客に録音・撮影・投稿されたときの対処法

録音をめぐる相談は、自社が録る側の話だけではありません。ここでは、顧客から録音・撮影され、その内容を公開された場合の初動対応を整理します。

顧客による録音を一律に止めるのは難しい

顧客が自分とのやり取りを録音している場合、その顧客も会話の当事者です。第1章で整理したとおり、当事者による録音は原則として直ちに違法とはならないため、中止を求めても必ず応じてもらえるとは限りません。

このとき最も避けたいのは、録音の有無をめぐって現場で押し問答になることです。対応が長時間化し、その様子自体が記録に残るという悪循環に陥ります。次の対応を現場ルールとして共有しておいてください。

  • 押し問答を避ける>:録音の是非を現場で争わない
  • 管理者へ引き継ぐ>:担当者だけで判断させない
  • 自社でも記録する>:同じ場面の対応内容を残す
  • 話す内容を絞る>:機密情報や他の顧客情報に触れない

特に4点目は見落とされがちです。会話に他の顧客の情報、社内の機密情報、他の従業員の個人情報が含まれると、それが録音され外部に出る可能性があります。録音されている場面では、答えられる範囲をあらかじめ限定しておくことが、情報管理の観点からも重要です。

撮影・公開は場所や対象、投稿内容によって対応が変わる

撮影されること自体と、それをSNSに公開されることは、別の問題として扱う必要があります。撮影については、施設内の撮影ルールをあらかじめ定めて掲示しておくことが出発点です。他の顧客や従業員が映り込む撮影、バックヤードや立入禁止区域の撮影は、明確に禁止しておくべき類型といえます。公開については、従業員の氏名・顔・音声が出ている場合、虚偽の説明が付されている場合、会話の一部だけを切り取って事実と異なる印象を与えている場合などに、名誉やプライバシーの侵害といった問題が生じ得ます。

ただし「撮影であれば必ず中止させられる」わけではありません。掲示やルールを根拠に中止を求めることはできても、相手が応じない場合に強制する手段があるとは限らないためです。応じてもらえない場合は、その場で解決しようとせず、管理者への引き継ぎなど、あらかじめ定めた次の手順に移ります。撮影の中止や退店の要請に応じず業務に重大な支障が生じている場合や、暴行・脅迫・器物損壊など犯罪に該当し得る言動がある場合は、社内基準に従って警察への通報を検討してください。厚生労働省の指針でも、警察への通報は暴行、傷害、脅迫など犯罪に該当し得る言動への対処例として示されています。

録音されている前提で対応し、組織として記録を残す

現在は、対応の様子がいつ記録され公開されてもおかしくない環境です。したがって、録音・撮影されているかどうかにかかわらず、公開に耐える対応を標準にしておくのが最も確実な備えになります。

現場での話し方としては、事実と推測を分けて話すこと、その場で断定や約束をしないこと、過度な謝罪を避けること、対応できない要求については理由を簡潔に伝えることが基本です。あわせて、同席者を増やす、早い段階で管理者へ引き継ぐといった体制面の対応も、担当者を孤立させないために有効です。

実際に投稿された場合は、投稿のURL、画面、日時を証拠として保存したうえで、削除依頼やプラットフォームへの申告、必要に応じて専門家への相談に進みます。削除依頼の進め方が分からない場合は、総務省支援事業の違法・有害情報相談センターに無料で相談できます。ここでも分かれ目になるのは、自社の対応記録が残っているかどうかです。投稿が一部を切り取ったものであっても、対応の全体像を示す記録があれば事実関係を説明できます。

出典:総務省「インターネット上の違法・有害情報に関してお困りの方へ」(2026年8月6日確認)

【よくある質問】

Q. 相手に断らずに録音すると違法になる?
A. 自社の従業員が会話の当事者として録音する場合、相手の同意を得ていないという事実だけで、直ちに違法となるわけではありません。ただし「必ず適法」という意味ではなく、目的、場所、手段、録音後の利用・公開方法によっては問題が生じます。

Q. 録音していることを相手に伝える義務はある?
A. 個人情報保護委員会は、顧客との電話の通話内容の録音について、録音している旨まで伝える義務は負わないとの考え方を示しています。ただし、個人情報に該当する場合の利用目的の通知または公表は別途必要です。また、これは電話録音に関するQ&Aであり、対面録音や録画に一般化はできません。

Q. 無断で録音したデータは裁判の証拠になる?
A. 民事訴訟では、無断であることだけを理由に必ず排除されるとは限りません。ただし、提出できること(証拠能力)と内容が信用されること(証明力)は別に判断されます。発言者が特定できない、会話の一部しかないといった録音は、信用性が下がりやすくなります。

Q. カスハラ対策の義務化で、録音は必須になる?
A. なりません。指針では録音・録画がカスハラへの対処の内容の具体例の一つとして挙げられていますが、録音すること自体を一律に義務付けているわけではありません。事実確認や再発防止を実行するための手段の一つとして位置付けてください。

Q. 録音データは何年保存すればよい?
A. 法律で一律の保存期間は定められていません。個人情報保護法は、利用する必要がなくなった個人データを遅滞なく消去するよう努めることを求めています。利用目的、業務上の必要性、法的請求が生じる可能性を踏まえて自社で決め、その根拠を規程に残してください。

Q. 顧客に録音や撮影をされたら止められる?
A. 顧客も会話の当事者である場合、録音を一律に止めることは困難です。撮影についても、掲示やルールを根拠に中止を求めることはできますが、応じない相手に強制する手段があるとは限りません。現場で押し問答をせず、管理者への引き継ぎなど定めた手順に移ってください。

まとめ:カスハラの録音は社内ルールと対応フローを整えて運用しよう

カスハラ対応における録音の考え方を整理します。まず、会話当事者による録音は、無断であることだけを理由に直ちに違法とはなりません。ただし、録音の方法や、その後の利用・公開の仕方によっては問題が生じます。裁判で使うことを想定するなら、音声だけでなく原本・日時・経緯・対応記録をセットで残すことが不可欠です。また、全通話を対象とする通常録音と、特定事案で開始する個別の証拠保全は、告知方法も保存方法も分けて運用する必要があります。そのうえで録音を、カスハラ対策義務化への対応手段の一つとして、相談窓口や社内の報告フローと連動させてください。録音を始めればカスハラ対策が完了するわけではありません。録音は、事実確認と再発防止を回すための入口です。個別の事案における録音の適法性や、社内規程の整備といった法的論点については、弁護士や社会保険労務士などの専門家にご相談ください。まずは無料チェックリストで、自社のカスハラ対策がどこまで進んでいるか確認するところから始めてください。

次のアクション

  • 現在の電話・対面対応で録音できる環境を確認する
  • 録音の目的と開始条件を決める
  • 保存・閲覧・削除ルールを決める
  • 相談窓口とエスカレーションフローを整備する
  • 必要に応じて専門家へ相談する

参考情報・編集部注記

編集部注記
本記事は、カスハラ対策実務ガイド編集部が厚生労働省の指針、個人情報保護委員会のガイドライン・Q&A、裁判所が公開する裁判例、総務省の公表資料といった一次情報を調査し、録音行為の適法性・証拠能力・告知の要否・社内運用の4点に整理して再構成したものです(専門家監修なし・情報確認日:2026年8月6日)。記事内の表、チェックリスト、告知文例、運用ルールは、一次情報をもとに編集部が実務向けに再整理したものであり、法定の分類や様式ではありません。本記事が「推奨」として示す社内承認や記録の手順は、法律上すべての企業に義務付けられた手続ではありません。本文では、断定を避けて「原則として直ちに違法とはならない」「望ましいとされている」といった表現にとどめています。本記事は一般的な情報提供であり、個別事案への法的助言ではありません。個別の録音の適法性や法的判断については、弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

本記事は、以下の公的機関の一次情報をもとに作成しています。最新の内容は各リンク先をご確認ください。

更新履歴:2026年8月6日公開(令和8年厚生労働省告示第51号、個人情報保護委員会のガイドラインQ&A、最高裁判所平成12年7月12日決定の内容を反映)。指針の改正、Q&Aの追加、関連する裁判例の公表があった場合は本記事を改訂します。